第325話 再出撃
金の御子の襲撃を受けて危うくレメンゲンに魂を青田刈りされるところだった。危ない、危ない。
リンガレングが仕留めたと思ったが、金の獅子は何かのアイテムだか能力で消えてしまって行方知れず。
こちらは11名の死者と多数の負傷者を出している。
報復先とすればもちろん金の御子と同じく逃げ去った白の御子なのだが、いない者は仕方がない。
自動的に報復先は神聖教会ということになる。
神聖教会の中枢、ハジャルそのものを破壊してしまえば、御子も経済的に身動きできなくなるのではないか? ああいった連中って金銭感覚は狂ってそうだし経済力皆無に見えるし。
身をやつして追剥とか強盗になられても困るが、さすがにそれはないと信じよう。
あと考えられるのはどこぞの国に仕官するくらいか。少なくとも俺たちのことを知っている国はよほどのことがない限り連中を雇わないだろう。
「エド。報復しないとね!」
「もちろんだ」
「具体的にどうする?」
「金の御子と白の御子がどこに行ったのか分からない以上、追いかけようがない。
したがって報復先は連中の飼い主である神聖教会ということになる」
「ということは、またハジャルを襲うって事?」
「うん。今度は容赦せずあの辺り一帯を焼き払ってしまうつもりだ」
「リンガレングのアレ、やっちゃうの?」
「神聖教会に無関係な者もいるだろうし、神聖教会の下っ端なんかを道連れにするのはかわいそうだから、期日を切って退去勧告だけは出しておくよ」
「ドリスの送った密偵も潜んでいるものね」
「うん。期日には余裕を持たせるけど、期日が来たらドカンだ。
神聖教会も大きな組織なんだからゲルタでの出来事についてはある程度知っているだろうからタダの脅しではないことくらいわかるだろう。
神聖教会の上層部も逃げ出すんだろうが、人数いればそれだけ物入りになるのは確かなんだし。金目の物を持ちだしたとしても限度はあるだろう。西方諸国には神聖教会への不信が広がっているし、いずれ立ち枯れるんじゃないか?
神聖教会の中央が潰れれば金の御子も白の御子も経済的な支援が無くなる。あいつらどう見てもマトモな仕事ができそうもないから面白いだろ? そのくせ高いものじゃないと満足できないからすぐに金がなくなって路頭に迷う」
「それ、すごくいいと思う。
ハジャルを燃やしてしまったら何も残らないんでしょうけれど、それはそれでスッキリするわ」
俺ものちの世に宗教弾圧者として記されることになるんだろうが、エリカも名を残しそうだぞ。
俺の名まえでハジャルの神聖教会に対して退去勧告を出すつもりだったが、国王越しに他国に対して公式な外交を行っては明らかに越権行為なので、破壊理由と退去勧告をドリスからハジャルの神聖教会に送ってもらうよう手紙を書いた。破壊理由は神聖教会の手先によるツェントルム襲撃の報復だ。
ブルゲンオイストからハジャルまで使者の移動には1カ月半近くかかるはずなので、今から約3カ月後の5月15日を破壊期日と定めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
御子たちからの襲撃を受けて3カ月が経った。
エドモンドたちは知る由もなかったが、神聖騎士団たちはガレアから解放されカルネリア内の各駐屯地に戻ってきている。
帰還に際して、ガレアが占領していた国から輜重などを後払いの有償で提供してもらっており、神聖教会がその代金を支払うことになる。これにより神聖教会の財政は圧迫され、さらに2万の兵を養うため神聖教会の財政は出血状態に陥っている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
破壊期日の5日前。3500キロ先のハジャルに向けてウーマで進んでいけばちょうど期日にハジャルの郊外に到着できる。
後のことは行政庁の連中に任せて俺たちはウーマに乗ってツェントルムを出発した。
もし御子が襲ってきたら、相手にしないよう領軍にも厳命している。
今回の報復作戦には大使殿たちは置いてきており、ウーマの中にはオリジナルメンバーの5人しか乗っていない。
移動中、リンガレングをウーマの居間に出して、作戦について説明しておいた。
「了解しました。以前建物を破壊した丘を含めて『神の怒り』で周辺を焼き払うということですね」
「そういうこと」
「焼き払う範囲は市街地全部でしょうか? それとも市街の周囲も含め焼き払いましょうか?」
「あの辺り一帯と漠然と考えていたんだが、どの程度の範囲で焼き払うことができるんだ?」
「半径50キロは焼き払えますが、その場合、かなり危険ですので観測地点は爆心点から距離を置く必要があります」
「ということは、あまり遠いようだと距離の関係で目標が見えなくなるってことだな」
「推測で爆心点を定めることは可能ですが、もちろん正確ではありません」
「なるほど。いつぞやの凍らせて破壊するってあったじゃないか? あれはどうだ?
『神の鉄槌』は直接冷凍する関係で有効範囲がグッと狭くなります」
「ほかに都市を破壊するのに適した特殊攻撃ってないのか?」
「都市では収まらず一国を破壊する特殊攻撃があります」
「一国を破壊する?」
「それはたとえなんですが、有効半径が500キロを超えるためたいていの国は破壊されてしまいます」
「それはどういった攻撃なんだ?」
「爆心点を中心に半径5キロを一瞬で砂に変えてしまいます。その砂が限界値まで侵食していき最終的には有効半径内のすべてが砂に飲まれてしまいます」
「つまり最後には丸い形で砂漠ができる?」
「はい。ただ、途中に大洋がある場合、その部分は砂漠化されません」
「分かった。砂の浸食速度はどれくらいだ?」
「時速5キロで侵食していきます」
時速5キロといえば大人の歩く速さくらいだが、有効半径が500キロとするとそれが100時間。相当エグイな。
怖いもの見たさもあるからその砂化攻撃してやろう。さいわいカルネリアの周辺は沙漠地帯だ。よその国に迷惑は掛からない。ツェントルムに手を出した報いを受けろ。
「リンガレング。その砂の攻撃に名まえはあるのか?」
「はい。名まえは『神の裁き』です」
神聖教会の最期にふさわしい名まえではないか! って、やってることは魔王そのものだし。
ついでにウーマのステージの上で高笑いでもしてやろうか。
「リンガレング。有効半径500キロを超えると言っていたが、狭めることはできないのか?」
「爆心点の大きさの100倍まで侵食が続く関係で、爆心点の大きさを搾ればその分有効半径を狭められます。しかし、そうすると爆心点での破壊が弱まります。シェフのお勧めメニューは爆心点の半径5キロ、有効半径500キロです」
しかし、ハジャルを破壊するから退去しろと言ったが、だれも国そのものが砂漠になってしまうと考えないだろうから逃げた先はハジャルから良くて100キロだろう。
住民を皆殺しにはできないとなると、『神の裁き』ではなく『神の怒り』で焼き払うしかないか。
「退去勧告はしたものの、そこまで遠くに逃げた者は少ないだろうから、ハジャルの丘を中心に半径5キロの範囲で『神の怒り』で焼き払おう」
「了解しました」
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