第312話 サクラダダンジョン4。


 柱の1階層の真ん中の四阿で女神像に祈ったあとで見つけた輪っかをバトンにはめたら七色に輝き始めたのだが、その光が収まらなくなってしまった。仕方ないので今は輪っか付きバトンはキューブの中に入れている。

 それと、トマトとジャガイモを見つけてしまった。レメンゲンのおかげなのか、女神さまのおかげなのか。

 バトンのことは謎のままだが、トマトとジャガイモが見つかったことは大きい。単純に俺たちだけの食生活が豊かになるわけではなく、ライネッケ領、ひいてはこの世界全体にとってプラスに働く大発見だ。



 翌日。

 朝食を終えた俺たちは再度トマトとジャガイモを求めてジャングルに入り、かなりの量を収穫して帰路についた。

 ちなみに、ジャガイモはダンジョンイモ。トマトはダンジョン赤玉、ないし赤玉とエリカが命名している。


 そしてその翌日午前8時過ぎ、ウーマは12階層への階段下に到着した。

 途中、ペラがワイバーンを5匹仕留めたのだが、その時、殿下をステージに上げてやった。大迫力のペラの手裏剣攻撃を生で見た殿下は、迫ってくるワイバーンに腰がかなり引けていたのだが、俺が大丈夫ですとなだめ、ペラが最初のワイバーンを仕留めたところで立ち直った。


 四角手裏剣の横隔膜に響くような飛翔音をバックにワイバーンの頭が次々を吹き飛んでいくので、大使殿は「えっ? えっ!」とか言っていた。


 2、3階層で大使殿たちにモンスターをたおさせようと考えていたのだが、どうせならダンジョンワーカーの醍醐味である宝箱を手に入れさせてやろうと思い立ち、300階段を上って12階層に出たところで寄り道することにした。


「俺が扉を収納します。扉の先には弓矢を持った石像か剣を持った石像がいるんですが、弓矢を持った石像の場合、扉が無くなったら矢を射てくるので、飛んできた矢は剣で叩き落としてください。次の矢をつがえるのに時間がかかるので、その前に突っ込んでいって石像をたおしてください。剣を持った石像の場合は、そのまま突っ込んでいってたおしてください」


「わたしたちだけでたおすんですか?」

「はい。危ないようならペラが介入するから大丈夫です。

 ペラ、そうだよな?」

「はい。大丈夫です。矢も命中寸前で叩き落としますし、石像の剣が手足を切り飛ばす寸前で受けますからケガをすることはありません」

 ペラに任せておけば問題ないと思うけど、始めてなら怖いよな。ことに飛んでくる矢を叩き落とすのは。


「それじゃあ、やってみましょう。

 シュミットとクラインは剣を抜いて大使殿の前に出て。大使殿は一歩下がる」

 3人が位置取りをしたところで、

「3、2、1で扉を収納するので、気を付けて。

 3、2、1」

 扉がなくなったとたん、石室から弓の弦が弾かれる音がして二人の後ろに立つ大使殿に向かって矢が飛んできた。

 俺からいわせればかなり遅い矢だし、ペラからいわせればハエの止まるような矢なのだろうが、その矢に向かってシュミットが剣を振ったものの空振りしてしまった。

 大使殿は目をつむってしまっている。放っておけば死亡確定だ。

 大使殿の胸の前まで迫ってきた矢に横からペラの手が伸びてつかみ取ってしまった。

 さすがはペラ。

「矢はペラが処理したから、次の矢を射られる前に石像をたおさないとまた矢を射られるぞ。今度はペラでも間に合わないかもしれないぞ」

 そういって脅したら、大使殿まで剣を抜いて石室の中に突っ込んでいった。

 シュミットとクラインが数回剣を叩きつけたら石像は倒れて砕け散り、運よくその先に宝箱が現れた。

 石像に切りつけた二人の剣は刃こぼれしたかもしれないが、宝箱の中身でおつりがくるだろう。

「宝箱が見つかったから、それは3人の物。開けてみたらいい」

 カギ穴はなかったようでシュミットが宝箱を開けたら、ダンジョン金貨だった。

「おそらく2000枚入っている。1枚あたり普通の金貨3枚から3枚半の価値があるからそれだけで金貨6000枚だ。

 石像に切りつけたから剣は傷んだと思うがそれだけあればおつりがくるんじゃないか。

 その宝箱は3人のものだけど重いから俺がツェントルムまで預かっておくよ」


 金貨6000枚ともなればかなりの金額だ。失礼かもしれないがフリシア公館の1年間の予算なんて年間金貨1000枚もないんじゃないか?


 剣も傷んだついでだと思って、もう3回扉を収納して大使殿たちを戦わせたところ、1回は空振りだったが2回当たりが出てポーションが2箱手に入った。それも俺が預かっておいた。


 その辺りで見切りをつけ、11階層に上がってウーマに乗って泉を渡り、そこから6時間かけて渦を抜けダンジョンギルドに戻った。通常5時間で済む行程が6時間かかったのは途中で昼休憩を1時間取ったからである。



 買い取りコーナーに用事はないので、そのままダンジョンギルドから出ていこうと思ったら大使殿が、

「そこの食堂で軽く食事してみませんか? ちょっと興味があるんです」

 というものだから、みんなで雄鶏亭に入って行き、6人席に4人席をくっつけて8人で座った。

 大使殿たちの武器などは俺がキューブにあずかっており、エリカたちの武器は各自のキューブの中だ。


「これはめずらしい」と言って給仕兼店長のモールさんがやってきたところで適当なつまみとエールを頼んだ。支払いはお財布担当の俺だ。今回は接待みたいなものだしな。


「「かんぱーい!」」

「ジョッキがライネッケ領と同じで大きいです」

「じつはライネッケ領のジョッキの大きさはここのをまねたんですよ。

 ここもジョッキ1杯の値段は他所よそと一緒なんですけどね」

「さすがはダンジョンワーカーです」

「いや、ダンジョンギルドのサービスでしょう」


 しかし、よく考えたら、通常王女さまがこれほどバカでかいジョッキに入ったエールを飲むものなのだろうか? ちょっと違うような気がしないでもないが、そういったところは好感が持てる。


 そのうち店も混んできたので結局2時間ほど雄鶏亭で酒を飲んで、ダンジョンギルドを後にした。酒とつまみでお腹いっぱいになってしまった。心配事があったようななかったような。気楽にお酒が飲めるのは国が平和な証拠だ。


 そこからは来た道を引き返していき、ツェントルム-サクラダ線の入り口まで歩いていってそこでウーマに乗り込んでツェントルムに向かった。時刻は午後6時だったので、ツェントルム到着は午後11時になる。


 お腹いっぱいになるまで雄鶏亭で飲み食いしてしまった関係で、午後9時ごろ夜食気味にサンドイッチを食堂に出しておいた。



 みんな軽くサンドイッチを摘まみ談笑しているうちにウーマはツェントルムの市街に到着し、先にフリシア公邸前に止まって大使殿たちを下ろし、預かっていた荷物は宝箱3つと一緒に公館の玄関ロビーに置いてきた。

 迎えに出てきた文官二人にシュミットが宝箱の自慢したら、二人は目をむいていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る