翠玉の章 7話 選択できない選択肢って、意味ある? 後編

時は少し遡る。


「お嬢さん。

牢獄と私、囚われるならどちらが良いですか?」


「究極の質問!どっちも嫌です!」


「困りましたね。選択肢はこれしかありませんので」


「私を解放するって第3の選択肢があってもいいんじゃないかと…」



恐る恐る希望を口にしてみたが、ニコッと微笑み



「……牢獄は春でも寒くて冷たいでしょうね。余罪もたっぷりありそうなあなたなら、鞭打ちくらいじゃ済まないかもしれないな」

「しかも看守は男ばかりだ。君のような若くて可愛い子が入ったら…

ーーーどうにかなってしまうかも、しれないね?

囚われの君を思うと憐れでならない」


黒いオーラがダダ漏れてきそうな圧でつらつらと、カナタ。


「…どっちにしても囚われているんですけど」


「ふふっ、そうですね。

どちらにしても逃げ場がないのだから、

私に囚われてくださいね」


軽口を叩きながらも私を見つめる瞳だけはとても優しい。

あの翠玉エメラルドの瞳に私が映ると、強く出られない気にさせられる。


「目が合ったが運の尽き…」


このような流れで私に拒否権はなく

否応なく連れていかれる羽目になるのであった。


・・・・・


(その後、はぐれていた連れのもう1人の美男子イケメンリュートと合流して、

ここに連れてこられたと言うわけで)


(お金持ってそうとは思っていたけど、まさかここまでとは)


『仕事』するならカモさん選び放題!な環境だけど


高貴なカモの群れに丸腰で放り込まれたら、こちらの方が淘汰されてしまうわ。

 

(つまりは、場違いが過ぎるのでいたたまれない…)



「今日は疲れましたね、部屋に戻りましょう」

「そうだね。…くれぐれも!無理強いはしないように!!

はやまっちゃダメ!焦ってもダメだよ~?」


面白半分で囃し立てるリュートに、呆れた視線を投げかけるカナタ。


「リュート君とは違いますよ、ご心配なく。」


「あ~怖い怖い。じゃあハルちゃん、また明日ね!おやすみ~!」


「はい、おやすみなさい」


カナタとリュートのホテルの部屋は隣同士だが

私が知っている安宿と違ってドアの間隔はずいぶん離れている。


「あ、そうだハルちゃん」

「はい?」


自分の部屋に向かおうとして、リュートは思い出したように振り返る。

いたく真面目な声色に私はちょっとたじろいた。


「君って、よく似た姉か妹いない??」


「………」


「どうなんだろ?わからない。」

私に関する記憶は名前以外ないので、こうとしか答えられない。


「ふーん、そっか。苦労したんだね…変なこと聞いてごめんね、今度こそおやすみ~!」


何か思うことがありそうな顔をしつつも、追求はせず

いつもの軽いノリでにこやかに自室に向かった。


「リュート君がすみません。嫌なことを思い出させたでしょう?」


「いや、別に気にしてないよ」

昔の記憶がほとんど無いから、思い出すこともできなかったりするし。


(それよりもっと気になるのはこの状況だよ…)


「あの、やっぱり入らなきゃダメ…?

一応私も嫁入り前だし…ちょっと」


「牢獄のベッドはさぞかし寝心地はいいだろうね?」


「…ですよねぇ~」

あー、泣きたい。


真っ黒い笑顔で脅迫してくるカナタに勝てるはずもなく。


尻込みする私を有無を言わさずに

引っ張り込むように部屋に通されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る