翠玉の章 2話 はじまりのはじまり2
(さて。今日はどうしよっかな)
昨日は早々に切り上げたので、今日は少し早い時間から動き出す。
今日も変わらず、ここは人の活気で賑わっている。
(昨日みたいなボーナスゲームは期待できないよね・・・)
露天で買ったリンゴをかじりながら、壁に寄った私は行き交う人の流れに目をやった。
目線の先はちょうど、路地が分かれる交差点にあたる。
いざという時はいろんな方向に逃げやすいので、ゆっくり物色する時にはよくここら辺で『仕事』するのだ。
(細い脇道も充実してるから、土地勘のない人はうまく撒ける自信あるもんね。)
今私が身を置いているのは、
スコアリーフ王国の王都から離れてはいるけど、
海に面した港町、中堅地方都市エイリーフだ。
ちなみにこの世界、『魔法』が実在する。
体に宿る魔力を使い、適正にあった様々なことを起こせる力、らしい。
残念ながら私にはその才能はないが、選ばれた一部の人の中には大小の差はあれど魔力があるそうで、
その魔力があればさまざまなことができる。
小さくても欲しい。喉から手が出るほど。
(便利そうだもの。なにしろ、かっこいいよね!)
手のひらから黒い炎が出たり、魔法陣を駆使できたり…
私の中の厨二心が刺激される。
魔力持ちは貴族、平民平等にまれに出るらしく、身分や階級での差別はないようだ。
(ま、まれにしか出ないからどちらにせよ、アレだが。)
比較的平和な中堅国家、スコアリーフの国力が安定しているのは、その稀な魔法使いを多く抱えているからもあるそうだ。
魔力は国力そのものなので
その身に魔力を持って産まれたなら
国が手厚く保護してくれたことだろう。
職にだって困らない…
日々食い詰めている身としては
なんてうらやましい力なんだろうかと歯噛みする思いだ。
あと忘れてはいけないのはこの国、スコアリーフの始祖は時の神の眷属、らしく。
屋台骨を支える巫女姫様がいるとかなんとか…
予知の神託ができたり、過去に干渉できたり、と行った力を持っているらしい。
それを悪用されたら世界への影響も大きいので
当代の巫女姫様が誕生したら国で厳重に保護するそうで、
スコアリーフの聖女様的扱いになっている。
巫女姫様の力は魔法とは違う管轄の力で、大変神々しいお方らしい。
(まあ、どちらにせよ私には縁遠い話ではある。
底辺民に慈悲をくれ。)
港に近くなると海の香りが混じった潮風がさらに強くなる。
春の風がまた違う色を見せる。
海を越えて色々な国の、さまざまな人間が集うので、露店を冷やかして歩くだけでも面白い。
そのため私のような人間も容易く紛れ込めるというものだ。
(とはいえ、長くひと所には居られないんだけどね・・・)
職業柄、足がつくのは避けたいので、すこし滞在したらまた次の町に流れていく。
根なし草の身の上だから、リュック一つで事足りる。
(どこかに定着できたら、嬉しいけどな)
今の私には無理な願いだとわかっているけど、安心できる寝床が無いのは、想像以上にしんどいものだ。
私にある一番最後の記憶・・・
多分、7~8歳くらいだったろうか。
所々が焼き切れてぼろぼろな服を着て、
体のあちこちが傷だらけのひどい有様
なのに、心は何も感じないのが不思議だった。
(このまま朽ちてもいいか。)
そんな風に知らない街の片隅で
何日もぼんやり座り込んでいた私を、見かねて連れて帰ってくれた人がいた。
その人に、この世界で生きるための技術を教わった。
多くは語らないけど
スリや泥棒。
そんなのが生業のおじさんだったけど、
何もなかった私に、生きる術とぬくもりをくれた。
お父さんって、こんな感じかなと思っていたっけ。寡黙な人だったけどとても優しかったんだ。
ある日その人が、衛兵に捕まったか逃げ出したかは知らないが
共に暮らしていた住処に帰ってこなくなったときに、悟った。
私は1人で生きなきゃいけないってことに。
それから長い時間、人を欺きくすねて、
善悪なんか完全にマヒした世界で
泥を啜るように生きてきた。
心に蓋をして、作業だと思えば何も思わなくなる。
(とまぁ、とりあえず目先の事に集中しなきゃだよね。今日の獲物は・・)
芯になったリンゴを弄びながら、視線だけ光らせる。
(なかなかイイ感じのカモが何羽かいるね♪今日も期待できるかも・・・)
私の視線の先には・・・
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