第311話 サクラダダンジョン3、ライトサーベル
エリカたちが気を利かせて30分ほどで風呂から上がったので、俺とシュミットが風呂に入り、20分ほどで上がった。時刻は午後8時半。夕食の準備もすぐに終わった。
「「いただきます」」
「この丸いのは?」
「白麦ボール」
「白麦ボールの周りの黒いのは?」
「海藻の一種。紙に見えるけどおいしいですよ」
おにぎりの具は、牛肉のしぐれ煮と、マスの塩焼きの身。見た目はシャケの塩焼き。それとマスの卵の醤油漬け。見た目はイクラ。の3種類。それに四角くノリを巻いたもの。
「何だか変わった感じだけど、おいしいです。あっ! 中になにか入ってる! おいしー!
それにこのスープも、白麦ボールにあって、すごくおいしい」
シュミットとハンナ・クラインもうなずいているし、うちの連中にも好評だ。
フフフ。大侯爵を首になったらシェフで食っていけるんじゃないか? ミスル・シャフーが許してくれないと思うけど。
食事を終えて、お茶を飲んだだけで今日はみんな自室に引っ込んでいった。
ペラはワイバーンを警戒すると言ってステージに上がったので、手裏剣ボックスに20個ほど四角手裏剣を入れておいた。
「ペラ。ワイバーンを仕留めたらウーマを止めて俺を起こしてくれ」
そう言ってから、俺も自室に戻ってベッドに入った。
深夜零時ごろ、ペラに起こされた。
スリットから外を見たら頭部を失くしたワイバーンが転がっていた。スリットの中からウーマに指示しつつ結局5匹のワイバーンをキューブに回収した。これでワイバーンの在庫は34匹になった。
すっかり忘れていたがサクラダの近くの湖で仕留めたナマズがまだキューブの中に入っているんだが。あれどうしよう? 捨てるのはもったいなけど、泥抜きもしていないナマズなんて食べられそうもないし。肥料にするくらいしかないのだろうか?
翌朝。
4時過ぎに目覚めた俺は朝の支度を済ませて、ペラのいるステージに上がった。
山並みが結構迫っている。もうすぐ山並みを抜ける洞窟坑道だ。
それからすぐにウーマは山並みの中の洞窟坑道に入って行った。
6時前にみんな起き出して朝の支度も終えたようだったので朝食にした。
今日は、ハムエッグにトーストと野菜サラダ。それにお茶。言葉にすれば少し軽めだが、ハムエッグのハムはかなり分厚き切っているので、軽いというほどでもない。
そういえばトマトが欲しいなー。彩もいいし、使いであるんだけど。お願い、レメンゲーン!
トマトが手に入るならジャガイモもオナシャス。ここのイモってジャガイモに似ていなくはないけど違うんだよなー。ポテトサラダが食べたーい!
ウーマは7時ごろ洞窟坑道を抜けた。
山並みを抜けた関係でだいぶ柱のシルエットがくっきりしてきた。大使殿たちはスリットにかじりついて前方を見ているので、椅子を3人分置いてやった。
後は夕方まで柱に向かって進んでいくだけだ。
夕食を終えてしばらくして柱の入り口の前でウーマが止まった。
装備というほどの装備もせず、みんなでウーマから降りて柱の通路を進んでいき、10分ほど歩いてその先に出た。
「ウーマに乗り込んで、柱の真ん中にいこう」
ウーマをその場に出してみんな乗り込んだところで、ウーマは柱の中心にむけて木々をなぎ倒しながら進んでいく。
相変わらず大使殿たちは前方スリットにかじりついている。
柱の1階層の中心には四阿があり、それに付随してリンガレングの工場のようなものがあったはず。
1時間ほどウーマがジャングルを切り開いて進み、急にジャングルが途切れて広場が現れた。随分久しぶりだが、ちゃんと以前と変わらず真っ黒な四阿も見えた。
ウーマを祠の手前に止めて、今日は終了と思ったのだが、大使殿が下りてみたいというので結局みんなウーマを降りた。
四阿の近くまで歩いていったら、驚いたことに黒い台座の上にあの女神像が立っていた!
「女神さまだわ!」エリカが声を上げた。
俺たちにとっては十分驚くべきことなのだが、大使殿たちにはタダの女神像なので感動はないようだ。
「この女神さまに祈ると、何かいいことが起こるんです」
そういって俺とペラが二礼二拍手一礼して、エリカたちは思い思いに祈った。
それを見た大使殿たちもそれっぽく祈った。
そうしたところ、女神像が七色に輝くことはなかったが、きっと何かいいことが起こったはずだ。
そのあと台座をよく見るとバトンの穴の他に、リンガレングの指輪が入っていた小物入れのフタが閉まっていた。俺はフタを閉めた覚えはないのでフタは開いたままだったはず。
穴があったら突っ込むというのはセオリーなので、ドリスの即位式のとき使ったきりのバトンを穴の中に突っ込んだらちゃんとカチッと音がした。
後ろの床が擦れるような音がしたので振り返ったらリンガレングの工場へ続く階段が現れた。すっかり忘れていた。
そして、前に向きなおったら、小物入れのフタが開いて中に金色の輪っかが入っていた。強いて言えば腕輪なのだが、腕輪にしては小さい。
「これ何だと思う?」
「見た感じは腕輪だけど腕輪じゃないわよね。これだと小さな子どもの手じゃないとはいらないもの」とエリカ。
「太さ的にはバトンの太さのような気がしますがどうでしょう?」とケイちゃん。
確かにそんな感じだ。
試しに輪っかをバトンにはめてみたところ、片側の先端でキッチリはまりそこでカチリと音がしたと同時にバトンが七色に輝いた。この輝きはドリスの即位式の時バトンが七色に光ったがあの時と同じ光だ。
いったいこのバトンはなんやねん?
即位式の時は光が収まったのだが、なかなか収まってくれない。ライトの代わりにはなるが七色の光ではなー。夜中にバトンを手に掲げて港に立っていれば立派な灯台になるが、まさか灯台グッズってことはないだろうし。あと考えられるのはライトサーベルごっこくらいか?
大使殿たちも呆れて眺めている。
これだと眩しいというより鬱陶しいのでキューブにしまっておいた。
「これはあとで考えようか」
「そうね」
「なんなんでしょう? もしかしたら光に意味があるのかも?」
どこかにあの光を見せたら、ご褒美がもらえるとか、ナイトショーで踊り子さんに七色のスポットライトを当てるとか。
リンガレングも長いこと使っているからメンテナンスも必要かと思って、キューブからリンガレングを出した。
「リンガレング。お前が最初にいたところにやってきたぞ。どこか調子が悪いところがあったら、中に入れば直るんじゃないか?」
「はい。まだ大丈夫ですが、予防的に消耗部品の交換をしてきます」
そういってリンガレングは階段を下りて行った。
リンガレングは回り階段を使えないと思って最初はキューブに入れて持ち出したのだが、そんなことはなかったようだ。
しばらく8人で広場の周りを眺めていたら、何か赤いものが広場とジャングルの境目くらいに見えた。
バナナ、マンゴーかパパイヤに次ぐ新たな果物かもしれない。
そう思ってみんなを置いて500メートルほどかけていったら、トマトが鈴なりに生っていた! すぐに赤いトマトの房を何個か収納して辺りを探したら、それなりの数トマトが見つかった。
夢中になって収納していたら、みんなやってきた。
「エド、どうしたの?」
「この赤い実おいしそうだろ? これが生ってたんだ」そう言って一房キューブから取り出してエリカに見せた。
「ほんとおいしそう。ちょっと食べてみようか?」
どう見てもトマトなので間違いはないだろうが、もし猛毒でも即死さえしなければポーションで何とでもなる。
房から一つもぎ取ってエリカに渡し、俺も一つもぎ取ってかじってみた。
トマトだ。程よい酸味と甘みが絶妙のハーモニーを奏でる絶品トマトだった。
みんな物欲しそうな顔をして俺とエリカを見ているので、みんなにも配った。
「おいしー!」
「初めて!」などなどの感想をいただきました。
トマトなら種から栽培も可能だ。これは儲けものだ。
これはレメンゲンに祈ったからに違いない。となるとジャガイモもどこかに生えているのではないか?
その気になって地面を見たら、それっぽいのが生えていた。背は低いが葉っぱの形はちょっとだけトマトに似ているような。
トマトもジャガイモもナス科だったはずなので、可能性大。
そう思ってそいつを引っこ抜いたらジャガイモが鈴なりに生っていた!
ジャガイモの栽培も難しくないはず。やったぜ!
ここに来たかいがあったぞー!
先ほど、レメンゲンに祈ったおかげだと無条件で考えたのだが、女神さまのおかげかもしれない。とくにジャガイモは救荒作物だから、女神さまが授けてくださった可能性もある。
「それイモに見えるけど、イモよね?」
「イモだと思う。これは生では食べられないから明日のお楽しみだな」
「分かった。それじゃあ赤いのと一緒にもう少し見つけてみようか」
うちの連中はみんなキューブを持っている関係で見つけたトマトとジャガイモをキューブに収納してそれを地面の上にそれこそどっさり置いてくれた。
それを俺は自分のキューブに入れておいた。
「そろそろウーマに帰ろう。
ここで一泊して明日の朝、帰ろうか」
みんなで四阿の前に置いたウーマまで戻ったところ、リンガレングが俺たちを待っていた。
「リンガレング、部品の交換はうまくいったのか?」
「はい。身も心も新品になりました」
確かに輝きが増したような、そうでもないような。身は分かるが心も新品になるか? ふつう。
「そいつはよかった」
リンガレングをキューブにしまい。ウーマに乗り込んだ。
時刻は午後8時を回っていたので、手を洗ったあと、お茶だけ用意し、それを飲んでから各自の自分の部屋に引っ込んだ。
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