第291話 もろもろ


 除雪をした次の日。

 朝から快晴で、気温も上がったようで昨日の除雪で積み上げられた雪も日向のものは急速に融けていった。


 俺はサクラダへの街道工事を再開することにした。

 要するに行き来の時間がネックになっているので、エリカとドーラに無理を言ってウーマの位置を工事現場として、そこからウーマで領軍本部まで通勤してもらうことにした。


 立木を取り除いただけの街道工事現場までの道は雪に埋まっていたが、ウーマで現場まで移動する際に除雪も一緒にしておいた。


 工事方法の変更は顕著に効果を表して、10日ほどで森を抜けることができた。

 ケイちゃんもキューブの扱いに慣れてきたようで試しに立ち木を収納させてみたところうまく収納できた。最初の時と比べて格段に容量が増えたような気がする。と、ケイちゃんが言っていた。どのキューブだろうと誰でも使えるので、キューブの容量は固定だと思っていたのだが、ちょっと違うようだ。

 試しに俺が首から下げているキューブをケイちゃんに使わせたところ、認識できるアイテム量がかなり小さいことが分かった。

 キューブは扱う人によって認識できる容量が決まるということなのだろう。

 そう思って、俺がケイちゃんのキューブを使ってみたのだが、立ち木を3本入れたところでいっぱいになった感覚があった。

 ということは、キューブは使用者と共に成長する。と、考えて良さそうだ。

 一度ケイちゃんのキューブから立ち木を出して俺の方のキューブに入れ直しておいた。

「ことあるごとにキューブを使っていればドンドン容量が増えるんじゃないかな」

「頑張ります」


 もちろんこの情報はエリカとドーラにも共有したので、二人とも時間があればキューブを使って出し入れの練習を始めた。ただうまくなる。といった漠然とした目標ではなく、容量を増やすといった感じの具体的目標があると人間頑張れる。


 立木の収納が終わって今度は10日ほどかけて各所に工事資材を運搬しておいた。

 これで俺の仕事は終わった。後は道路工事専門の部隊が引き継ぐことになる。工事が始まれば1年もかからないだろう。


2/6

 もちろんツェントルム-サクラダ線の工事の作業見積もりも行政庁で作っている。

 それによると、工事開始は約1カ月先の来月初。完了見込みは年末を見込んでいるとのことだった。

 道路が本格完成すれば、サクラダからダンジョン産の肉などを購入することになる。業者はもちろんエリカのお父さんのハウゼン商会だ。

 ハウゼン商会にはどんどん大きく成ってもらい、商業関係での発言力を高めていったもらいたい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺が工事にかまけている間。

 カルネリアに潜り込ませた密偵からの情報をドリスが報告書にして送ってくれている。

 俺たちのハジャル襲撃での難を逃れたようで何より。

 諜者が難を逃れたことはよかったが総大主教もどこかからか這い出て復活しており、俺のことを仏敵ならぬ『魔王』と呼んでいるそうだ。

 魔王ライネッケ。

 語呂もいいし、レメンゲンに魂を先物買いされている俺の愛称とすればピッタリなのでつい笑ってしまった。

 ドリスからの報告書はみんなの前で俺が読み上げたので、今回もちゃんとエリカにニヘラ笑いと指摘されましたよ。ウーマの中なので許してもらえました。


 それと報告書は御子のことにも触れており、青、赤、黒の3人の御子が魔王ライネッケによって討ち取られ、白の御子は行方不明。確認はとれていないが金の御子だけは神聖教会に残っているそうだ。


 俺が読み上げる魔王ライネッケの下りで全員大笑いした。おそらくドリスたちも諜者からの報告を目にして王城で大笑いしただろう。


 報告書には神聖教会の動向が付け加えられていた。


 それによると、破壊された寺院の修復のための寄付のお願い。

 ライネッケ領の物品の不買。前世みたいだな。

 それと、今のところヨーネフリッツ国内での神聖教会信者たちに不穏な動きはないとのことだった。

 これは俺たちが神聖教会に与えたダメージが大きすぎて現状組織がマヒし下部組織に対して具体的な指示が出せない。というのが本当のところだろう。


「何か動きがあるまで、神聖教会は放っておいてもいいんじゃないか?」

「白と金の御子の確認が取れていないってことは、行方が分からないって事でしょ? ちょっと心配じゃない? 最初にやってきた赤い御子みたいにここに現れるかもしれないから」

「リンガレングがいれば楽勝なんだろうけど、そうじゃないと楽勝は難しいものな。

 相手は金ないし白の御子。または金と白同時。白の御子は残りの3人と同じくらいかもしれないが金となると他の御子より強そうだ。なるべくバラバラにならないように行動した方がいいけどエリカとドーラは領軍本部だしな。

 俺の方にはリンガレングがいるから、二人にはペラをつけておくか」

「うん」「それなら安心」


「それはいいと思いますが、たおしたはずの青、赤、黒が補充されることはないでしょうか?」

「補充されるかされないかは分からない以上、何らかの形で補充されると思っていた方がいいだろうな」

「そうですよね」


 レメンゲン効果でバフってる俺が言うのも可笑しいが、御子の能力は人を鍛えてどうこうできるようなものではないのは確かだ。

 何か人為的な操作により御子は作りだされたと考えるのが妥当だろう。

 神聖教会はなんらかの形で御子と呼ばれる者を作りだしたのなら、同じ工程を踏めば同じものが作られる。と考えられる。

 あと、可能性として御子は異世界人でどこから召喚された結果異常な能力に目覚めたというラノベ展開もないわけではない。この場合召喚者は教会なので、召喚すれば新たな御子が誕生する。異世界召喚は多くの場合対価を必要とするので簡単には召喚出来ないという物語的制約が往々にして存在するが、それが当てはまるかどうかは不明だ。

 最後の可能性として、危ない薬物とかアイテム。検分した限りではそれっぽいアイテムはなかったからアイテムの線は少なそうだ。となると薬物か? うーん、最初の御子がアレだったから薬物の可能性が高そうだが、それだと御子はタダの使い捨て。しかし、使い捨てにするには装備が貴重。わからん。


 なんであれ安易に製造も召喚もできるってわけではないだろう。それができれば簡単に超人奴隷が手に入るってことだからな。



「それはそうと、御子っていったい何なんでしょう?」

「普通の人間じゃないことは確かだよな」

「もしかして、エドのレメンゲンみたいな何かを神聖教会が持ってたりして」とエリカ。

 その可能性もあるな。金の御子がレメンゲン相当を持って残りの4人がその影響下にある。

 なーんだ。それだとうちと全く同じ構図じゃないか。

 うちと違うのは、うちは俺がトップで、あっちは総大主教がトップだって事。

 しかし、表向き総大主教がトップでも、実際は金の御子がトップである可能性もある。なにせ圧倒的武力の前では何であろうと無力だから。ただ、総大主教がなにがしかの制約を金の御子に設けていれば話は変わる。


「今度御子をたおしたら、またキューブが手に入るかな?」と、ドーラが明るい話題を提供してくれた。

「さすがに金の御子は持ってると思うけれど、キューブってそう簡単に手に入る物じゃないからこれから先補充される御子は持ってないんじゃないか? さすがの神聖教会もそんなに持っていないんじゃないか?」


 少なくとも金の御子をたおせばかなり楽になるのは確かだ。神聖教会からすると、大魔王ライネッケをたおせばかなり楽になる。ということだ。



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