第303話 フリシア救援2


40分ほどでほんのり赤いほほをしているものの相変わらず不思議そうな顔をした大使殿とハンナ・クラインがエリカたちと脱衣所から出てきた。

 大使殿とハンナ・クラインの髪の毛がツヤツヤさらさらなのが遠目でも分かる。

 この騒動が落ち着いたら、大使殿たちはウーマの風呂を借りに来るんだろうな。いずれそうなると思っていたことだから別にいいけど。


「黄色の長いの居間のテーブルに置いてるから食べててくれ。俺たちが風呂から出たら食事の用意をするから」

「うん」

「それじゃあ、シュミット、風呂に入るから自分の着替えを持ってきてくれ」

「は、はい」


 部屋に戻って着替えを持ってきたルーカス・シュミットを連れて脱衣所に入り裸になった。

 キューブから新しいタオルを出してルーカス・シュミットに渡し、裸になったルーカス・シュミットと浴室に入った。

「風呂?」

「風呂だよ」

「温泉ですか?」

「いや。ただのお湯。でも気持ちいいぞ」

「ここ、ウーマの中ですよね?」

「見ての通り、ウーマの中だな」

「は、はい?」

 今日は大使殿とハンナ・クラインのエッセンスも溶け込んだ最高級のお湯のハズ。


 温泉で風呂の入り方をちゃんと教えているのでルーカス・シュミットは何も言わなくてもかけ湯をして湯舟に入った。

 俺も後から湯舟に入った。

「気持ちいいだろ?」

「は、はい」

「シュミット。きみにひとついいことを教えてやろう」

「何ですか?」

「さっきまでこのお湯の中にエリカたちの他に王女殿下とハンナ・クラインが入っていたんだ。この意味わかるだろ?」

「……。は、はい!」

「温泉の時とはまた違って、気持ちいいだろ?」

「は、はい!」

 エッセンス教徒の誕生だな。



 先に蛇口やシャワーの使い方を教えておき体を洗い始めた。

 ここに置いているシャンプーやボディーソープは温泉のものと違って泡立ちなど別次元なのだが、使い方は変わらないのでルーカス・シュミットもちゃんと頭と体を洗った。

 一回ではあまり泡が立たなかったので、流してもう一度洗うように言ったら驚くほど泡が立って文字通り驚いていた。男の裸をめでる趣味はないが見てて何となく楽しい。




 もう一度湯舟に肩まで二人して浸かって、浴室から出て新しくバスタオルをルーカス・シュミットに渡し、俺もバスタオルで体を拭いたあと服を着て、使ったタオル類をルーカス・シュミットから回収していったん浴室に戻り洗濯機に入れておいた。

 浴室から出てドライヤーで髪と体をすっかり乾かして脱衣場から出た。


「シュミットは居間でみんなと寛いでてくれ。俺はペラと夕食の準備をするから」

「えっ! 閣下が夕食の準備ですか?」

「ああ。いつもやってることだから。きみは気にしなくてもいいから」

「は、はい」


「おーい、ペラ、食事の準備するぞー」

『はい』


 ペラと夕食の準備を進めたと言っても、作り置きの料理を出すだけだ。久しぶりに人数が増えたけれど、作り置きの料理は人数分で作っているわけではないので問題なく振舞うことができる。


 今日は先日作ったトンカツを出すことにした。

 これは例の軽食屋のツェントルム支店のためにハウゼン商会で食材を安定供給できるように尽力してくれた結果、玉子が手に入いるようになったおかげである。

 トンカツソースもそれっぽいものを作っているので、あと用意するのはキャベツの千切りくらいだ。

 そういった物はペラの担当で、俺はキューブから出したキャベツをペラが包丁を使って千切りを作っていく。その千切りを一度水を張ったボウルに取り、ザルにあける。

 水を吸ったキャベツがパリッとみずみずしくなる。


 トンカツの他には、大根の味噌汁。ここでは味噌汁ではなく白い方の濁りスープ。それに白麦という名前にされた白飯。

 どうせ酒を飲むので、酒のつまみとしてバーベキュー風串焼きを用意した。

 牛肉と野菜を交互に串に刺して焼いたもので、ソースは例の俺特製の焼き肉のタレだ。

 海鮮ものの食材があればよかったのだが、あいにく切らしている。


 でき上ったものを一度キューブに入れてテーブルの上に順に並べていく。

 ペラには酒の用意をさせた。

「用意できたぞー」

『『はーい』』


 大使殿たちを空いた席に座らせて。

「「いただきます」」

『いただきます』は、大使殿たちもすでに慣れているのできれいにそろった。

 実に気持ちがいい。


「おいしい! このお肉の回りがサクサク」

 うまくからっと揚がったんだよな。魚介類が手に入ったら天婦羅も作らないと。揚げ物にはまっちゃうかの?

 俺たちはおいしいおいしいと食事してたんだが、大使殿が相変わらず変な顔をしている。

 いままで、温泉の行き来だけのウーマの中だし、ウーマ内を本格的に観察していなかったから驚きが継続中のようだ。

 いくら不思議なものだろうと、慣れてしまえばいいだけなんだよ。慣れだよ、慣れ。


「中がものすごく広いんですが?」

「そうですね」

「お湯も水がふんだんなんですが?」

「そうですね」

「いま街道を進んでるんですよね?」

「あと1時間くらいでオストリンデンですね」

「放っておいても進んでいくんですよね?」

「ハルネシアまでは放っておいて大丈夫です。

 そこから先も、街道を西に向かっていけばフリシアでしょうから、大まかな方向が分かれば勝手に進んでいきます。とりあえずフリシアの王都に向けて進めばいいんですよね?」

「は、はい」

「ハルネシアから先の道が分かるようなら、簡単でいいですけどこのウーマに教えてください。そうしたら間違いがないでしょうから」

「分かりました。でもどうやって道を教えるんでしょうか?」

「前の方のスリットから外を見ながら、まっすぐとか口に出して言えばちゃんとその通りにウーマは動きます。けっこう頭がいいもので」

「分かりました」

 大使殿は分かりました。と、答えたものの、まだよくわかっていないようだ。それも慣れるだろ。

「そういうことなので、どんどん食べてください」

「は、はい」


 夕食が終わり、簡単にテーブルを片付けた後はデザートの時間。

 あの店から大量にスウィーツを買い付けているので種類も量も豊富だ。

 それで今日は初心に戻って、パンケーキクリームイチゴ添えとした。

 夕食後でもあった関係で、一人半分の大きさでの提供だ。

 半分の大きさにエリカとドーラはちょっと不満そうだったが、まだ食べたいくらいがちょうどいいんだぞ。


 デザートを食べながら、大使殿たちに今夜のことを伝えておいた。

「ウーマは何事もなければ深夜2時ごろゲルタに到着するする予定です。

 ゲルタの中をこのままの形でウーマは通れないのでゲルダの東門の前でいったん下りて徒歩でゲルタを横断することになります。

 その時まで部屋で休んでいてください」

「分かりました」



 先に洗濯機から洗濯物をとりこんで、その後食器などの洗い物を済ませたところで大使殿たちもエリカたちも自室に戻っていった。


 俺は前方スリットから外の様子を見てからと思って、スリットをのぞいたところ、ウーマはオストリンデンの市街を抜けてその先のディアナに向けて移動しているようだ。



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