第329話 襲撃3、その後
エリカに俺の余った右腕のことは勝手にしろと言われたので、俺だけウーマから降りウーマが鎮座する屋敷の中庭の隅に穴を掘ってそこに俺の右腕を埋めてやった。最後に墓石代わりに鉱山のズリで形のいいものを置いておいた。
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。
そのうちそれっぽい木の苗を植えてやろ。
ウーマに戻って。
「エド。急に出て行ってなにしてたの?」
「中庭の隅に俺の右腕の墓を作ってた」
「なにそれ?」
「だから墓。捨てるわけにもいかないだろ?」
「確かにそうだけど」
墓づくりで汚れた手を洗面所で洗って居間に戻ってソファーに座っていたら、大使殿たちが風呂に入りに来た。ちなみに大使殿には勝手に屋敷に入って、ウーマのサイドハッチを開けて中に入るように言っている。ウーマはよくできていて俺が認めた人間以外ハッチを開けられないようだ。
大使殿が風呂に入る前にリンガレングが金の御子を討ち取ったことを大使殿たちに話しておいた。
たいてい大使殿たちは風呂から上がると遠慮して夕食前に帰っていくのだが、めでたく金の御子を討ち取ったのでお祝いを兼ねて今日は夕食を一緒に。と誘っておいた。一度は腕を失くした俺だが今はすこぶる気分がいいし今日は俺の誕生日でもあるし。
話し終わったあと、大使殿と大使殿の連れのエンマ・シュナイダーとハンナ・クラインの二人はエリカたちと一緒に風呂に入った。
俺は大使殿の連れのミューラーとシュミットの二人をソファーに座らせて、お猿さんではないがバナナのを一房二人の上に置き、俺とペラとで夕食の支度を始めた。
作り置きの料理も少なくなったし、昼食?でステーキを食べてしまったので、ステーキを焼いておくことにした。
10枚ほど厚切りステーキを焼いたころでエリカたちが風呂から上がってきた。
「いやー、いい湯だなー」。いろんな意味で。
「「そうですねー」」。二人もニヘラ笑いしている。
家臣として主人と仰ぐ王女殿下と時間差はあるにしても同じお風呂のお湯に浸かっているというのは得難い体験。というか、まずありえない状況だものな。しかも実証はされてはいないが、エキスは万能薬というか回春効果があるハズ。1回入れば健康寿命が1年は延びるんじゃないだろうか? 俺に限って言えば逆回春効果も疑われるが、この二人にそんなことはないだろう。
この二人がいる今はさすがに無理だが、桶にエキス湯を取って、空のポーション瓶にエキスを詰めてオークションに出せたら相当の高値で売れるのではなかろうか? 将来俺が落ちぶれたら商売にしても?
冗談はさておき。金の御子を討ち取って一安心だ。あいつだけは一線を画してたものな。残るは白の御子だ。量産タイプの赤、青、黒よりはできる感じだが、それほどの差はなさそうだ。量産タイプがまた湧いてくることもあり得るが、神聖教会がアノ有様ではそうそう湧いてこないだろう。
いい気分で風呂から上がって、一休みしてからテーブルに夕食を並べていった。
今日の夕食は、作り置きのハンバーグがメインで、それにトマトを入れた野菜スープ。これが結構人気がある。今日の飲み物はジョッキで乾杯したかったのでエールとした。つまみとして、ソーセージとポテトチップス。ポテトチップスも人気だ。
トウモロコシはあるのでポップコーンを試しているが膨らみがちょっと弱い。トウモロコシにも品種がかなりあるようだから試してみないといけない。実の皮が固いトウモロコシの品種を研究所の農業担当に探してもらえばいいかもしれない。
料理とエールのジョッキがテーブルの上に並べられ、全員が席に着いたところで。
「「かんぱーい!」」
大使殿たちには金の御子を討ち取ったことしか話していなかったので、俺の右腕が切り飛ばされたこととか、光る水薬を飲んだら腕が生えたとか話したんだが、信じてもらえなかった。
ケイちゃんだけは俺の血だらけの姿は見ているのだが、何も言ってくれなかった。ケイちゃんも含めてエリカたちは俺のスペア右腕を見ていなかったし、今現在俺の右腕は誰がどう見ても新しく生えてきたように見えないから仕方ない。と、言えばその通りなのだが、俺が冗談を言っていると思われたわけで実に心外である。
だからと言っていったん墓に埋めた証拠の品を掘り起こすわけにもいかず、大げさに言えば、俺は泣き寝入りすることになってしまった。
これでは、ほら吹き男爵ならぬほら吹き大侯爵さまだ。
午後7時過ぎに夕食は終わり、デザートとしてプリンを出した。プリンって言ってみればダシの代わりに牛乳と砂糖を入れた玉子豆腐だ。今では牛乳も容易に手に入るようになり、玉子も手に入るのでたいていのものを作れるようになっている。
生クリームは手に入ることは手に入るが、雑貨屋では扱っておらず、例の軽食屋で分けてもらう必要がある。今回のプリンには生クリームを使わずあっさりしたプリンにしている。
フリーザーがあればアイスクリームも作れそうだが、食材が傷まないキューブと食料庫がある関係で冷凍保存のニーズが全くないのでフリーザーがないんだよな。蒸気機関ができればコンプレッサーもできるのでそしたらフリーザーも作れるかもしれない。
ウーマに頼めばすぐにでもフリーザーくらい用意されそうだけど、お楽しみは後に取っておこう。俺の好みはバニラアイスだけど、バニラって何かの実だったような。そうそう手に入いらないだろうな。だからこそ食べたくなる。というか無性に食べたくなってきた。
翌日。金の御子を討ち取ったことをドリスに知らせるため手紙を書いた。内容は金の御子を討ち取り、残るは白の御子だけになったこと。軍に余裕があるなら、ズーリとハイムントをカルネリアから解放することを勧めておいた。昔だったら、ヨーネフリッツが動けばフリシアとドネスコが動いて邪魔をしたのだろうが、今回、大使殿にも、ドネスコの大使にもヨーネフリッツがズーリとハイムントをカルネリアから解放すると伝え了承を得ている。
ツェントルムからフリシア本国、ドネスコ本国にお伺いを立てるまでもなく了承を得たということは、ドネスコの大使もある意味全権を与えられているのだろう。
それにヨーネフリッツが動く=
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
金の御子を討ち取った俺は、金の御子の頭をキューブから取り出して塩漬けにでもして神聖教会に送りつけてやろうかと思ったのだが、あいにく神聖教会の本拠地を叩き潰してしまって送り先が亡くなっていたことを思い出してしまった。
『魔王ライネッケ』らしくていいと思ったのに残念だ。
ドリスからの情報によると神聖教会の総大主教と数名の大主教があの日以降行方不明で、現在確認されているのは大主教が3名だけということだった。
確実ではないがあの攻撃で総大主教を含め神聖教会のトップにかなりのダメージを与えたのは確実だ。
聖地が無くなった以上信者の巡礼も途絶えるし、このままいけば神聖教会は立ち枯れる。ザマーみろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます