第331話 脱!
俺はタダのリーダーじゃなく、世界を背負って立つリーダーなんだから早く身を固めろとケイちゃんに言われた。
相手はエリカだ。相手にとって不足はない。いや、勝負するわけじゃないけど。
俺にすればもちろんウェルカムだが、あっちがどう思っているかが大事というか、エリカ次第。
ここで俺からアプローチして撃沈されたら、それから先、エリカとの関係をうまくやっていけるのか自信がないのも事実。と、弱音っぽいことを考えてしばらく黙っていたら。
「エド。心配ありません。ハイエルフのわたしが保証します」
「ハイエルフの保証? どういうこと?」
「わたしは人が真実を語っているかどうか見分けることができます。
それで、エリカに聞いたんです」
そういえばケイちゃんはハルネシアで官僚たちを面接していろんなことを暴いてたものなー。
「なにをエリカに聞いたの?」
「エドをどう思っているかって」
うわっ! 直球で聞いたんだ。
「そ、それで、エリカは?」
「エドのことは好きだって言ってました」
嫌いじゃなければ好きだろうな。こうやって何年も一緒にいるんだし。
「たったそれだけ?」
「はい」
「それだけでいいの?」
「はい。愛はいずれ冷めますが、好きは冷めません。結婚するのには愛より好きの方が大事なんです」
確かに一理ある。のか?
「好きは好きでいいとして、それでエリカが俺と結婚するとは限らないんじゃないか?」
「先ほどの言葉は、エリカに将来のことを踏まえてエドのことどう思っているのか? と、聞いたときに出たエリカの言葉です。
つまり、エリカは結婚相手としてエドのことを考えているということです」
しかし、そうならそうと早く教えてくれても良かったんじゃないか?
「それはいつ頃の話?」
「昨日です」
昨日でしたか。そうですか。それでいきなりケイちゃんが結婚の話を始めて、さっそく教えてくれたってわけか。ケイちゃん、ごめんなさい。
しばらく行政庁の応接で話をしていたのだが、そのあと3人で行政庁を出てウーマに帰った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3時過ぎにエリカとドーラが領軍本部から帰ってきた。
「エリカ、エドがエリカに話があるそうです」
「わたしに? って、エドはどこかしら?」
「エドは自室で待っています」
「執務室じゃなくって、自室? 何だろう?」
「エリカ、エドが待ってるから急いだほうがいいですよ」
「うん。何だろうなー? ……」
「エドのやることだから、エリカさんでも分からないよね」
「ドーラちゃん、エリカは実は分かっているかもしれませんよ」
「そうなの?」
「今まで、エドがわたしたち抜きでエリカひとりと話をしようとしたことってなかったでしょう?」
「うん。なかったと思う。それで? ……。えっ!? まさか!」
「それ以外にないでしょう?」
「そう言われれば。
二人ってもう何年くらい一緒なんだろ?」
「二人がサクラダに出てからですから、もう9年になりますね」
「もう、そんなになるんだー。って、わたしもロジナ村を出てそれくらいだった」
「一番年上のわたしが言うのも変ですが、ドーラちゃんは誰か意中の人っていないんですか?」
「考えたことないなー。
わたしのことはどうでもいいけど、二人が出てきたらどうすればいいの?」
「二人がちゃんと話せば祝福すればいいし、そうでなければ何も言わない。でしょう」
「分かった」
……
「よかったー。おめでとう!」
「うん。ドーラちゃん、ありがとう」
「ドーラ。ありがとう」
「二人ともおめでとう」
「マスター、エリカさん。おめでとうございます」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから1カ月。オストリンデンのハウゼン商会に行ってエリカのお父さんの承諾をもらったり、うちの父さんのところに手紙を書いたり。って結局それくらいで俺の準備は終わってしまった。あと、新居の手配だけはちゃんとしておいた。
新居はもちろんウーマの中だ。ウーマの中を改装して、俺とエリカのスイートを住居部分の2階に設けた。家族風呂も2階に完備されている。これまでの水タンク部屋は3階になり、甲羅の上のハッチまでの階段が伸びた。
改装状況をみんなで眺めていたのだが、視界がぼやけて頭もなんだかくらくらしてしまった。目をつむっていればよかった。
エリカの結婚準備はドレスを新調した程度だ。
結婚式といっても、結婚の報告をみんなの前でしたあと、内輪だけで気楽亭あたりでパーティーをしようと思っていたのだが、ケイちゃんに怒られてしまった。
特に誰を呼ぶ必要もないと思っていたが、ケイちゃんとドーラとペラが手配して、エルフの里の長老たち。大使殿を始めツェントルムに公館を置く各国大使たち。ドリス以下ヨーネフリッツの重臣たちが集まることになったようだ。
そういうことなので、結婚の報告と披露宴はドリス邸として作ったきりの使用されたことのない迎賓館の大広間で執り行なうことになってしまった。迎賓館はちゃんと維持されていたようで、傷んではいなかったらしい。
エルフの里の長老たちは自分たち用にカメに入ったあの強い酒を持参した。もちろん運んだのはエルフの若い衆たちである。
うちからは父さん母さんの二人が馬車でやってきた。エリカのうちからは、エリカのお父さんと跡継ぎのおにいさん。それに店の番頭さんたち。
結婚式というか結婚報告と披露宴当日。この日はツェントルム内の各酒場での酒代は領主持ちということにしておいたので仕事が休みの連中は昼から飲んでいる可能性が高い。
ツェントルム以外からの来賓たちは昨日までにツェントルムに到着して、迎賓館に宿泊している。
俺たち結婚しましたー! ってノリの結婚報告はさすがにできず真面目な顔をして結婚したことを披露宴に集まったみんなの前で報告した。結婚したといっても婚姻届をどこかに出すわけでもないので、気持ちの問題。さらに結婚したと口で言っただけで今のところ、
などと考えていたら式次第が進行していた。
「……。
それでは、新郎、新婦の門出を祝って、乾杯!」
乾杯の音頭はドリスだった。女王陛下にそんなことさせていいのか!? と、思ったのだが本人の希望だったそうだ。
その後、大使殿から順に各国の大使が祝辞を述べてくれた。内容はみな同じだった。
来賓たちの一連の祝辞の後、俺とエリカが一言礼を言い、それで式的なものは終わった。
それから披露宴は2時間ほど続いて終了した。
エルフの里の長老たちは飲み足りなかったようなので、別室に連れて行ってケイちゃんが相手をすることになった。
大広間から出ていく来賓たちにエリカとならんであいさつした。父さんと母さんが部屋から出ていくとき、母さんは普通だったが父さんが意味ありげな顔で俺の顔をじっと見つめて「頑張れよ」と小さな声でつぶやいたのだが。もちろん、そういう意味だよな。
あいさつが一通り終わったところで後は任せて俺とエリカは迎賓館を出て大侯爵邸のウーマのスイートに戻った。
さあ、まだ日は高いけど、これからお待ちかね。脱素人童貞ターイム!
いただきます!
……。
ごちそうさまでした。おいしゅうございました。
俺は悟ってしまった。
『恥じらいは最高のソースである』と。
翌日から新婚旅行というわけではなかったが、迎賓館に泊ってツェントルムから帰っていく来賓たちを見送った後、ウーマを駆ってサクラダダンジョンに向かった。
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