第315話 ドリス戴冠式3
戴冠祝賀パーティーは王城の中庭で催された。今日は晴天だったから良かったが、雨だったら順延だったのか? その辺りは不明だ。
なんであれ、
大使殿のおつきの4人ともフリシア貴族の子女だし、身元もしっかりしているのは確かだし、俺が連れてきたようなものだから4人もパーティーへの入場が許されている。
俺たちが固まって一つのテーブルを占拠して飲み食いしていたら、いろんな連中があいさつにやってきた。
面倒ではあるが、立場上無視もできないし、不機嫌な顔もできないので適当に相手をしていた。どうせ再会することなどないだろうと高をくくって相手の顔も名前も覚えなかった。それでもペラがいたから、ペラはみんなの顔を覚えてくれたはず。将来何かあったとしても不都合はない。
あと、若い貴族だか、貴族の子弟があいさつにやって来るのだが、あからさまにエリカたちが目当てのようだった。上はどこぞの侯爵家の子弟から男爵家の子弟まで。ちなみにヨーネフリッツではヨルマン1世陛下の治世以降、公爵家は存在していない。
公爵家を立てるほどヨルマン本家に貢献した眷属がいなかったということだろう。
それはさておき。当主でなくその子弟ではエリカ・ハウゼン伯爵やケイ・ウィステリア子爵とつり合いは取れませんよ。それでも二人は大人の対応をしていたのだが、ドーラとペラはあからさまに無視していた。父さんがドーラのそんなところを見てうれしそうにしていたのだが、そのうちドーラだってどこかに行ってしまうんですよ。
そんな感じでうちの女子たちを見ていたら俺のところにも結構な数の貴族の娘がやってきた。見た目だけはよろしいのだが、薄っぺらいというか。どうもねー。食指が動かないというか。素人童貞を卒業できるチャンスなのは分かるが、ひと時の快楽を求めて手を出してしまうと俺の覇業が台無しななるという予感がひしひしとする。
大使殿については、そういった浮ついた感じの
そうこうしていたら、ドリスがおつきの3人とその他を連れて中庭に入ってきたようで拍手が沸き起こった。もちろん社会人の俺も拍手した。俺が拍手を始めたものだからエリカたちも食事の手を止めて手を叩いた。
ドリスが笑顔を振りまきながら、俺たちのところにやってきたので景気づけに『ドリス・ヨルマン1世陛下、万歳!』といきなり叫んでやったら、それが周囲に伝播してパーティー会場の中庭全体が万歳の嵐になってしまった。
こういったパフォーマンスは先にやったもの勝ちだから、誰もが負けじと大声で叫んだのだろう。悪心を抱く者は、こういう時にとっさに万歳が出ないもの。忠誠の証を示せるときに示すのは貴族として大切な処世術だ。
「ライネッケ大侯爵殿、ありがとう」
そう言ってドリスは笑って次のテーブルに回っていった。
1時間ほど飲み食いしていたら、腹もいっぱいになってきたし、そろそろおいとましようとエリカに聞いたら「そうね」と返事があったので俺とエリカはパーティー会場から抜けることにした。そしたら父さんと大使殿たちまでみんなついてきたので、そのままウーマまで戻ってしまった。
「父さんはどうするの?」
「
「みんな元気にしてるんだよね?」
「ああ。エドからもらった水薬を使わなくてもみんな元気だ」
「1年に1回、調子が悪くなくても病気用の水薬は飲んだ方がいい。知らないうちに病気になってることがあるから。足りなくなるようなら送るから俺のところに早めに連絡してくれよ」
「分かった。それじゃあな。
みんなもそれじゃあ」
「うん。気を付けて」
「「お気をつけて」」「父さん、みんなによろしくね」
「ああ」
ドリスにひとことことわって帰った方がよかったろうが、ドリスも疲れているだろうと思い、そのまま俺たちはツェントルムに帰ることにした。
ウーマの中に入って礼服から普段着に着替えた俺たちはいったんウーマから降り、ウーマは収納して城から市街に出ていった。
通りを歩いていると旧市街でも新市街でも、飲食店から店の前の通りにテーブルが出され、大勢の人が酒を飲んでいた。
王家の振る舞い酒なのだろう。相当な物入りだろうが、かつてのような戦争状態での物入りに比べれば微々たるものだ。これこそが平和の果実というのだろう。
市街を抜けて街道に出たところで時刻は午後4時だった。ここからツェントルムまでウーマで約5時間。ツェントルム到着は午後9時になる。その場でウーマをキューブから出してみんなで乗り込んだ。
お腹はいっぱいなので、各自好きな時に食べられるようバナナをテーブルの上に置いておいたところエリカだけ1本摘まんで食べていた。エリカ、バナナが好きだよなー。
到着前にいつものようにサンドイッチを出すつもりだ。
女子たちも酒を飲んでいたせいか風呂に入らなくていいというので、男子3人で風呂に入ろうとしたら、シュミットもミューラーも入りたくないというものだから俺だけ風呂に入った。
広い湯舟に一人浸かるのもいいものだ。
ふー。生き返る。
そうしたら、浴室の天井から雫が一粒垂れてきて俺の背中にあたって散った。
つめてエじゃないか。
俺が風呂から上がった時には各自自室で休んでいるようだった。
俺一人でソファーに座って寛いでいたらペラがやってきたので、何も話すことはなかったが二人で向かい合って座っていた。
なんであれ、ドリスのヨーネフリッツ王国はこれで一区切りだ。今のヨーネフリッツ王国は昔のヨーネフリッツ王国と比べて王領が多い分、国としてのかじ取りが容易なはず。
夜8時ごろ。サンドイッチを大皿に盛ってテーブルの上に置き、みんなを呼んだ。
ペラがお茶の用意をしてくれ、みんな揃ってサンドイッチを食べたがいくらか残ってしまった。もちろん余ったサンドイッチはキューブにしまっておいた。
後片付けをしてわちゃわちゃしていたらウーマはツェントルムに到着した。
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