第286話 戦利品


 ハジャル襲撃を終えて帰還したリンガレングとペラから戦果を聞いている。

「赤い法衣を着た者は見なかったか?」

「抵抗した二体を処分しました。他に3体赤い法衣を着ていました」

「緋色の法衣を着ていた者はいなかった?」

「見ていません」

「ペラも?」

「はい。見ていません」

 総大主教はいなかったか。

 赤い法衣の大主教、緋色の法衣の総大主教についてちゃんとした指示を出さなかったのは失敗だったな。総大主教を捕まえていろんなことを聞き出したかったんだが。

 しかし、ハジャルは前世で言うところのバチカンのようなもの。総大主教がいてもおかしくない。

 たまたま不在だったのか? それともうまく隠れたのか?

 これは俺たちがちゃんとハジャルまで行って検分した方がいいな。


「総大主教のことを忘れてた。

 隠れている可能性もあるからウーマでハジャルまで行こうと思うけど、どうかな?」

「見分する時にはウーマから降りるでしょうから、みんな防具を身に着けた方がいいわね」

「そうだな。

 移動する間に準備しておこう。

 ウーマ。道なり進んで前方の丘に登ってくれ。

 リンガレングは威嚇のためウーマの前を進んでくれ。進行を阻もうとする者は排除だ」

「はい」



 リンガレングがサイドハッチから飛び出して、ウーマが動き始めたところで俺たちは装備に身を包むため自室に戻った。


 5分ほどで全員装備を整え居間に集合した。


 抵抗なく市街を通り過ぎたウーマはリンガレングの後について城壁の瓦礫が転がる丘をめぐる上り道を登っていった。


 丘を登り切った先はまるで空爆を受けたどこかの都市の廃墟のようで、どこもかしこも瓦礫の山。大勢の人が道の上に転がった瓦礫の上や地面の上にじかに座ってじっとしていた。

 その連中がリンガレングだかウーマを見て明らかおびえている。多分リンガレングが怖いんだろう。


 ウーマを止めて、俺たちは外に出た。

 総大主教はここにいたのかいなかったのか? いたならどこで総大主教を見たか? ケイちゃんがそこらの見た目、難民に聞いていった。

 5人ほどにケイちゃんが声をかけたが、誰も首を横に振るばかりで何も分からなかった。


「だめですね」


 何か手掛かりはないかと歩いていくと、リンガレングによって処理された者たちが一カ所に集められ積み上げられていた。ほとんどの死体は防具を着ていたので神聖教会の私兵たちなのだろう。


「瓦礫の下に地下室とかないかな?」

 これだけ要塞化が進んだ場所なので、地下室はありそうだし、丘の外に通じる秘密通路もありそうだ。

 となると、総大主教がここにいたとしても捕まえることは困難だろう。

 あと残った御子は白。他にもいるかも知れないが、もしここにいて総大主教もここにいたとしたら白は総大主教の護衛に回った可能性もある。


「ケイちゃん。御子の数とか、白い御子のことをそこらの連中に聞いてみてくれる?」

「はい」


 今度も数人にケイちゃんが話しかけた。首を振るものは幸いいなかったようだ。

「御子の数は5人だそうです。赤、青、白、黒の他に金色の御子がいてその御子が御子のリーダー格だったようです」


「なるほど。

 そういえば、ここに聖なる石があったんだよな。どこにあるんだろう?」

「アレは大聖堂の中に置かれていると聞いたことがありますから、今は瓦礫に埋まっているのではないでしょうか」

 何かの役に立つような石ならまだしも、何の役にも立たないような石をわざわざ探すこともない。もし見つけたら腹いせに叩き割ってやるくらいしか意味がない。

 どうせ、ここのエリートたちもイワシの頭程度しか信じてないだろうし。俺が叩き割ったとしてもどこかから似たような石を見繕ってくるだけだろうし。


 待てよ。世の中全て金で動くと考えると、ここの連中だって金で動いているはず。どこかに蓄財しているのではないか? 前世の宗教法人は蓄財の鬼だった。この世界の宗教法人が御多分に漏れるとはとても思えない。

 聖なる石などどうでもいいからこいつらの貯えた金をごっそりいただいてやろう。

 となると、やはり瓦礫は邪魔だし、ボーっとおびえて座っている連中が邪魔だ。

 

「リンガレング。大声を出して、そこらで座っている連中をこの丘の上から追い出してくれ」

「エド、何を始めるつもり?」

「神聖教会と言っても金がなければ活動できないだろ? そしてこいつらは派手に活動していた。つまり金持ちって事じゃないか?」

「ほー。さすがはエド。いいところに目を付けたわね」

「瓦礫を片付けて連中が蓄財したお金を見つけだして戴けばそうとう痛手になるはずだ。エリカもそう思うだろ?」

「思う。思う」


 リンガレングが大音声でそこらでだらしなく座っていた連中を追い払い始めた。

 10分ほどで俺たち以外丘の上に誰もいなくなったところで俺は順に瓦礫をキューブの中に収納していった。

 何も考えずに瓦礫を一山ひとやまと考えてどんどん収納していく。

 何が入っているのかあとで確かめればいい。

 みるみる瓦礫が片付いていく。しかし、俺のキューブ、いくら収納しても窮屈になった感じは全くしない。ありがたやー。


「エドのキューブって際限ないの?」

「うーん。全くいっぱいになった感じがしないんだよなー」

「大きいことはいいことだからいいけど。なんだかキューブの使い方が間違っているような」

「いっぱいになるまではこの使い方でいいんじゃないか? そのうちダンジョンの13階層辺りに行って要らないものを捨てればいいだけだし」


 5分ほどそうやって瓦礫を片付けていたら、地下に向かう階段の入り口が現れた。

「やっぱり地下があった。

 入ってみよう」

「大丈夫かな?」

「大丈夫だろ」

「エド。わたし上にいちゃだめ?」

「ドーラ。上にいるより一緒にいた方が安全だぞ」

「じゃあ一緒に行く」


 瓦礫を収納しながら階段を下りていったらその先は扉になっていて、取っ手を引いても押してもびくともしなかった。

 これは当たりかな?


 開かない扉は収納すればこの通り。最初からなかったようだ。


 扉を収納したその先は一本道の通路になっていて行き止まりに扉が見えた。

 ここはダンジョン内ではないので罠があっても赤く点滅はしないだろうが、自分使いの場所にワナを仕掛ける物好きはいないだろう。


 とはいえ、用心に越したことはないのでリンガレングを先に歩かせて突き当りまで歩いていった。


 突き当りの扉は見た目から重厚で、見たことはないが大金庫の扉のような雰囲気がある。

 最初から開けることは諦めて収納してやった。


「当たりかな?」


 光が乏しいのでカラーでは見えないのだが、扉の向うは木箱が無数に積み上げられた倉庫だった。


「同じ形に箱が積み上げられているけれど。

 何が入っている?」

 箱自体は角を金具で補強した相当頑丈そうに見える木箱で10段ぐらい積み重ねられている。

 手前で一番上の木箱に手をかけて持ち上げようとしたら持てないわけではなかったが俺でもかなり重かった。

 この重さは金貨だ。俺の勘がそう言っている。

 なんとかひと箱を抱えて床の上に置き、フタに手をかけた。

 フタにはカギなどかかっておらず、簡単にフタが開いた。

 中に入っていたのは予想通り金貨だった。暗がりでもはっきり分かる。

 部屋の中の木箱の数は数百はある。

 ひと箱2000枚の金貨、箱の数を500とすると100万枚。とんでもない蓄財だ。宗教は信じる人から儲けるをでいってるな。

 

「やったわね!

 100万枚はあるんじゃない?」

 俺もそう思う。

「全部回収、回収」

 あっという間に部屋の中にあった木箱が片付いた。

 一月半ばではあるが、遅ればせのお年玉だ。わーい!


「これだけあれば、ツェントルムの開発がどんどん進みますね!」

「エド。こんなに持ち出しちゃっていいのかな?」

「戦利品だからありがたくいただかないと」

「それでいいの?」

「いいんだ。相手の力を削いで俺たちの力を伸ばす。それが戦術の基本だろ?」

「そういえばそうだった」

 ドーラは領軍本部長のエリカの子分になって以来、戦術とか隊形とかそういった軍事関連の言葉を使うとすぐに納得してくれる。特に戦術という言葉に弱いようだ。分かってしまえばわが妹ながらチョロい。

 戦略となると詳しく説明を求められたら俺も苦しくなるので、口にしないようにしている。


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