第310話 サクラダダンジョン2


 約束通り、大使殿たちを連れてサクラダダンジョンに入った。

 渦の先でランタンをリュックに付けて2階層への階段を目指して歩き出した。

 俺のすぐ後ろが大使殿なので、俺に話しかけてくる大使殿に振り返ることなく返答している。


「モンスターは出ないのですか?」

「ここは幹線坑道なのでモンスターは滅多に出ないんですよ。俺自身幹線坑道でモンスターに出くわしたことはないくらいだから」

「なるほど。モンスターが沢山出てくるものと思っていました」

「ダンジョンワーカーの数に比べてモンスターが少ないのは確かだけど、新人なら1日歩いて1匹モンスターたおせば食べていけるんですよ」

「1日歩きとうしてモンスター1匹」

「たおしたモンスターによるけど、結構重たいからそんなに持って帰れないんですよ。大ウサギなんか2匹もたおせばリュックはいっぱいになってしまってそこで帰ることになるから」

「なるほど」



 幹線坑道を歩いているため、前の方からダンジョンギルドに帰っていくダンジョンワーカーたちとすれ違う。8人もぞろぞろ歩いているのは珍しいので何か言われるカモと思ったが、そういったこともなくそのうち2階層への階段が見えてきた。


「このまま階段を下りていきましょう」

「階段は何段あるんですか?」

「12階層までどこの階段も60段。12階層から13階層に下る階段だけ300段あるんです」

「60段も結構長いけど、300段ですか」

「ちょっとつらいカモ。特に下りはきついかもしれません。踊り場なんてないし」

「なるほど。でも頑張ります」

 その意気やよし! とは言ってもまだここは第1層。2階層への階段もまだ下りていないんだよなー。ドーラは俺の眷属モードみたいだったから初めてのダンジョンでも楽勝だったけど、大使殿はさすがに俺の眷属モード外だろうし。


 60段の階段を下りて2階層に出た。だからと言って全然変わり映えはしない。

「そのまま次の階段まで歩いていきます」


 渦を抜けて2時間歩き続けて5階層にたどり着いた。そこで大使たち3人にマグカップを配って水筒から水を注いでいった。エリカたちはキューブに入っている自前のマグカップだ。

 大使たちのマグカップはどれが誰のものかわかるようあらかじめ俺が名まえを書いている。


 みんな一息ついたところで大使殿に2時間歩いてどうだったか聞いてみた。ペースはいつも通りだった割に大使殿は遅れることなく付いてきていた。無理はしていないと思うのだが、案外タフだったか?

「大使殿、大丈夫ですか?」

「不思議なことに、何ともありません」


 あれっ? もしかして大使殿、俺の眷属モードに入ってる? その可能性大だな。それならそれでいいけれど。そうなると大使殿の文官二人も無理にでも連れてくればよかった。レメンゲンが大使殿を俺の眷属と認めたということは、大使殿は俺を裏切ることはないということなのだろう。これはいいことに気づいたぞ。将来家来が増えた時、裏切る可能性のない連中を集められるってことだものな。


 大使殿たち3人からマグカップを回収してしばらく休憩し、次の階段を目指して歩き出した。


 そこから2時間かけてさらに4階層下って9階層。5階層を越えてから、他のダンジョンワーカーに出会っていない。

 そこでも10分小休止した。時刻は17時半。いつもなら夕食時なのだがまだ先はある。

 大使殿は見ためは元気そうだ。

 ここまでくるとレメンゲンが認めた俺の眷属確定だ。

 今回の小休止では水の他、バナナを各自に配っておいた。バナナの皮は俺が全部あずかった。

 エリカは2本食べている。目が合った時、スタイルいいから問題ないです。と、うったえられたような。


 休憩を終えて立ち上がり、10階層への階段に向けて歩き始め、1時間半かけて11階層の泉の前にやってきた。

「ダンジョンの中に泉があるなんて」

「向こうに見える小島の真ん中に12階層への階段があるんです」

「どうやって向こうに渡るんですか?」

「ウーマに乗って」

 そこでウーマをキューブから出して、みんなで乗り込んだ。

 あっという間にウーマは泉を渡り、俺たちもウーマから降りた。ウーマはまたキューブの中に入れておいた。


 小島の階段を下っていき12階層に出たところで。

「今度は石室なんですね。床が赤く点滅しているのはなんですか?」

 大使殿は罠も見えるようになったみたいだ。レメンゲン恐るべし。レメンゲンの恩恵に人数制限はないようだ。

「あれは落とし穴の罠で、あの上に立つと床石が割れて真っ逆さまに落っこちちゃうんです。

 上から見ても底がみえないから、落っこちたら多分助かりません。床石を取ってあげますからのぞいてみますか?」

「いえいえ、結構です」

「この階層にはいたるところに落とし穴があるから、とにかく気を付けてください」

「はい。でも罠なのにどうして目印になるよう赤く光っているんですか?」

「あれは、普通の人だと赤く見えずに区別できないんですよ。俺の仲間だけが赤く見えるみたいです」

「よくわかりませんが、わたしはライネッケさんの仲間ということですね?」

「そういうことになります」

「じゃあ、ルーカスとハンナはどう?」

 こう聞かれて、見えませんと答えられないよな? でも正直に答えてくれないと。


「はい。赤い点滅が見えます」「わたしも見えます」

 ほんとうに見えたと信じるけどいいんだよな? ウソだとバレた時は穴の中だよ。


「ルーカスとハンナもライネッケさんの仲間みたいです!」

 大使殿がうれしそうに報告してくれた。まあ、よかった、よかった。

 ケイちゃんの顔を横目で見たらちょっとだけ笑っていた。ウソも自己責任だからなにが起ころうと仕方ないものな。


「それじゃあ、13階層への階段があるところまで行きましょう。こんどはすぐ近くですから」


 ウソではなかったようでシュミットもハンナ・クラインもちゃんと赤い点滅を避けて12階層の階段前に到着した。途中、ケイちゃんが石像を1体たおしているが宝箱は現れなかった。


 その時大使殿は「え、えっ!?」とか言っていたので、おそらく大使殿にとって人生初めてのモンスターは、視認する前に砕けてしまったと思う。



 300階段を下り切ったところでウーマを出して乗り込んだ。

 さすがに大使殿も300段の下りは堪えたようだったが、弱音は吐かなかった。

 その代り13階層を見て息を飲んでいた。当然だな。


「今何時ごろでしょう?」

「おそらく午後7時半」

「空がとっても明るいんですが」

「ここの空は明るいけど太陽はないんですよ。それで、逆に日が沈むこともなくこのままの明るさなんです」

「やはり、ダンジョンって不思議な世界なんですね」

「太陽はないんですが、雨は降るんですよ」

「へー。面白い」

「ウーマの中に入っている分には関係ないんですけどね」

「あー、なるほど」



 ウーマには柱に向かって進むよう指示してから装備を外し、女子たちも装備を外して風呂に入った。


 階段下から柱までの距離は720キロなので、明日の今頃柱の入り口に到着する。

 シュミットは邪魔なのでソファーに座らせ、俺とペラは手を洗って夕食の準備を始めた。

 時刻は午後7時半。ちょっと強行軍だった。女子たちが風呂から上がって俺とシュミットが風呂から上がれば9時になる。それから夕食になるので、あまり重いものではなく簡単なものを用意しておこう。

 ということで、作り置きのおにぎりと豚汁を用意することにした。準備は大鍋に入った豚汁を深皿によそって、それをキューブに入れておくだけで終わってしまった。



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