第317話 西方諸国情勢2
6月に入りしばらくしてジャガイモの収穫が始まった。思った以上に早い時期に収穫できた。さすが救荒作物。
トマトも青い実が鈴なりに生っていて、7月に入れば下の方からどんどん収穫できそうだ。
ジャガイモとトマトは大成功。ただ、ジャガイモもトマトもどちらもナス科の植物で連作障害がきつかったハズ。なんでそんなことを俺が知っているのかというと、自分でも分からない。
その日採れたジャガイモは、種芋を残して研究所の職員たちでおいしくいただいたようだ。8月に植えれば12月には収穫できる。と、思う。
そして7月になった。俺は23歳。
研究所では赤く生ったトマトを順に収獲していった。
俺たちは既にトマトを食べているので味は知っているのだが、研究所の連中は初めての味に驚いていた。
これから秋の中頃までトマトが収穫できる。
これからトマトを使った料理も領内で広まってくだろう。
その日、研究所から3時ごろ屋敷に戻ったところ、大使殿がいつもの4人を連れてやってきていた。
風呂に入りに来る時間はもう少し遅いのでどうしたのかと思ったら、真面目な話があるという。
それで、俺の執務室兼会議室で大使殿から話を聞いた。こちら側は俺とケイちゃんとペラ。
「今日の午前中にわたしのもとにフリシアンから書状が届きました。
内容は西方諸国のうち最も西に位置するユルクセン王国にガレアと名乗る異民族の軍勢が大挙して西の海を渡って襲来し、ユルクセン王国は彼らによってなすすべなく追い詰められているというものです」
「そのガレア軍勢の規模は?」
「10万ほどと言われていますが、その10万のうち半分は騎兵で占められているという話で、野戦においてユルクセン側は兵力差もあったようですが全く歯が立たなかったようです。
それと、神聖教会が救援のため3人の御子をユルクセン王国に派遣したそうです。それで彼らはガレアに撃退され撤退したとのことでした」
「残っている御子は金と白の二人のハズだから、3人の御子というのは2人の御子の間違いかな?」
「どうなんでしょう?」
大使殿は情報を取り次いだだけなので分かるはずないものな。
「それで、わたしのところにそういった情報が来たということは、ガレアがフリシアに迫った場合撃退してほしいということですね?」
「そこまで直接的なことは書状には書いてありませんでしたがおそらくそうなのでしょう」
「俺もフリシアの名誉貴族ですし、フリシアの東の国境沿いは名目上俺の領地ですから、一肌脱ぐのはやぶさかじゃありません」
「ありがとうございます」
「それで、具体的にはガレアはいつぐらいに攻め寄せて来そうですか?」
「彼らの侵攻速度が今のところ掴めていませんので、現地の間者からの後報を待ってから判断することになると思います」
「なるほど。
こっちから攻めていった方が手っ取り早いけど、神聖教会の息のかかった西方諸国を助けてやるのもちょっと嫌だから、様子見して神聖教会の影響力が十分落ちたあたりで出張ってみましょうか?」
「フリシアはライネッケ閣下の意向をどうこう言える立場ではありませんので、閣下はお考えの通り行動されて構いません」
「了解しました。続報が入り次第お知らせください」
「はい」
「ところで、昨年ダンジョンで見つけたダンジョンイモ。もう少ししたら今年2回目になりますが種芋を植えます。年内に収穫できるはずですから、ガレアを叩きだすついでにそれを西方諸国に持っていってみましょうか。
ガレアの侵入によって農地が荒れ、収穫が落ちた国では喜ばれるでしょう。もちろんフリシアにも提供しますよ」
「ありがとうございます」
「一度与えてしまえば影響力は一過性で終わるかもしれませんが、神聖教会の言う『大魔王ライネッケ』から施しを受ければ彼らも目が覚めるんじゃないかな」
「さすがはライネッケ大侯爵閣下。ガレアを駆逐するだけでも西方諸国に対する影響力は絶大になるでしょうが、食糧事情を改善するとなると影響力は民まで及び、ひいてはかの地での神聖教会の影響力は地に落ちるでしょう」
「ガリアについても、撃退したからといって本拠地に乗り込んで屈服させるわけじゃないから、再度の襲来だってありうるわけで。そうなれば連中からうちに頼って来るんじゃないかな。
そうなればしめたもの。うちに頭の上がらない国ができ上る」
「フリシアもそうなんですけどね」
「ハハハハ。
西方諸国がそうなればいずれ神聖教会も立ち枯れる。いいことづくめでしょう?」
「その通りです」
会議が終わったころ、エリカとドーラが領軍本部から戻ってきたのでさきほどの話を簡単に伝えておいた。
そのあと、女子たちは風呂に入り、残された男3人は女子たちが風呂から出るのを待ってそれから風呂に入った。
その日から1カ月に渡って大使殿から西方諸国の情勢を伝えてもらった。
その結果、ガレアの戦術と侵攻速度が大まかに分かってきた。
それをもとに
「ガレアの戦術は野戦では騎馬からの弓の射撃で敵を翻弄しつつ側面や後背を突いて一気に粉砕。
攻城戦では無理をせず城を囲んで補給を断つ。そうやって一歩一歩進んでいく。といった感じだな」
「騎兵の数が圧倒的な敵に対して野戦を選んじゃいけないけど、城にこもってもじり貧だから打つ手がないわね」
「その通りだな。
手堅い戦術だけど、侵出するには時間がかかるところが欠点だな」
「エドがガレアの総大将だったとしたら、どういった戦術を考える?」
「基本は同じなんだけど、小さな都市は放っておいて、地方の中核都市を陥としてから放っておいた小都市に降伏を迫る」
「なるほど。単独では生きていけない以上小都市は諦めざるを得ないものね。さすがはエド」
「口ではそう言ったけれど、ガレアから見てこの戦いが急ぐ必要のないものだとすると、今のガレアの戦術が最も理に適っているかもな」
「なるほど。つまり彼らの目的は敵をねじ伏せるというより領土を着実に増やすということね?」
「そう思うけどな。彼らの目的が何であれ、都市をこまめに陥としている以上侵攻速度は遅い。彼らがフリシアの国境に迫るには1年以上かかるんじゃないか?」
「そうね。フリシアの西隣の国の都が陥ちたあたりでわたしたちがフリシアの西まで進んでも十分間に合いそうね」
「その線で行けばいいんじゃないか? 途中でガレアの方針が変わっていきなりフリシアに向かって攻めてきても、救援依頼を受けてから到着するくらいはフリシアも持ちこたえるだろうし。大使殿には気の毒だが、ある程度国が荒れてもそこは我慢してもらうしかないだろう」
「うん。分かった。
エドって、そういうところしっかりしてるわよね。是が非でもとか何としてでもってないもの」
「無理しても仕方ないしな。
そうはいっても俺だって何かの義理があれば、無理もいとわないぞ」
「うん。それくらい分かってる」
「ドーラ。さっきから黙っているけど何かないか?」
「何もない。エドと本部長の話を聞いてたら、わたしの未熟さをすごーく感じちゃった」
「ドーラ。自分のことを未熟と感じたってことは、ドーラには伸びしろがあるってことだ」
「そうなの?」
「自分はもう十分成長していると思った時に人の成長は止まる。中には例外はあるだろうがそういうものだ」
「ふーん。エドって頭いいよね」
「そう見えるってことは、さっきと一緒でドーラはこれから頭がよくなる伸びしろがあるってことだ」
「そうだよね!」
ドーラも来春には二十歳だ。二十歳過ぎてから頭がよくなるかと言えば少し疑問はあるが少なくとも賢くなれるし賢くならなければマズい。
誰に言うわけではないが、人が生きていくうえで頭が少々いいより賢い方が何倍もいい。これは前世も含めて70年近く生きてきた俺が掴んだ真理だ。
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