第305話 フリシア救援4、蹂躙
王都フリシアンの東西を繋げる橋に向かってウーマを進めていった。
フリシアンの東市街に入りしばらく進んでいったところ、途中で兵隊に出会った。先ほど逃げ散ってリンガレングに処分された兵隊たちとは雰囲気が明らかに違うので、おそらくフリシア軍の兵隊だろう。
とはいえ彼らもウーマの雄姿を見て逃げようとするので、ルーカス・シュミットがウーマの上から大声で彼らを呼び留めた。
「わたしはケイト・エリクセン殿下の騎士ルーカス・シュミット、友軍だ。この大ガメはヨーネフリッツ王国のライネッケ大侯爵閣下の大ガメだ。そしてわたしの隣りに立つ方こそライネッケ大侯爵閣下その人だ!
本陣があれば案内してくれ」
フリシアでは俺の雷名が轟いていたようで、ルーカス・シュミットから俺の名を聞いた途端、兵隊たちはシャキッとして、ウーマの前に立って道案内してくれた。
鎧くらい着とけばよかったが、俺の格好はレメンゲンを腰に佩いてはいるもののいつもの胴着に革のズボン。ルーカス・シュミットも似たような格好だ。ルーカス・シュミットの場合、取るものもとりあえず大使殿とツェントルムに急行したようだから仕方ないけどな。
しばらく市街を移動したら、大きな建物の前の広場に出た。広場には多くの兵がいた。ウーマを見て動揺したようだが、すぐに案内してくれた兵隊たちとルーカス・シュミットが説明してくれた。
俺はステージからウーマの中に戻って、中で待機していたみんなに向かってフリシア軍の本営に着いたと告げた。
「殿下とハンナ・クライン、俺とエリカとケイちゃんであいさつに行こうか」
「わたしはいかなくていいの?」
正直ドーラを連れて行こうが行くまいが差はないのだが、ぞろぞろ行くのも先方に気を使わせるし。
「ペラもいるから、ドーラはウーマにいてくれ」
「分かった」
ウーマの腹を地面に下ろし、俺たちと殿下たちはサイドハッチから広場の前に降り立った。
おそらく目の前の建物の中がフリシア軍の司令部といったところだろう。
玄関に向かって歩いていたら、玄関の中から壮年のおっさんが数人の兵隊を連れて出てきた。
立派な鎧を着ているところを見るとフリシア軍の司令官か何かなのだろう。と思っていたら、いきなり大使殿下が大きな声を出した。
「陛下!」
フリシアの王さまだったようだ。滞陣は長いのだろうが疲れた感じはしなかった。
俺の最初の授爵式の時に見たヨーネフリッツの王さまとはえらい違いだ。
「ライネッケ大侯爵閣下と閣下の直臣の方々をお連れしました」
「ケイト。よくやった。
ライネッケ殿。よく駆けつけてくれました。ありがとうございます」
「ケイト王女殿下にすがるように頼み込まれてしまってとても断れませんでした。ハハハハ」
大使殿を大いに持ち上げてやった。これで敵を駆逐した暁には、大使殿の評価は爆上がり間違いなし。もしかしたら、王太子を押しのけて王太女になったりして。それはないか。そんなことしたら国が割れる元。目の前の王さまはその関係で苦労したと聞いてるからな。
「それではライネッケ殿とみなさん、昼時ですし何もありませんが中に入って疲れをおとりください」
「いえ。このまま敵をたおしてしまいます。
なので、橋はおそらく封鎖されているでしょうからそこを通してくれるよう指示お願いします。それとフリシア軍のみなさんは戦場から少し離れてもらえますか。敵と間違えてしまうと大ごとですから」
「了解しました」
王さまの後ろに控えていた兵隊が数人走っていったので指示を伝えにいったのだろう。
「城はまだ陥ちてはいないんですよね」
「囲まれてはいますが、堅守しています」
「ということはまず城の周りの敵兵を駆逐してしまいましょう。近くにフリシア軍がいるようならその間になるべく遠くまで引いてください。
それじゃあ、早速ですが一仕事してきます。
大使殿たちはここに残っていた方がいいだろう」
「分かりました。よろしくお願いします」
「シュミットだけは案内に連れて行くけどね」
「はい」
俺はエリカとケイちゃんを引き連れてウーマに戻った。
俺だけステージに上がり、シュミットにウーマを指図させて橋を目指した。
橋の手前まで進むと、橋の正面に逆茂木でバリケードが作られていて、橋の上にひしめく敵兵を防いでいた。その敵兵に向けて手前側から矢が射かけられていく。
「リンガレング、バリケードを壊さないで向こうに抜けることはできるか?」
「はい。簡単です」
「そしたらバリケードの先の橋の上の敵兵を始末してきてくれ」
「了解」
リンガレングは甲羅から跳び降りて、驚くというより
そこからは単なる蹂躙劇で、ほんの10秒ほどで敵兵は生物から無生物に相転移した。
使命を完遂したリンガレングは再度ピョンピョン飛び跳ねながらウーマの甲羅の上に戻ってきた。
「リンガレング、ご苦労」
しかし、敵側も敵側だよな。バリケードを突破しようとするのはいけど橋の上にひしめき合いながら何の工夫もなく突っ込んでくれば狙い撃ちだ。少しずつでもフリシア側に損害を与えられるのならまだしも、何の損害もだせないという。あれでは単なる自殺じゃないか。西方諸国の連合軍というが統一した指揮官が不在なんじゃないか? ちょっと守勢に立たされればすぐに瓦解しそうだが、瓦解しようがしまいが関係なくリンガレングにかかれば結果は同じ。
バリケードを動かす命令が届いたのか、すでに届いていたものの、橋の上の敵兵が邪魔で動かすことができなかったのか、兵隊たちがわらわらとやってきてウーマが通れるくらいにバリケードを動かしてくれた。
「それじゃあ、行ってきまーす」
軽い気持ちでウーマを前進させて橋を渡っていく。橋の上には先ほどリンガレングが処分した敵兵の死骸が沢山転がっていたわけだから、何体かは踏みつぶしたと思う。いつも通り人を踏み潰す程度の感触はステージの上には伝わってこなかった。
「リンガレング。城の周りに取りついている敵兵を処分してくれ。
どこかに敵兵の野営地があるはずだが、テントなんかが張ってあったら壊さないようにな。
ここの住民が帰って来た時、破壊された家の代わりに使えるからな」
「了解です」
リンガレングは今度も同じように跳ねながら敵兵が群がるあたりに突っ込んでいった。
城の回りは取り壊された建物の残骸が続いて廃墟になっていて、その廃墟からわらわらと敵兵が湧いて出るように城に向かっていく。
マトモな攻城兵器など持っていないようで、敵兵が持つのは梯子だけだ。
ひょっとして、俺たちが来なくてもこの連中では城を陥とせなかったんじゃないか?
リンガレングを追うような形で橋を渡って城の南側に出たウーマは瓦礫の山の中を突き進み、ひしめく敵兵をなぎ倒していった。そうやって突き進み城の角を北側に曲がり込んだら、城門が見えてきた。
城門の前で敵兵が群がり丸太を数十人がかりで持ち上げて城門にぶつけようとしている。
そこにリンガレングが躍りかかっていき、城門前に立っている者は瞬く間にいなくなってしまった。
こちら側は城の前の広場になっていたようで敵兵がそれこそうじゃうじゃいた。
敵兵の中をリンガレングが高速で動き回る。
20万、20万。まだ数千しかたおしていない。
その中でペラが指揮官らしきものを見つけると的確に四角手裏剣で仕留めていく。
ゲルタ前の原野のような場所なら簡単だが、市街地での大規模戦闘となるとやはり効率が悪い。ちょっと甘く見ていたようだ。この調子だと始末し終わるまでに夜になってしまうぞ。
ちょっと気になって、四角手裏剣を投げるペラの後ろで俺の隣りに立っているシュミットの顔を見たら、シュミットは俺の顔を見ていてその顔がひきつっていた。目線があったところでシュミットが視線を逸らせた。
「シュミット、どうした?」
「いえ、閣下があまりにうれしそうにされていらっしゃるもので」
俺がうれしそうにしてたら顔をひきつらせるか? ふつう。
鏡がないからよく分からないが、顔面神経の感覚からいってどうも笑っていたようだ。エリカに言わせればニヤニヤ笑い。
気を付けよう
表情筋を何度か伸縮させたので、元の顔にもどったはず。
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