翠玉の章 12話 優雅な貴人とスイーツと私。ときどきカナタ。
「本日は早朝からお楽しみでしたねぇー?おふたりさん
ホテルのテラス席でアフタヌーンティーを楽しみながら、恨みがましい目で皮肉たっぷりのお出迎えをしてくれたのは、
カナタの調子がもどり、のんびり
ホテルへ帰りついたのはお昼をすっかり過ぎていた。
広い庭園を抜けた先にエントランスがあるのだが、その両脇にはテラス席があつらえてある。
エントランスに行く時に必ず目につくところにリュートは待ち構えていた、ようだ。
「僕だけ仲間外れなんてひどくなーい?」
「リュート君…あなたは絶対、邪魔しますよね?」
ぷんぷん拗ねる貴人を、
カナタはばっさり切り捨てる。
「うーわ!えっち!!カナタのえっち!!好色一代男!!!!」
ぺいぺいっと虫を払うようにカナタを扱うリュートだったが、
私に向かっては180度態度を変える。
「このエロ商人に連れ回されて疲れたでしょ?
「私は終始紳士ですが。」
カナタの抗議はスルーして、リュートは見惚れる所作でもてなしてくれる。
「ささ、座って
僕が手ずから入れた紅茶、飲んで飲んで♪お菓子も好きなのつまんで~!どれも美味しいよ」
カナタにはイーッと威嚇しながらも、
席をすすめてお茶を淹れてくれた。
「いい匂い…」
琥珀色の澄んだ紅茶。
茶葉のことはよくわからないけど、ホッとする香り。
ケーキスタンドに並んだ美しい
マカロン、フィナンシェ、スコーン、カヌレ、ケーキ…サンドイッチも!
甘いとしょっぱいの無限ループに囚われる…
どれも煌びやかなスイーツ…美味しそう…
「わぁっ♡嬉しい!リュートありがとう~
どれから食べようかなぁ♡」
どれも滅多にお目にかかれないスイーツで、思わず笑みがこぼれてしまう。
が。はたと気づく。
「…お茶会ってマナーとかあるよね?
私こんな格好だし、ここにいていいのかな」
自分のくたびれた服に目を落とし、膝に置いた拳をギュッと握った。
下町とは違う素敵なスイーツに、
季節の花々で整えられた美しい庭園。
優美で特別な空間にも思えた。
高級ホテルで、テラスで、
いうなればここは
私の存在はただでも浮いている。
身の置き場がなく、所在なさげに小さくなっていく私。
「カナター?」
「……わかってます。」
そんな私の様子に、リュートは咎めるようにカナタを見やった。
「いいんだよぉ、カナタみたいなムサイ野郎と違ってハルちゃんはいるだけで癒しなんだから!
そんなの気にしないで楽しんでほしいな。
ほら、これ美味しいよ、あーん」
「!」
ぱくっ。
肩を落とす私の口に、無理矢理一口大のケーキを突っ込まれた。
つい、条件反射で……
隣のカナタの圧が怖い。
だが。
「美味っしいぃ……♡」
口の中にに広がる優しい甘さに舌が蕩ける…
幸せの味…
「この野郎…」
口調も乱れ青スジ立てながら私達のやりとりを見やるカナタに、
その様子を見て大変満足そうなリュート。
「幸せ……」
「そうそう、そのお顔を待ってたよ
ハルちゃんの為のスイーツなんだから、美味しく食べてもらえたら本望だよ~」
「嬉しい、ありがと」
私に気後れさせない気遣いが嬉しくて、素直に礼を述べる。
「また餌付け…」
フンッ、と勝ち誇った顔でカナタを見下すリュートに、カナタは苦い顔をしながらカップに口をつける
「カナタってばちょーっと気が利かないんじゃなーい?
それに、ハルちゃんと親交を深めたいのは僕だって同じだよー?
置いていかれる人の気持ち、考えたことないでしょ?」
洗練された所作でマカロンを齧りながら文句をつらつら並べたてる。
うん、上品な貴婦人みたい……かな?
貴婦人……
「ご、ごめんね??私はリュートはいいのってきいたからね!!」
「ハルちゃんはいいんだよぉ~、
カナタばっかりずるいよねぇ。
…ねね、今度は僕とデートしようよ?
色々連れていきたいお店もあるしぃ~」
「デ、デート?」
口にしたケーキを吹き出しそうになった。
「……リュート君?いい加減にしてください」
地の底から這い出るような怒りを滲ませるカナタ。なかなか不穏ではあるが、
全く動じずリュートは笑顔で受け流す。
(なんか、風向きが…)
「ハナ」
「はひ?」
(嫌な予感)
「行きましょう」
ドス黒いオーラを纏っていらっしゃる…
「まだ、食べてるぅ…」
まだケーキ2個しか食べてない…
「行きますよ、ね?」
にっこり。
有無を言わせない圧力に私は抵抗も許されず。
「………はい」
後ろ髪を引かれながら
「いってらっしゃ~い」
そんな私たちをひらひら~っと手を振り見送るリュートは、大変満足そうなお顔をなさっていた。
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