第304話 フリシア救援3


 午前2時過ぎ。

 ゲルタの東門前にウーマは到着した。

 守備隊の門衛に門を開けさせ、ゲルタを南北に分ける通路の中を歩いて移動し、西門前でウーマに乗り込んだ。

 

 みんながそのまま自室に入っていき、俺も自室に入って服を脱いでベッドにもぐりこんだ。


 朝6時。

 目覚めた俺は朝の支度を終えて、朝食の準備に取りかかった。もちろんペラも手伝ってくれている。

 朝食の準備前にちょっとだけ前方スリットから外を眺めたが、どこを進んでいるのか分からなかった。時刻的にいって父さんのいるゾーイを抜けて5、60キロ進んだあたりだろう。


 それからも何事もなくウーマは街道を西に進んでいった。

 ウーマの中で俺とペラは作り置きの料理を作り続けた。他の連中はウーマの中を掃除したり、居間で寛いだりして1日を過ごした。

 その日、俺は寝ていて確かめてはいないが深夜ウーマはハルネシアを通過したはずだ。



 翌日昼頃。

 ウーマはヨーネフリッツとフリシアの国境を越えた。

 ユーネフリッツ側、フリシア側、ともにズーリの時のような門はなかったが、兵隊はちゃんと立って警備していた。


 俺と大使殿がウーマから降りてそれぞれの国の兵隊たちにひとこと言って対応したところ、どちらの兵隊たちからも恐縮されてしまった。後ろに控えるウーマを見ればそういった対応するのは当然か。そういうわけで、国境はすんなり通過できた。


 大使殿がフリシアの兵隊に戦況について尋ねたたところ、大使殿の知っている程度の情報しか伝わっていなかった。フリシアからすればここは辺境の地。それは仕方のない。



 そして翌日。

 フリシア国内といってもウーマから見る景色はヨーネフリッツと変わりはなかった。

 大使殿に聞いたところによると、今ウーマが進んでいる街道を道なりに進んでいくだけでフリシアの都フリシアンに到着できるそうだ。


 出発前の目算では今日の昼前にはフリシアンに到着できる。

 到着時既にフリシアンが陥ちていたら、考えないといけないが、これまで難民らしきもを街道で見ていないので、ちゃんと持ち堪えて、悲惨なことにはなっていないのではないかと思う。


 午前11時。思っていたより少し遅かったがフリシアンを遠望できる丘の上にウーマが立った。

 フリシアンを中心に田園地帯が広がりその中に衛星都市が何個か見えた。そのフリシアンの真ん中に南北に河が横切っているのも見えた。


 距離の関係でここからだと戦況自体はよく分からないのだが、王城らしき場所を含め都市部から煙が黒々上がっている。といったそれっぽい感じはしなかった。


 そこで、基本作戦だが、街を横切る河は城の手前に流れているようなので河を渡って向こう側に上陸し、普通に敵軍の真っただ中に突っ込んでいって蹂躙しつつ、ペラがステージの上から敵の指揮官を見つけ次第狙撃していく。

 リンガレングはハッキリ敵と分かる者をたおしていく。これくらいだ。


 フリシア軍には戦場から距離を置いてもらった方がやりやすいので、早いうちにフリシア軍と連絡を取りたい。少々危険ではあるがルーカス・シュミットかハンナ・クラインにステージの上に立っていてもらい、状況により対応してもらう。



 ウーマは丘を下っていく間、俺とペラはウーマのステージの上に立ったままだ。


 丘を下ってそのままフリシアンに向かって行くと、左側からフリシアンに向かう兵隊に気づいた。

 フリシア軍との連絡にちょうどいいと思い、ウーマをそっちにやったら、その兵隊たちが算を乱してバラバラになって逃げていくではないか?


 ステージの上からルーカス・シュミットを呼んで、今のことを伝えた。

 ハッチからステージに上がったルーカス・シュミットが逃げ散っていく兵隊を見て。

「あれはフリシア軍の兵ではありません。こちら側から攻めようとフリス河の上流から回り込んだのでしょう」

「じゃあ、処分した方がいいって事?」

「処分とは?」

「死体になってもらう?」

「は、はい。敵兵ですから」

「了解」

 見た感じ1000名くらいの部隊だったから、おそらく2個500人隊規模。

 ウーマの甲羅の斜面にリンガレングを出し、指示した。

「リンガレング。逃げ散っていく兵隊が分かるだろ?」

「はい」

「あいつらを仕留めてくれ。いつも言ってるけど、なるべくきれいにな」

「了解です」

 リンガレングは8本の脚を一度伸縮して甲羅の上から地面に跳び下りて逃げ散っていく敵兵に向かっていった。

 リンガレングが近づいた敵はおもちゃの兵隊のようにその場に倒れていく。

 ドミノ倒しではないのだが、硬直したように向こうに向けてうつぶせに倒れていくのがなんとなく奇妙ではある。

 このままフリシアンに向けてウーマを移動させていたら、跳び下りて5分ほどしてリンガレングがすごいスピードで移動中のウーマの甲羅に飛び乗ってきた。


「敵兵の掃討完遂しました」

「何人いた?」

「965です」

「全員処分?」

「はい。誰一人逃がしていません」

「了解。リンガレングはそこで待機しててくれ」

「はい」


「閣下、あのう、今のお話では先ほど逃げ散った敵兵を文字通り皆殺しにしたと?」と、ルーカス・シュミット。

「リンガレングは敵兵を処理するにあたってバラバラとか肉片が潰れて泥濘化するとか、地面までぐちゃぐちゃになって後から処理に困るような仕留め方じゃなくて最小限の破壊にとどめているので、そこは安心してくれていいから」

「そ、そうですか」

「これからの敵についても、同じように処理するから、ぜんぜん大丈夫」

「そ、そうですね」


 いままでの経験から導き出されたリンガレングの投入方法は間違ってはいない。

 とにかく敵は20万。サクサクいかないと日が暮れてしまうからな。


 そこからフリシアンの衛星都市を一つ越えた。人は通りには出ていなかったが人の気配がないわけではなかった。どうせ敵兵は夕方までにはこの世から退散するわけだし、明日から数日は死体処理、そのあとはもう日常だ。逃げ出さずに正解だったんじゃないか。それもこれも大使殿が助けを求めて俺たちのところにやってきたからだけどな。


「シュミット。フリシア軍はどこにいると思う?」

「さきほど兵が上流から迂回してきたということは、橋を渡れなかったということですから、フリス河のこちら側にフリシア軍が展開しているはずです。

 城も陥ちていないようですから、城から河を挟んだこちら側あたりに本陣を敷いているかもしれません」

「なるほど。それじゃあ、そっちに向かっていこうか」

「この道をそのまま進めば橋に出ます」

「了解。ウーマ、このまま街道を進んでくれ。橋の手前まで行けばフリシア軍がいるはずだから本陣まで案内してもらえばいいだろう」



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