第265話 艦隊本部説得


 両洋に各々一つずつある西ヨーネフリッツ王国の艦隊拠点に対して、ヨーネフリッツの商船に対する一切の妨害を行なわないよう要求するため両拠点に陸路で向かうことにした。


 領軍本部から地図を取り寄せて検討した結果、ブルゲンオイストと2カ所の西ヨーネフリッツの艦隊拠点を結ぶと約1850キロの行程だった。実移動時間として62時間。思った以上に大したことはなかった。ちなみに今の領軍本部も以前の国軍本部と同じ建物である。


 3日間ブルゲンオイストにとどまった。

 この3日の間にドリスの即位準備とヨルマン領の運営についてケスラー以下の官僚たちに指示を出したり、軍の運営について軍本部へ指示したりしていた。

 ドリスの即位については戴冠式ではないので、旧玉座で済ませるという大まかな方針だけは伝えている。

 その間にディアナ、ブレスカから恭順の確認が取れている。残りのオストリンデン、カディフ、サクラダはまだだが、駐屯する兵力も限られた都市なので問題は起こらないだろう。

 さらに、今まで閉鎖されていた王城内の玉座の間が整備され、ドリスと側近であるサリーたちの居室等が設けられた。

 俺たちのために、別棟の部屋の整備も行ったようだがもちろん誰も使わなかった、だって、ウーマが最高なんだもの。



 4日目の早朝。


 ウーマに乗った俺たちはブルゲンオイストを発って、西ヨーネフリッツの南大洋に面した艦隊拠点、ドロイセンに向かった。


 西ヨーネフリッツの艦隊拠点に赴くにあたり、ドリスたちをブルゲンオイストに残して置くのは少し心配だったし本人たちも付いて行きたいと言っていたので彼女たちも一緒だ。


 ブルゲンオイストからドロイセンまでの移動距離は550キロ。移動時間は正味で18時間。

 ウーマに乗った俺たちは午前6時に移動を開始し、1時間後、ゲルタの東門前に到着した。

 そこで一度ウーマを降りて徒歩でゲルタを横断した。

 ゲルタ守備隊の総合指揮は第1、500人隊の隊長に任せることにしてケイちゃんも合流している。そのケイちゃんから守備隊の状況に異常がなかったことを聞いた。


 ゲルタの西門を出てウーマに乗り込んだ俺たちは、西から南に弧を描くように街道を進んで、深夜午前0時、ハルハ河の河口に広がるドロイセンに到着した。


 初めての街のため艦隊本部がどこにあるのか分からなかったので、朝までウーマの中で待機することにして、午前7時。ウーマを一人降りたケイちゃんが遠くからウーマを眺めている見物人を捉まえて艦隊本部の場所を聞いた。ケイちゃんがウーマに戻り、ケイちゃんの指示でウーマは艦隊本部に向かった。


 朝の街の人が道を空けて見守る中、ウーマは高台にあった砦風の艦隊本部前に到着し、そこで俺とペラがウーマを降り、門前の衛兵に責任者への取次ぎを頼んだ。

「閣下、少々お待ちください」

 俺が閣下と呼ばれているということは、俺たちの義挙はここまで及んでいなかったようだ。予想通りではある。


 それほど待たされることなく俺たちは敷地の中に通されそのまま建物の中に招かれた。

 会議室風の部屋に通され少し待っていたら、壮年のおっさんが若い衆を二人連れて部屋に入ってきた。

「東方艦隊を任されています、リンデマンです。ライネッケ閣下」

「朝早くから申し訳ありません」

「いえいえ」

 お互い席に着いたところで、まずは状況を説明しておくことにした。


「ご存じないでしょうが、長らく失踪していたと考えられていたドリス殿下が数年前帰国され、以来わたしが保護していました」

「それはまた」

「ここだけの話ですが、ドリス殿下の失踪理由は現国王による暗殺を恐れたためです。

 リンデマンさんにも心当たりがおありではありませんか?」

「……」

「そういうことでしたので、ライネッケ領でドリス殿下をかくまっていたわけです」

「理解できます」

 心当たりあったようだ。目の前の艦隊本部長も貴族だろうし、その関係のうわさ話は仕入れていて当然か。

「わたしのライネッケ領はご存じの通り木しかない領地でしたので大きな動きはできなかったわけですが、なんとか形になってきたことで、先日ヨルマン1世の正統なる後継者のドリス殿下を戴き、簒奪者からヨーネフリッツを取り戻す行動を起こし数日前に旧ヨルマン領の奪還を果たしました」

「何と!」

「というわけで、リンデマンさんとわたしは敵同士ということになります」

「……」

「これはご存じだと思いますが、わたしたちがその気になればこのドロイセンの港につながれた軍艦全てを短時間で沈めることも可能です」

 そこで息を飲む音が複数聞こえた。

「とはいえ、わたしも同じヨーネフリッツの人間ですし、やみくもに海兵を軍艦ごと沈めたいわけではありません」

「それで、わたしにどうせよというお話でしょう?」

「ご理解いただきありがとうございます。

 簡単な話です。ヨルマン領の商船に対して一切の干渉をしない事。ただそれだけをお願いしに来ました」

「それでしたら、わが方の軍艦を沈めた方が早いのではありませんか?」

「それも考えたんですが、そうしてしまうとヨーネフリッツの東海岸がドネスコの軍艦に対して丸裸になり、わが方だけでなくそちら側の商船も狩られかねません」

「なるほど。理解しました。よろしいでしょう。わたくしがこの本部で指揮を執っている間、決してヨルマン領の船には手を出さないと誓います」

「ありがとうございます」

「ところで閣下、ドリス殿下はお元気なのでしょうか?」

「もちろんです。近日、ヨルマン1世の正統な後継者としてブルゲンオイストで即位される予定です。国名はもちろんヨーネフリッツ。王名はドリス・ヨルマン1世。国名の区別がないと困るので皆さん方のことは西ヨーネフリッツと呼ぶことにしています」

「分かりました。

 これから閣下は北に向かわれるのですか? それともすでに?」

「これから北に向かいます」

「北洋艦隊の本部長もおそらく閣下のご提案を受け入れるでしょう」



 無事東洋艦隊本部での用件を済ませた俺たちは、ドロイセンを発ち次の目的地、北大洋に面した西ヨーネフリッツの北方艦隊本部に向かった。移動距離は700キロ、ほぼ丸1日の距離だ。


 翌日8時。

 北方艦隊本部の前にウーマを止め、ペラを伴いドロイセンの時と同じようにそこの本部長と会談した。東方艦隊本部長のリンデマン氏の予想通り、北方艦隊本部長も簡単にこちらの要望を受け入れてくれた。

 だれだろうと部下を無駄死にさせたくはないだろうからな。


 北方艦隊拠点からブルゲンオイストまでの帰りは600キロ。ちょうど20時間。

 エリカが釣りをしたいと言い出したが、却下して陸路でブルゲンオイストに向かい、午後6時。ウーマはブルゲンオイストの王城**前に到着した。


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