翠玉の章 3話 出会いと誤算
(うん、あの人にしよう!)
私の視線は、少し先にある小間物屋に立ち寄り品定めをする、仕立てのいい服に身を包んだ青年に定まる。
周りの群衆から頭一つは抜きん出ている長身。
彼のまとう空気からして別物の様に感じる。
「へぇ、けっこう良いもの揃っていますね」
遠目に見てわかるのだから、まずは間違いなくお金持っている人なんだろう。
でも、賑わっているとはいえ庶民のエリア。
こんなところを堂々とお貴族様が闊歩するとも思えないが、物腰が丁寧で品がある。
お忍びなのかな?
かといって軍人さんでもなさそう…
少し長い前髪。栗色の髪が揺れる。
横顔だけしか見えないけど、涼しげな目もとに通った鼻筋。
程よくついた筋肉の均整の取れた体躯で、舞台役者みたいに整っている。
芸能の神様の祝福を一心に受けたような姿に
さっきから道行く女性がちらちらと、振り返ってまで二度見する。
若い娘はキャーキャー言ってる…
あ、たおれた。
(騒がれ慣れてるんだろーな…)
道すがらに黄色い声援が背中に届いているはずだけど、彼は気にするそぶりもなかった。
(大層なイケメンだけど役者さん…じゃないよね…?
若いのに貫禄があるっていうか…
仕事ができそうな感じ。
お金持ってそうだし…)
とりあえず、気づかれない程度に視線を散らしつつ、ターゲットを観察する。
(じ~~~~~。)
「ごめんね~カナタ、お待たせ」
店の軒先で商品を見ていた責年に、
奥から買い物をしたんだろう、包みを持った男の人がひらひらと手を振って青年に合図する。
「ああ。いいですよ。リュート君
買い物はすみましたか?」
「ふふ、この街で買えると思わなかったよ。彼女、喜ぶといいけど」
リュートは買い物の包みをぽん、と叩く。
「あなたの婚約者も、なかなか趣のある趣味をしていますね」
「全くだよねぇ、それがいいとこなんだけどね」
黄色い声援には反応すらしなかったが、リュートと呼ばれた彼の呼び掛けには即反応で笑いかけたていた。
「しかし…この人の多さには少々辟易します。
『色』に酔いそうだ」
終始顰めっ面の青年…カナタは心底嫌そうに吐き捨てた。
(連れがいたんだね。こっちの人はなんか、偉い人っぽい雰囲気…)
その人は、手入れの行き届いた銀色の髪がさらりと揺れる、垂れ目に紫の瞳の顔立ちの整った優男。
まとう雰囲気が優しげな中にも品がある。
連れと似た感じの上質な衣服に身を包んでいるのは同じだが
滲み出る育ちの良さは隠せない感じがする。
(間違いない。お忍びだね。お貴族様達の)
しかし。
(二人並ぶと…いっそう目立つ!!タイプの違う
私だって女の子だ。
でも、
人の流れを遮らぬよう自然に紛れる。
キラキラ感が天元突破している二人組の背後に気づかれぬよう細心の注意を払いながらまわった。
(右側がターゲットね!チャンスは1回。
追い越しついでにサクッといただいちゃおう)
(しかもこの人、無防備~)
こんな人混みの中で尻ポケットにお財布入れてるし。
まるで私にあげるというかのようだ。
不本意ながらもこの道に染まりそこそこ経っているもので、財布の気配には敏感だ。
コレはもう、ホクホクな予感しかしない。
(待っててね、私の財布ちゃん♡)
万が一の逃走経路を確認しつつ、タイミングを測り
私は一歩右にずれ、確実に尻ポケットに職人技をお見舞いした。
(盗った!)
予定通りターゲットの財布はゲットできた。
相手も気づいていない。
あとは何食わぬ顔で通り抜ける。
せっかくの
「緑…」
その彼の切れ長の双眸に、不覚にも思わず目を奪われた。
逆光に遮られてはいるけれど、はっきりわかる深い
時間にしてコンマ1秒だけど、囚われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます