第328話 襲撃2、右腕


 リンガレングは俺を襲った先ほどの殺気目がけて走り去り、俺は左手の中に出した暫定エリクシールのビンのフタを口で引っこ抜いて中身を飲み干した。


 飲んだとたん痛みが引いて腕の出血は止まった。自分でも痛々しい腕の切り口が少しかゆくなってきたと思ったら輝き始めその輝きが伸びていき腕の形をとった。光が収まったあとに俺の腕がよみがえっていた。脇腹の方は胴着の関係で光ったのかどうかは分からなかったが痛みはなくなったので回復したと考えていいだろう。

 暫定エリクシールはやはりエリクシールだった!


 俺の再生とは関係なくリンガレングが相手しているのは、予想通り金の御子だった。リンガレングの斬撃を受け流し、かわしながらも前回同様追い詰められているのが分かる。


 前回は謎のアイテムだか能力で逃げられてしまったが、今度はどうだ?

 もしアレが能力だったら、その能力を生かした攻撃が可能なわけで、そうしていないということは能力ではない。ないしは能力を使うには強い制限がある。と見ていいだろう。でも、おそらく能力ではないだろう。


 そろそろリンガレングが止めを刺すだろうと思って見ていたら、金の御子はリンガレングの斬撃をかわし切れずついにその斬撃を首にもろに受けて首が路面に転がった。

 さすがのリンガレングも首の後ろの付け根を狙う余裕がなかったようだ。それは仕方ない。

 盛大に首の付け根から血を噴き上げて金の御子の胴体が路面に倒れ、そこでも大量の血が首の切り口から路面に流れ出た。


「リンガレング。よくやった」

「延髄を切断できませんでした。申し訳ありません」

「問題ない」


 首無しの金の御子の体から鎧を引っぺがし、懐を探ったら、予想通りキューブを持っていて中にそれなりの金子きんすとアイテムを持っていた。

 俺の新たな右手は今までの右手と全く同じで違和感なく使えた。


 少し先に転がっていた金色のヘルメットの中から頭を取り出して顔をあらためたところ、年のころは40前の男だった。髪の毛は金髪でやや薄い。そのせいで40前に見えたが、30代の前半かもしれない。今さらどうでもいいか。


 リンガレングをキューブに戻して、金の御子関係のもろもろと俺の切り飛ばされた片腕をキューブに収めたのだが、路面には血溜ができている。俺の両手も血だらけの斧を触った関係で血だらけだ。

 キューブからタオルを出して両手の血を拭きとり、さらに水筒を出して手を洗って再度タオルで拭いた。

 街には専門の清掃人夫はいないので、近くの住人が通りの片づけをすることになっているのだが、こんなものの片づけは嫌だよな。

 俺は血溜の上に鉱山で出たズリをまいてある程度血を吸わせ、それを収納して。を、数度繰り返して道をきれいにしておいた。

 道を清掃する大侯爵閣下も斬新かもしれない。


 掃除が終わって一息ついていたら、警備隊が駆けつけてきた。

「閣下、おケガは?」

「ご苦労。血だらけに見えるが、ケガは治っているから大丈夫」

「それはどうも。それで賊は?」

「俺が御子と思われる賊をたおした。

 今後も今まで通り御子らしき者が現れたら、相手せずに報告だけでいいからな」

「はっ!」

 今回は何とか金の御子を討ち取ることができた。



 警備隊は見回りに戻り、俺は視察を中止して服を着替えるため屋敷に向かって歩いていった。

 道行く領民が驚く顔をして血だらけの俺を見るので、朗らかに笑って手を振ってやったら安心したような? いや危ない人を見ているような?

 

 屋敷に戻ってウーマの中に入ったら、ケイちゃんが拭き掃除をしていた。

「エド。視察はもういいんですか? って、いったいその血はどうしたんですか!?」

 俺の血だらけの格好を見て、ケイちゃんが大きな声を上げた。

 体中血だらけなんだから、それは驚くよなー。

「金の御子に襲われて、右腕を持っていかれた上に脇腹も切られたんだよ。金の御子はリンガレングに任せて昔3本だけ見つけた光る水薬があっただろ? アレを飲んだら腕は生えてきたし、脇腹も治った」

「光るポーションを飲んだら腕が生えてきた? 右腕を持っていかれたというのは右腕を切り飛ばされたってことだったんですか?」

「うん、きれいに持っていかれた。キューブに入れてるからケイちゃん見てみる?」

「いえ、結構です」

「ここに出したら血が垂れるしね」

「そういう意味じゃないんです」

 そりゃそうか。

「俺は血だらけだからシャワーを浴びて服を着替えるから」

「そうですね。わたしはお茶でも用意しておきます」

「ありがとう」


 脱衣室に入って血がべったりついた胴着とズボンを脱ぎ、血でビチャビチャになった下着を脱いで裸になった。

 ズボンは洗えば何とかなりそうだが、胴着と下着はダメだな。もったいないことをしてしまった。

 捨てるつもりでそれらをキューブにしまって浴室に入った。

 シャワーを浴びながら新しい右手を見たら、昔あったはずの傷痕はなくなっていた。黒子の数も少なくなったような、変わらないような。切り飛ばされた痕がないかと見たが、どこにも境目はなかった。不思議なものだ。新しい腕は日に焼けていないはずなのに日に焼けたような色なんだもの。

 斬られた脇腹にもなんの痕も残っていなかった。恐るべしエリクシール。


 俺のエリクシールはもうなくなったので、次回一人でいる時今日みたいな大ケガをしたら死んでしまうかもしれないが、逆に言えばこれから先これほどのケガを負うことはないのではないだろうか? なにせ志半ばで俺が倒れてしまえばレメンゲンが困るもの。


 シャワーを終えて、血だらけのズボンを洗濯機に入れて洗濯した。この洗濯機、革製品もちゃんと洗濯してくれるんだよな。


 浴室を出て体をきれいに拭いて新しい下着を着て胴着を身に着けズボンをはいた。

 すっかり元通り。ある意味致命傷を負っていたとは考えられない。血をかなり流した上に腕を生やした関係か、急に腹が減ってきた。

 ドライヤーで体全体を乾かして脱衣室を出た俺は、ケイちゃんにことわって早めの昼食を摂ることにした。

 メニューは牛肉のステーキ。それに付け合わせは揚げた皮付きジャガイモ。飲み物はケイちゃんが用意してくれたお茶。


「いただきます」


 ケイちゃんも食べるかと聞いたけれど、まだいいと言われたので俺だけテーブルで食事した。

 向かいにはケイちゃんが座っている。


 腹がここまで減って食事するのは初めてかもしれない。肉がうまい。

 今回のタレは和風大根おろしタレだ。これもみんなに大好評のソースだ。

 あっという間に一皿食べたので、もう一皿テーブルの上に出してソースをかけて食べ始めた。


「スゴイ食べっぷりですね」

「かなり血を流したし、腕も新しく生えたから体が食べ物も求めてるって感じなんだ。

 これほどお腹が空いたことはなかったし、これほど肉がおいしく食べられたのは初めてかもしれない」

「そんなに?」

「うん」


 ケイちゃんが驚く中、もう1枚ステーキの乗った皿を出してタレをかけて食べてしまった。

 大満足。


 一息ついたら、昼食の時間になったのでケイちゃんに何が食べたいか聞いたところ、先ほどの俺が食べているところを見て、お腹がもたれたそうで軽いものを所望された。

 なので、ハムとトマトを挟んだサンドイッチとかき卵を挟んだサンドイッチを出しておいた。

 玉子のある生活。素晴らしい。

 そういえば、わが領でも鶏を育て始めているので、玉子ももうすぐ自前に切り替えられるはず。


 食事の片づけを終えて午後からまったりしていたら、3時過ぎにエリカとドーラとペラが帰ってきた。


 警備隊から報告がエリカのところに行っていなかったようで、俺が襲撃のあらましを話したらペラまで驚いていた。


「まだ白の御子が残っているし、赤、青、黒も2代目になったわけだから3代目がやって来るかもしれない。油断はできない」

「それもそうだけど、エドを狙っているのは確かなんだから、これからは外を出歩くときは面倒でも鎧を着た方がいいんじゃない? あの鎧を着ていたら少なくとも腕も脇腹もケガはしなかったんじゃない?」

 おっしゃる通り。

「これから外に出る時は身につけるようにするよ」

「うん。でも光る水薬ってそんなにすごいんだ。

 エドが狙われているわけだから、わたしが持っている光る水薬、エドが持っていた方がいいよ」

「ありがとう。だけど俺が思うに、もし俺がこれからああいった攻撃を受けて負傷したとしても、今日のような致命傷は受けないと思うんだよ」

「どうして?」

「俺がこんなところで死んでしまったらレメンゲンが困るから。もし俺が光る水薬を持っていたら光る水薬でギリギリ治るほどの大ケガまでするけど、持っていなければダンジョン水薬で治るくらいのケガで済むと思うんだ」

「なんだか、分かるような分からないような」

「だけど、エリカはそういった意味でレメンゲン関係ないからケガの度合いに限度がないと思うんだ。だからエリカが光る水薬を持っててくれ」

「うーん。分かったような」

「そういうことだから。

 それはそうと今はキューブの中に入っている俺の右腕はどうすればいいと思う? いちおう墓くらい建てた方がいいかな?」

「エドの好きにして!」


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