第330話 手打ち。障害はない?
金の御子を討ち取って3カ月経った。
その間、白の御子の襲撃はなかった。本拠地も無くなっているし、文字通り路頭に迷っているのかもしれない。
ペラを伴って研究所を視察していたら、行政庁から使いがやってきて、行政庁に神聖教会の大主教が訪れてきたと報告があった。
ハジャルがああなって以降、ドリスも神聖教会の動きを掴めていなかった。
とにかく会って話をしようと思ったのだが、こういう時にはケイちゃんがいた方がいいので、先に屋敷のウーマに戻ってケイちゃんを連れて3人で行政庁に向かった。
行政庁の職員に案内されて応接室に3人で入ったら、赤い法服を着た男が椅子に座っていた。男のほかに3人男女がいて3人は男が座る椅子の後ろに立っていた。
赤い男は、部屋に入ってくる俺たちを見たら立ち上がった。
「神聖教会の総大主教は不在のため代理を務めるマルコと申します。」
「はあ。わたしはライネッケ領の領主のエドモンド・ライネッケ。まあ座ってください。
それで、用件は?」
外交儀礼的やり取りというものが、外交の世界ではあるのかもしれないが俺はそんなの関係ないしな。
「神聖教会のこれまでの非礼をお詫びするためまかり越しました」
そう言って赤い男、マルコは深々と頭を下げ、後ろの3人も頭を下げた。頭を下げるのは勝手だが頭を下げるのはタダだものな。
「詫びると言って頭を下げて、それでお終いですか?
そういえば3カ月前、金色の全身鎧を着た男が子のわたしを襲ったんですが、心当たりはありませんか?」
「金色の全身鎧の男というのは金の御子、フィン・カイザーのことだと思います。彼はそれより以前に行方をくらましており、こちらでも動きを把握していませんでした。申し訳ありません」
知らぬ存ぜぬを通すこともできただろうが、正直に認めたか。
「それとは別に白い鎧を着た女にも襲われたのだが?」
「それは白の御子、リナ・ノーマンです」
「金色の男は討ち取ったが、白い女は逃してしまった。そちらで
「できる限りのことはさせていただきます」
「できる限りとは?」
「神聖教会を破門した上、身柄を閣下に引き渡します」
「そうしてくれるならありがたいが、いつまでに?」
「なにぶん彼女もフィン・カイザーと時を同じくして行方をくらましており、連絡が取れないもので、期日は切れません」
「なるほど。神聖教会は下の者に勝手な行動をとらせ、その動向も把握していないわけだ」
「ひとこともございません」
「もとはといえば、そちらの御子が理不尽にもこのツェントルムで狼藉を働いたことが発端。でしょ?」
「はい。承知しています」
「それでこちらは警告の意味も込めてそちらの山の上の建物を壊したら、また御子がやってきて狼藉を働いた。それで今度はそちらの街を焼いた。ここまででおあいこでショ?」
「はい」
「そしたらまた御子がここにやってきて狼藉を働いた。わたしはどうすればいいと思います?」
「申し訳ありません」
「具体的には?」
「……」
「それじゃあ、わたしの方から。そうですねー。
賠償金で話を付けましょう。金額はフリッツ金貨100万枚相当の金ということことでいいかな。それくらいなら大神聖教会にとって大した金額じゃないでしょ?」
「いえ。教会の財政事情はひっ迫しており、とてもそのような大金はお支払いできません」
「毎年金貨10万枚で10年。利息はとりませんから、それくらいなら払えるでしょう?」
「……」
マルコは額の汗を拭いた。1年で金貨10万枚がきついのか? これはいい情報だ。締め上げれば、信者に無理難題を押し付けて信者が離れていきさらに財務は悪化する。負のスパイラルだ。しかし、神聖教会が団体として機能しなくなると一部がカルト化して地下に潜むと厄介だ。さすがに、1年で金貨10万枚程度では完全に機能しなくなることもないだろ。
「拒否されるならそれでもいいですよ。ただ、こちらもただやられっぱなしという訳にはいきませんから。当然ですよね?」
「分かりました。お支払いします」
「それはよかった。最初の1年分はできるだけお早くお支払いください」
「……。はい」
「お話はそれくらいですか?」
「はい」
神聖教会を代表するマルコは椅子から立ち上がり手下の3人を連れて部屋から出ていった。もちろん俺たちは椅子に座ったままだ。しかし、弱々しい歩き方だったなー。
「エド。少し可哀そうでしたね?」
「そうかなー。
手打ちにしようと思ってのこのこやってきたんだろうが、結局連中の交渉材料って何だったんだろう?」
「エドモンド・ライネッケは魔王ではない。と、信者に真実を伝えるとかでしょうか?」
「非を認めるとか言ってたから、それが交渉材料になると思っていたのかな? だとしたら相当おめでたいな」
「それくらいしか今の神聖教会には交渉材料といって何もないのではないでしょうか?」
「確かに、年金貨10万枚が厳しいようでは、交渉材料など何もなさそうだものな。
そういえば、今の男が神聖教会の総大主教は不在と言ってたから、総大主教はリンガレングに焼かれたって事だろう。自業自得だ」
「ところで彼らの今の本拠地はどこなのかな? さっき聞いておけばよかった」
「また焼かれるかもしれないと思って、聞いても答えなかったんじゃありませんか?」
「契約が不履行なら、また焼かれると思うものな」
「あれもこれも、連中がヨーネフリッツにちょっかい出したことが始まりだものな。
まあ、ヨルマン1世陛下がまだ生きてたら俺たちはまだヨーネフリッツ軍のお偉いさん止まりだったろうから、ヨルマン1世陛下は気の毒だけど俺たちにとってはある意味役には立ったんだけどな」
「もしヨルマン1世が存命だったら、いまごろエドはドリスと結婚していたかもしれませんね?」
「それはあり得るな」
「世の中なるようになって、今のわたしたちがあるわけですが、いつもわたしたちにとっていい結果に成っていると思いませんか?」
「それは感じている」
「でしょう。エドがドリスと結ばれなかったということは、ドリスとは縁がなくて他の誰かと結ばれるということだとわたしは思ってるんです」
「そうかもしれないけど、今のところ誰とも縁なんてないから、将来誰かと結ばれるにせよかなり先の話じゃないか?」
「そうでしょうか? 例えばエリカとエドは傍から見てもすごく仲がいいでしょう?」
「うん、エリカとは仲がいいけど、それって仲間って意味だし」
「エド。そういう風に自分に言い聞かせているだけじゃありませんか?」
確かに、チームの中で恋愛感情など持たない方がチームの運営上ベターであることは常識だし、リーダーとしてそこはハッキリ、キッチリけじめをつけるべきと思っているのも確かだ。
「俺は『サクラダの星』の時からその辺りのけじめはしっかりしようと思っていることは事実だけど、それはリーダーとして当然じゃないか?」
「エドはもうリーダーじゃないんですよ」
えっ!? 俺ってリーダーじゃないの?
「エドはただのリーダーじゃなく、今はライネッケ領の領主ですが、そして多くの国の盟主になろうとしています。いいかえれば、世界を背負って立つリーダーです」
「つまり?」
「つまり、気に入った相手がいれば早々に結ばれて子どもを作らなければならない義務があるんです。それと、エドとエリカが結ばれて、わたしたちのチームが揺らぐことはありません」
確かに。ケイちゃんがオーケーならあとはドーラとペラ。ドーラはエリカのことを慕っているし、ペラは俺に文句など言わない。何も障害はないって事か。
いやいや、簡単にそう決めつけていいのか?
うーん。俺たち5人以外から俺が文句を言われ、俺が考え直さなければならないような相手というと父さんと母さんだけ。
父さんは俺がエリカと結ばれたからと言って何か言うかといえば祝福こそすれ、文句などひとことも言いそうもない。そしたら母さんも一緒だ。なんと!
「周囲はともかくとしてエドはエリカのことを嫌いではないというより、大好きでしょ?」
確かに好きだし、信頼もしている。大好きと言ってもいいかもしれない。だが俺は精神年齢70歳の老人だ。そんなのとエリカが結ばれていいのか?
俺の方の障害はないとして、そもそも相手もある話。すっかりエリカ本人のことを置き忘れてたじゃないか。先走っていいものではない。
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