第293話 久しぶりのサクラダダンジョン2


 ドーラはその後も快調で、危なげなく石像をたおしていった。

 同時にダンジョン金貨もポーションもどんどん手に入った。

 一時期、これ以上金貨を貯めても仕方ないなどと罰当たりなことを考えたこともあったが、領地のことを考えると、金はいくらあっても困らない。


 その日は5時過ぎまでドーラの訓練**を続け、野営準備に取り掛かった。

 石室の中の野営だし、リンガレングを不寝番に立てるだけなので大したことはない。

 ウーマの中からテーブルを持ってくるのを忘れたので、作り置きの料理を床に並べて、その周りに車座になって夕食を摂った。


「こういった野営も久しぶりよね」

「そうだな。毎日これじゃ嫌になるけど、たまにはいいかもな」


 食事の後はデザート。今回はナシをむいた。むいたのは俺ではなくペラだ。包丁使いは明らかに俺よりペラの方が上だからな。


 デザートを食べ終え後片付けが終わったらみんな早々に床に敷いた毛布に横になった。

 そしてすぐに寝入ってしまった。

 俺もリンガレングに後は任せて、すぐに眠りに落ちた。



 そして翌朝。


 早く寝れば早く目覚めるのは道理で、俺の体内時計で午前4時に目が覚めてしまった。

 ペラは分からないが、他のみんなはまだ寝ているようなので、俺もしばらく目をつむっていたら、そのうちエリカとケイちゃんが起きだしたので、俺も起きることにした。そしたらペラも起き上がった。


 俺たち4人が朝の支度を終えたところでドーラを起こしてやった。時刻は4時20分。

 ドーラが支度している間に朝食の準備をして、ドーラの支度が終わったところで朝食を摂った。


「今日は11階層への階段部屋に11時までに戻るよう回って行こうと思う。

 そこで昼食を摂ってからギルドに帰ればちょうど5時だからワイバーン肉の用意もできてるだろう」

「「了解」」「今日もやるんだよね?」

「午前中だけだから」

「分かったー」

 今日は『えー』から『分かったー』に進歩した。偉いぞドーラ。頑張れドーラ!


 そういうことで、ドーラを先頭に小部屋を回り、ダンジョン金貨とポーションを文字通り大量に手に入れて11階層への階段部屋に戻った。


 そこで昼食込みの昼休憩を1時間ほど取って11階層に戻り、ウーマで泉を渡って、その先から徒歩で1階層の渦に向かった。


 予定通り午後5時少し前にダンジョンギルドに帰還した俺は、エリカたちを渦の横に残してまっすぐ買い取りカウンターのゴルトマンさんのところに行った。


「閣下。できてますよ」

 閣下呼びされると緊張するわけではないが、ペーペーの時から知っている人から言われるとちょっとだけ違和感というか。いいけど。

「先に買い取り代金として金貨70枚をお渡しします」

 トレイに25枚の筒2本と、それより低い高さの金貨を受け取った。

「確かに」

 倉庫に連れていかれるのかと思っていたのだが、倉庫ではなく別の建物に連れていかれた。

 中に入ったらモンスターが何匹も吊り下げられて解体されていた。解体場だ。初めて入った。


 それで、解体場の中を通って隅の方に連れていかれた。

 そこには板を節約したような木箱が20個ほどおいてあり、板の隙間から赤い肉がのぞいていた。

「これが全部?」

「はい。これで全部です」

 相当な量だが、キューブに入れておくだけなので問題ない。

 ゴルトマンさんに礼を言って肉入り木箱をキューブに全部収納した。


 解体場を出てギルドの建物を回り表玄関に戻ったら、気を利かせてみんな玄関前に立っていた。


「帰ろうか」


 サクラダの市街を抜けて、市街を回り込むように歩いていき、適当なところにウーマを出してみんな乗り込んだ。

 ウーマに戻ったところでウーマにはそのままツェントルム-サクラダ線の上をツェントルムに向けて歩くよう指示しておいた。


 エリカたちはすぐに風呂に向かった。装備は脱衣所で外してそのままキューブにしまうのだろう。

 俺はいつものようにエリカたちが風呂に入っている間にペラと夕食の準備をして、用意ができたところで居間のソファーで寛いだ。


 これで一仕事終わった。と、思うと気が楽になった。


 張り切ってフリシアからの大使一行をもてなす準備を進めているが、食事会を催すとしてもちゃんとした給仕がいない。

 お仕着せを調達して、いつもの食堂から2、3人女の子を貸してもらって給仕してもらえばいいか。

 それと、肝心の料理だが、俺が作ったものを出せないわけではないが、ホストの俺が厨房に出入りしてキューブから料理を取り出すわけにもいかないので、料理人と助手、各1名。これも食堂から借りて料理を温め直しできる体制にしよう。


 こういった饗応を大侯爵閣下本人が切り盛りするってどうよ? と、ふと考えてしまったが、何せ俺たちのライネッケ領は発展途上。ヨルマン辺境伯領は辺境という文字が付いていたが、うちは文字が付いてない代わりに圧倒的辺境だ。領主だからといってふんぞり返っているわけにはいかない。

 大使の着任まで、まだ1カ月近く時間があるので、何とかなるだろう。


 とかなんとか考えていたらエリカたちが風呂から上がって脱衣場から出てきたので、今度は俺が脱衣場に入り裸になって風呂に入った。


 最初に空いていた洗濯機に汚れ物を入れて洗濯を始めてから湯舟に浸かった。生活の知恵だな。と、言うほどでもないか。


 軽く体を洗ってから湯舟に入り温かい湯に肩まで浸かった。


「ふー。生き返る」


 生き返ったところで考えたのだが。

 もう冬は終わったし、出遅れ感はあるのだがサウナなんてどうだろう?


 サウナのことをエリカたちに説明するのは急に『思いついた』とか言ってればどうとでもなる。


 サウナを作ったとしてそのサウナに入った俺のことを脳内シミュレートしてみた。


 密室の中、ひとりポツンと座って汗を垂らしながらじっと耐えている俺。

 絵面が悪すぎる。

 ボツだな。


 ウーマ内でのサウナは取りやめるとしても、領民の健康増進にサウナは有効な気がする。ローマのお風呂にもサウナがあったようだし。行政庁に行ったときにでも指示して、温泉保養所にサウナを作ってやろう。

 前世でいいもので今現在作れるものは積極的に作っていった方がいいだろう。それこそミスル・シャフーの使徒としても務めだ。


 その後、体と頭を洗って再度湯舟に浸かって風呂から上がった。



 今日の夕食は久しぶりのハンバーグなのだが、今回は趣向を変えてソースで煮込んだ煮込みハンバーグとした。それに白飯と味噌汁。味噌汁の実は薄くスライスしたイモ。

 あと湖で獲れたマスのマリネーだ。飲み物は一応エール。

 

「「いただきまーす!」」


「これおいしい!」

「これもすごくおいしいです」

「エドについてロジナ村を出てほんとによかった」

 ずいぶん昔の話を持ちだすものだ。

 しかし、俺がドーラをサクラダに連れて行かなかったら、ドーラは今頃父さんのところで伯爵令嬢してたんだよな。

 今のドーラは名まえだけだが子爵でご当主さまだけど、気楽さから言えば伯爵令嬢だろう。『えーーー!』とか言って、モンスター相手に杖を振り回すこともないだろうし。

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