第287話 帰還
ハジャルの丘の瓦礫を取り除いたら地下に通じる階段が現れた。その階段を下りて先に進んだら倉庫があり、そこで金貨が詰まった木箱を数百個見つけてしまった。もちろん全部いただいた。100万枚は下らない大量の金貨だ。何箱か開けて中身を見たところ、いろいろ模様が違っていたのでおそらく各国の金貨なのだろう。
「この金については、ライネッケ領の金ということでいいかな?」
「うん」「はい」「うん」
「それじゃあ、上に戻って瓦礫の片づけを続けよう」
地上に戻って、瓦礫をキューブにどんどん収納していく。
これまでに本当の意味の瓦礫の他、それなりに価値のありそうなものも多数収納した感触がある。リンガレングが切り刻んでいなければ瓦礫とて一財産では済まないだろう。
そうやって瓦礫を片付けていたらまた地下への階段が現れた。
今度は何かなー。と、ワクワクしながら階段を下りていったら、下りた先に木の扉があった。
開けようという考えなど浮かばないまま扉を収納したところ、扉の先はワインセラーだった。
瓶もたくさん並んでいたが、大樽も相当数置いてあった。
大樽の中に何が入っているのかは分からなかったが、ここも文字通りすっからかんにしてやった。
ウーマの中のワインはまだ若いワインだったが、ここの酒は年季が入っていそうだ。普通じゃ手に入らないヴィンテージものかもしれない。
その後も瓦礫片づけを続け、結局全部片付け終えたものの、総大主教の行方についての手掛かりは見つからなかった。
やっていることは文字通りの略奪なのだが、戦利品を持ちだすのは戦の鉄則。鉄砲玉の暴走だったのかもしれないが俺たちに喧嘩を売った時点でこいつらは詰んでたわけだ。
とはいえ、総大主教を捕らえたわけではないので、連中にも巻き返すチャンスはある。
午前7時半。俺たちはほくほく顔でウーマに撤収した。リンガレングは念のためウーマのステージに上らせておいた。
「なんだかお腹も空いて来たし、そろそろ朝食にしない?」
「そうするか」
ウーマが動き出したところで、手を洗い朝食の準備を始めた。
今朝のメニューは、ソーセージと揚げたイモにキャベツの野菜炒め。それにトウモロコシのポタージュスープ。主食は軽く焦げ目をつけたスライスパン。としてみた。
「「いただきます」」
食事しながら。
「キューブを手に入れただけで終わったかと思ったけれど、結構な実入りだったな」
「どうせ信者からお金を集めるんでしょうから、定期的にここにやってきて刈り取ってやれば面白いんじゃない?」
そこまでくると893の発想だよ。エリカ姉さん、ぱないっす。オストリンデンの実家で何を学んだのか興味がある。
そんな上司の発言をドーラは感心した顔をして見ているのだが。預け先を間違えてしまったか? 兄さんは少しだけ心配だぞ。
俺たちが食事している間にウーマはハジャル市街を抜け、来た道を戻っていった。
食べている時は周囲のことなどすっかり忘れていたのだが、朝食を終え後片付けも終わったところで、前方ハッチから顔を出してウーマの前を進ませ見張りを任せていたリンガレングに状況を確認してみた。
「市街通過中、何度か襲撃を受けましたが、襲撃者は全て処分済みです」
「そ、そうか。処分した数は?」
「936体です」
簡単に936体というが、ここの軍隊が500人隊制を敷いていたら、2個500人隊相当だ。
「ご苦労。引き続き周囲を警戒してくれ」
「はい」
今回は敵対する者は処分しろという指示をリンガレングに出していたからリンガレングが反撃したわけだが、俺の知らないところでズーリからここまででウーマが攻撃を受けていた可能性は大いにある。だからどうというわけではないが、カルネリア軍に恐怖を植え付けたかもしれない。カルネリアを抜けたらリンガレングへ出している反撃指示は解除しておくとするか。
ハジャルを出て30時間。ウーマは沙漠を越えズーリも横断してズーリとヨーネフリッツとの国境に到着した。
その間に俺はハジャルで収納した瓦礫の分別をしていた。
金目の物として、額に入った絵が数十点。中には傷ついた物があったがほとんど無傷だった。
その他に銀の食器。これは、かなりの数見つかった。曲がったものもあったが、どこかの工房に持っていけばすぐに直るだろう。
宝石類も多数見つかった。
指輪、ペンダント、ネックレス、なんだかわからないがおそらく儀式用の宝飾品、などなど。
他に、いろんな種類の硬貨が数千枚。
剣や盾、防具などもかなりの数手に入った。
書類や帳簿類もあったが、どれも俺の読めない文字で書かれていた。ケイちゃん見せたところ、ケイちゃんも初めて見る文字だということだった。カルネリア文字とでもいうのか。
そういえばカルネリアはかつての超大国ユルクセン王国の王都があった場所に建てられた国とか聞いたような。カルネリア文字じゃなくってユルクセン文字なのかもしれない。
丘の上にいた連中の中にはちゃんと読める者がいたはずだが、今さらどうでもいいや。そういったこういったは将来の考古学者の範囲だ。
絵画も宝石類も明らかに盗品なので、大っぴらに飾れないのだが、ほとぼりがさめたら博物館でも建ててそこに飾っておけばいいかもしれない。そのころには世界中から山のように
博物館の名まえは『大ライ博物館』か『大エド博物館』だな。あれ? どこかで聞いたことがあるような、ないような?
そういった物品以外に死体もかなり入っていた。検分する気にもなれなかったので、そのうちダンジョンに行くことがあったら、御子の死体と一緒に捨ててやる。
途中、御子をのしイカならぬのし御子にしてしまったあたりに差し掛かったはずだが路上に惨劇の跡は見当たらなかった。誰かがきれいに掃除したのか、俺が見落としただけなのか。どっちでもいいけど。
国境の門を壊さないよう俺たちはウーマを降り、リンガレングとウーマは収納して門を通過した。兵士たちが敬礼するなかウーマを出して乗り込みゲルタを目指した。
ここから50時間でゲルタだ。その間エリカとドーラはキューブの練習していれば、ケイちゃんくらいにはうまくなるだろ。
ゲルタの手前で少し寄り道して久しぶりに父さんたちの顔を見ようかと思ったけれど、ドーラも何も言っていないし、いきなり現れても迷惑だろうと思ってパスした。
国境を越えて翌々日。ウーマはゲルタの西門に到着した。いつもと同じようにウーマから降りてゲルタ城塞を横断し、東門の先でウーマに乗り込んだ。
ブルゲンオイストの市街地前でウーマから降りそこからは徒歩で王城に向かった。
ドーラが王城に顔を出す前に例の店に寄って甘いものを食べようと言ったが却下した。
王城の門からは兵隊に案内されて本棟に進んで、そこからは侍女に会議室まで案内された。
俺たちがくればドリスとの会談ということは自明なので何も言わなくても部屋の中で少し待っていたらドリスが側近3人を連れて部屋に入ってきた。
「忙しいところ、ありがとう」
「いえいえ。それでハジャル襲撃の首尾はいかがでしたか?」
「ハジャルの丘に建っていた神聖教会の建物は文字通り全て破壊した。
ハジャルまでの道中も含めて2人の御子も始末できたけれど、総大主教は見つからなかった」
「……」
ドリスは俺の説明に驚いたようだ。
もちろん、主君が驚いた以上に側近3人は驚いていた。
リンガレングがやったことだが、リンガレングのことは何も言っていない。もしかしたら俺のことをヤヴァい人間と思っている?
リンガレングのことも言わなかったが、お宝と酒のことも言わなかった。親しき中にも礼儀あり。違うか。
俺とドリスが話している間にお茶とお茶菓子が運ばれてきた。お菓子を見ると見覚えのあるスイーツではありませんか。俺たちの御し方を分かっていらっしゃる。
ついにあの店は王室御用達になったってことだな。
ツェントルムに店ができたら大侯爵家御用達間違いないのだが。
ドーラの顔をチラ見したら、満面の笑みを浮かべていた。
一時間ほどで城を辞して、俺たちは夕暮れの市街を街道に向けて歩いていった。
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