第308話 フリシア騒動後
フリシア王への報告が終わったところでウーマに戻っていったら、大使殿とあとの二人が付いてきた。
俺は何も言わず、3人を連れてウーマに戻ったところ、エリカたちも何も言わず3人を迎え入れた。
本陣前では邪魔だろうと思ってウーマは橋の手前の広場まで戻りそこで停止しておいた。
スリットの向うでは松明を持った兵隊たちが走り回っていた。これから後片付けを始めるのだろう。早い方がいいものな。
スリットから離れたら大使殿と二人が俺のすぐ後ろに立っていた。もちろん気づいてはいたけどな。
「ライネッケ大侯爵閣下。改めて父に代わりお礼申し上げます」
「そこまであらたまる必要ないですよ。
何であれフリシアは大使殿と俺たちによって救われた、ということですから」
「はい」
「大使殿とクラインは風呂に入ってないでしょ? 風呂に入ってそれから寝ればいい」
「はい」
「われわれは明日の朝にでもツェントルムに向けて発つつもりですが大使殿たちはどうします?」
「もちろんご一緒します」
わざわざウーマに戻ってきた以上、ですよね。
そのあと大使殿とハンナ・クラインが一度奥に入ってから着替えを持って脱衣室に入っていった。
今回城が陥ちなかったのは神聖教会の御子が出張ってきていなかったからだろう。もし御子が出張ってきていたらおそらく城門は早い段階で破壊され城は陥ちていただろう。御子がいれば橋も容易に渡れただろうし、河の
御子が今回現れなかったのは、まさかこんなところで西方諸国の連合軍が立ち止まるとは考えなかったことと、
大使殿たちが風呂から上がったところで、俺も部屋に戻ってベッドにもぐりこんだ。
翌朝。
朝食を摂り、後片付けを終えて朝7時。
ウーマは諸々をフリシア軍に丸投げしてツェントルムに向けて出発した。
勝利のアピールのため、鎧に身を包んだ俺はちょっと高級なだけの普段着を身に着けた大使殿を連れてステージの上に立っておいた。
誰も見てくれなければ可哀そうな二人になってしまったのだろうが、ウーマがフリシアンの東市街を移動中道の両側にフリシア軍の兵隊たちが整列して、それっぽい敬礼をしてくれた。
パフォーマンスが不発に終わらずに助かった。
もう少し観客が欲しかったが、贅沢は言うまい。
復路も何事もなく3日後の深夜、ウーマはツェントルムに帰り着いた。
フリシア公館の前にウーマを止めておいたところ公館の中から、大使殿の二人の文官ミューラーとシュタイナーが現れた。
大使殿たちは俺たちに礼を言ってウーマから降り、二人と再会した。
俺たちもそこで降りて5人と別れ、ウーマをキューブにしまって屋敷の中庭まで歩いていき、そこでいつものようにウーマを出しておいた。
翌朝。
エリカとドーラは普段通り防具に身を固めて領軍本部に出勤していった。
俺とペラは行政庁に行って留守の間問題が起きなかったか各担当に聞いたところ、何事もなかったと報告を受けた。
これでフリシア危機一髪は俺にとって片付いたのだが、フリシア国内、特に西半分は西方諸国連合軍に荒らされて復旧していかなくてはならないだろうし、残党だっているだろう。
何か手伝えることがあれば手伝うことはやぶさかではないが、これ以上俺に借りを作りたくはないだろうからよほどのことがない限り俺に頼んでくることはないだろう。
それはそうと、今回の神聖教会の目論見はとん挫したわけだが、十字軍だって一度で終わったわけではないので、また性懲りもなく東に向けて攻め込んでくるかもしれない。
今回のことがあった関係で、復興が軌道に乗った後のフリシアは西に対して警戒を強めるはずだ。そうすれば同じようなことが起こったとしても時間的余裕が生まれるはずなので、俺のところに救援依頼がきたとして、さらに救援は容易になるはず。
西方諸国は神聖教会にそそのかされて東征の軍を出したにせよ、欲に絡んでのものだろうから神聖教会と同罪だ。
今度フリシアから救援依頼が来たら、そのまま西方諸国に殴り込みをかけて、虎のしっぽを踏んづけたことを教えてやってもいいかもしれない。
俺は、ケイちゃんとペラと軽食屋でスウィーツを食べながらそんなことを考えていたら、ケイちゃんが、
「エド。今回のことは神聖教会の仕組んだことですから、そのうち徹底的に神聖教会を叩き潰しませんか?」
「それもいいけど、具体的にはどうする? ハジャルをもう一度襲撃してもまた総大主教がいないかもしれないし、まさかハジャルにいる連中を皆殺しにもできないだろ」
「こんどは、カルネリアを攻めて属国化して、カルネリアに総大主教を捕まえさせるのはどうでしょう? 捕まえられなくても大主教はカルネリアにはいられなくなるでしょう。そうすれば神聖教会の権威も地に堕ちるのではないでしょうか?」
「カルネリアの属国化となると兵隊を連れて行かないと無理じゃないか? 今の領兵の規模だといかにカルネリアが小国でも難しいと思うが」
「フリシアが落ち着いたらフリシアに兵を借りてははどうでしょう。借りを返すことにもなるのでフリシア王は兵を貸すのではないでしょうか?」
「なるほど。
でも、借りを返してもらうとせっかく貸しを作ったのに無駄になるな」
「確かに」
「それに俺からすれば、西方諸国がまたフリシアに攻め込んでくれたほうが有難いんだ」
「それは?」
「どのみち西の国ともことを構えるわけだから、早い方がいいだろ? 次回はそのまま西方諸国まで進んで暴れ回ってもいいし。
そうやって西方諸国連中が本当に痛い目を見れば、神聖教会の話に乗ったことを後悔もするだろうし、西方諸国での神聖教会の影響力は下がるだろうし」
「さすがはエドです。そこまで考えていたなんて」
ケイちゃんからすれば『負うた子に浅瀬を教えられた』心境かもしれないな。なにせ、ケイちゃんは
「エド、何か?」
「いや、何も。ナニモナイデスヨ。
西方諸国だって、神聖教会にそそのかされたと言っても実際は欲得ずくで攻めてきたんだろうから、待っていれば2回目の東征を始めるんじゃないか?」
「しかし、あれだけ見事にやられてしまってまたやってくるでしょうか?」
「そう言われればそうかも。
やって来ても来なくても、こっちはじっくり腰を落ち着けてツェントルムとライネッケ領を発展させていこう」
「はい」
そういったこういったでフリシア騒動は一応の終焉を迎えたのだが、それから2カ月後。
ドネスコとその南にあるハグレアから相次いでツェントルムに使者が訪れてきた。
どちらの使者もツェントルムに公館を開きたいとのことだった。
断る理由はなかったので承諾して使者を返した。ドネスコ大使の着任は3カ月後。ハグレア大使の着任は4カ月後をめどに考えているとのことだった。公館が完成する前に着任することになるだろうが、最初のうちは宿に泊まることになるだろう。
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