第324話 金の御子
リンガレングに案内されて神聖教会の御子らしき死体を検分するため行政庁の建物の中に入っていった。
窓口のあるホールを抜けて、会議室と応接室の並びの反対にある各部門の事務室が並んだ廊下の先に死体が順に3つ転がっていた。
確かに赤、青、黒の革鎧を着ている。どの死体もリンガレングがよく使う延髄への一撃で仕留められているので死体はきれいなものだ。
「やっぱり御子みたいね」
「そうだな」
「キューブを持っていないか、調べてみないとね」
二人して3人の死体から革鎧を外してキューブがないか探ったが、持っていたのは硬貨の入った小袋くらいだった。
「さすがの神聖教会もキューブは種切れしたみたいだな」
「そうね。でもさっきの白い御子と、金の御子はきっと持ってるわよ」
「そうだろうな。この連中は2代目だけど金と白は初代だろうしな」
「絶対仕留めて領兵の仇を討って、キューブも回収しないとね!」
その意気込みは感心する。
防具と武器はいただいて、死体もキューブに入れておいた。
賊を埋葬してやる義理などないので、次にサクラダダンジョンの13階層に行くとき適当なところで投げ捨てれば十分だ。
仕事も終わったので、行政庁から出て、行政庁の職員に賊は片付けたから掃除をして業務に差し支えないようなら業務を再開するよう指示しておいた。
エリカは領軍に対しても同じような指示を出し、遺体を埋葬する前に遺族がいれば遺族が対面できるよう遺体を取り繕うよう指示していた。
公営墓地を郊外に用意しているので、彼らはそこに埋葬されるはずだ。
遺族に対しては行政庁から補償が支払われ、これからの生活補助なども支給されることになる。
指示を一通り終えたところでリンガレングをキューブにしまってウーマに向かって歩いていった。そのころには領兵たちも死体と負傷者を連れて撤収して、見物人たちも日常業務に戻ったようで広場の人出は常態に戻っていた。そしていつの間にか、屋台が戻ってきて店を開き始めていた。わが領民たちは実に逞しい。
などと考えながらウーマまで歩いていきサイドハッチに手をかけた。そこで、いきなり腰に下げたバトンがまた七色に光り始めた。
明らかな殺気を感じてとっさに体を逸らせたところで鼻先を剣が通過していった。
危ないところだった。
二の太刀を受ければそれまでなので俺は後ろに転がりながらレメンゲンを鞘から抜き、さらにキューブからリンガレングを俺と殺気の間に出してやった。
視線を上げたところ、俺に切りかかってきたのは金色の全身鎧を着た男?だった。金の御子に間違いない。
エリカは既に双剣を引き抜いて金の御子に向かって斬りかかっていた。そのエリカの双剣の高速剣戟を金の御子は容易に受け切っている。こいつ強い。
だが、リンガレングには勝てまい。さっきの一撃で俺を仕留めそこなったのがこいつの敗因だ。ザマーみろ!
「リンガレング、そいつをたおせ!」
エリカに代わってリンガレングが鋭く尖った2本の前足を金の御子に振るった。これで決まった! と、思ったのだが、金の御子はリンガレングの攻撃を手にした剣で受け止めた。
強いと思ってはいたが、予想以上の強さだ。とはいえ、少しずつリンガレングに押されている。時間の問題だ。俺とエリカは示し合わせたように金の御子が逃げ出さないよう左右に位置取りした。
10秒ほどリンガレングの連撃に耐えていた金の御子だったがとうとう受けきれなくなりリンガレングの前足の先端が金の御子の後ろ首を捉えた。かに見えたのだが、金の御子の姿はそこになくリンガレングの前足は金の御子を捉えられず空を切った。
こいつはニンジャか!?
「逃げられてしまった」
「リンガレングの攻撃を受け止めてたけど、そんなこと人じゃ無理よね?」
「そうだろうし、消えたこと自体が謎だろ?」
「致命攻撃を受けそうな時発動して登録した場所に一瞬で飛んでいけるダンジョンアイテムがあるって聞いたことがあるわ」
なにそのチートアイテム。
「そんなの使われたら絶対に仕留められないじゃないか?」
「ものすごく希少なアイテムなうえ、一度しか使えないそうよ」
テートアイテムだけあって使用制限がきついってことか。よくある設定ではあるがヤツがソレをいくつ持っているかは分からないものな。ただ、新旧の赤、青、黒の御子は持っていなかったし、白の御子が素直に退散したことから考えると、持っていてもせいぜい2個。おそらくさっきので最後と考えてもいいだろう。
「とにかく、ウーマに戻ろう」
「うん」
リンガレングをキューブにしまって改めてサイドハッチからウーマの中に入ったところ、ドーラを始めみんなハッチの近くに集まていた。そしてすぐにドーラが聞いてきた。
「どうだった?」
「行政庁を占拠していた赤、青、黒の御子はリンガレングが簡単にたおしたんだが、その後、白の御子に襲われた」
「それでどうなったの?」
「リンガレングが撃退したんだけど、そのまま逃げられてしまった」
「へー、そうなんだ。リンガレングから逃げられるってすごくない?」
「相当すごいと思う」
「だよね」
「それで、とりあえず安心してここまで戻ってきたところ、今度は金の御子に襲われた」
「なにそれ、恐いじゃない」
「危うく首を持っていかれるところだった」
「うわっ!」
「それでリンガレングを再度出して相手させたんだが、そいつはリンガレングの連撃にしばらく耐えてたんだ」
「うわーー!」
「さすがに耐えきれなくなってリンガレンの前足が金の御子の後ろ首を捉えた。と、思ったらそいつ消えてしまっていなくなってしまった」
「なにそれ?」
「ドーラちゃん、致命攻撃を受そうになった時発動して登録した場所に一瞬で飛んでいけるダンジョンアイテムがあるのよ。金の御子はそれを持ってたんだと思う」
「うわー。でもそれって、ものすごく貴重なアイテムだろうからそんなに数を持っているわけないよね?」
「俺もそう思う。良くてあと1つじゃないか?」
「だよね」
「とはいうものの、ペラなら何とかなるかもしれないが、あいつは俺たちじゃ勝てない。用心しないとな」
「分かった」「うん」
「そんなにですか?」と、こんどは大使殿。
「うん、ほんとに強い。連中は俺を狙っているようだから、大使殿たちが直接危害を加えられることはないかも知れないけれど、決して相手をしないようにしてください」
「はい」「「了解です」」
そういった話をしていたら、修理が終わったらしくちゃんと手首をくっつけたペラが奥から出てきたのでペラにも金の御子の話をしておいた。
「マスター。申し訳ありません」
「何が?」
「白の御子を仕留めきれず、あまつさえ戦線から離脱してしまいマスターを危険にさらしてしまいました」
「それは仕方ないだろ。気にしないでいいから」
「ありがとうございます」
フリシア公館前で大使殿たちを降ろして、その先の大侯爵邸前で俺たちもウーマから降りて屋敷の中に入り、中庭にウーマを出して乗り込んだ。
今回白と金の御子の襲撃を受け、どちらの襲撃前にもバトンが輝いた。そして今まで感じたことのなかった殺気のようなものを感じられるようになって結果的に俺は命拾いしている。
輪っかの無いとき、ドリスの戴冠式で金色に光ったのは意味不明だが、輪っかを付けて進化した後のバトンの効能って、コレなんじゃないか?
それもあるし、レベルアップした今、閉じていた13階層の柱の5階層へのエアロックが開くかも?
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