第266話 ドリス・ヨルマン1世。ヨルマン2世
ヨーネフリッツの二つの艦隊本部に赴いてヨルマン領関係の船に対して干渉しないと約束させた。
ブルゲンオイストに戻り、王城の官僚たちに作戦成功を伝えた。
旧ヨルマン領の太守をしていたケスラーはそつなく旧ヨルマン領を運営しておりそれなりに有能だったようだ。また、
そのケスラーの監督の元、ドリスの即位式の準備は完了したそうなので作戦から帰った翌々日、行なうことにした。
即位式の内容だが、ブルゲンオイストの官僚が用意した王笏を
ちょっとやり過ぎではあるし、ドリスが俺の傀儡であることを強調していいものなのか? とか聞いたところ、それ以外誰も考えないでしょう。と、返された。
俺は正装は持っているのだが、こういった儀式のパフォーマンス用衣装は持っていないのでヘルメットと手袋は外すものの、それ以外の防具を身に着けることにした。
肝心のドリスについても女王さま衣装は何もないので、俺と同じで防具を身に着けた軍人スタイルなのだそうだ。
君主の権力の象徴である王笏についてはブルゲンオイストの木工房に依頼してそれラシイものを作り金粉を塗ったものだそうだ。俺も実物を見たが非常にちゃちなものだった。あまりにチャチだったので、さすがに本番では使えないと思った俺は、俺のバトンを代用することにした。もちろん使った後は返してもらう。君主の権威の象徴である王冠などはヨルマン2世から奪還する予定である。戴冠式は王冠を取り戻した後に行なうことになる。
即位式の参加者はブルゲンオイストにいる騎士爵以上とした。
即位式当日。
玉座の間に20人ほど集まった中、俺は玉座の隣りに立って、ドリスが現れるのを待っていた。俺の隣りには、紫色のビロードの上にバトンを乗せたトレイを両手で捧げ持った侍女が立っている。
ドリスが玉座の間の後方から現れたところで、俺の隣りに立っていた侍女を含め俺以外員がドリスに向けひざまずき
典礼官がいないので式の進行が難しいのだが、何となく動きは揃っている。ドーラもちゃんとひざまずいて頭を垂れた。偉いぞドーラ! ってそれほどでもないか。
ドリスが俺の正面に立ちひざまずいたところで俺は考えていた口上を口にした。
「なんじ、ドリス・ヨルマン。ヨーネフリッツの王としての権力の証、王笏を授ける」
「謹んで賜ります」
ドリスにバトンを渡すため侍女が捧げ持つトレイからバトンを手に取ったらいきなりバトンが金色に輝き始めた。
全員頭を垂れているはずなのだが玉座の間からどよめきが沸き起こった。
バトンはただのカギではないと思っていたが、ここにきて謎の機能が発動してしまった。何の意味があるのかは分からないが演出とすれば実に素晴らしい。
ドリスが両手でバトンを受け取り、俺がバトンから手を離したらバトンの輝きが消えてしまった。
あれっ? ここで急に光が消えてしまってはちょっとマズいんじゃないか?
俺が王笏を新王に授けることところを見せることははっきりと意図したのだが、このバトンの輝きまで俺が意図したことだと思われたら大いにマズそうな?
ドリスがそんなことを思うわけはないと思うが、玉座の間にいる連中はどう思うだろうか?
今さら仕方がないけれど。
バトンを受け取ったドリスが玉座に着いたところで、玉座の間にいた全員がひざまずき頭を垂れた。
もちろん俺たちも同じようにひざまずいて
その後俺たちも立ち上がったところで即位式は終わった。
バトンが光ったことがどうも気になる。なにか効能があるのは確実だ。
今回のことを整理してみよう。
今までバトンを手にしてきたが今回のように輝いたことは一度もなかった。つまり、俺が手にしたことが原因ではない。と、言えるはず。
いままで俺がバトンを持った時と今回の違いは光ったのが玉座の間だったことだが、俺が手を離したら輝きは消えてしまった。
うーん。分からん。
無理やりこじつけると、玉座の間で俺が手にしたことが、
即位式の翌日。
陞爵が発表された。
俺は大侯爵に、エリカは伯爵に、ケイちゃん、ドーラ、ペラはそれぞれ2階級特進して子爵に陞爵した。
その際、大侯爵位は公爵位より上であることも発表されているので俺は2階級特進したようだ。
とはいえ、俺は領地持ちだし、エリカたちは俺の寄子扱いなので国から年金などは支給されない。意味合い的には何かの式典などがある場合座る位置がエラそうになるだけだ。
なお、今回恭順の意を示した貴族の地位はそのままとしている。また、まだ恭順の意を示していなかった領内各都市の代官から恭順の意を示す書簡が到着している。これで旧ヨルマン領の掌握は完了した。
次の段階は、新ヨーネフリッツ誕生のビッグニュースがヨーネフリッツ本土に広がるのを待って、各領地持ち貴族に対して国王からの親書という形で恭順を促す。
1カ月後に親書を送り始め、1カ月様子を見、その後、西ヨーネフリッツの王都ハルネシアに向けウーマを先頭に行軍する予定だ。行軍の基幹戦力はゲルタの守備に就いているヨルマン領軍2個、500人隊とエルフ部隊。ゲルタ城塞には元ゲルタ守備隊で現在王都ブルゲンオイストの駐屯地に駐屯する1個、500人隊を充てる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ドリスの即位式の5日後。ヨーネフリッツ王国の直轄領である旧ヨルマン領が東に隣接するライネッケ侯爵の軍勢によって占拠されたという報がハルネシアの王城に届けられた。
「陛下。ライネッケ侯爵が動いただけではなく、ドリス殿下を旗印とし、ドリス殿下こそヨーネフリッツの正統な後継者と称しているようです」
「ドリスは生きていたのか?」
「本物であるかは分かりかねますが、おそらくは。国民から見れば、たとえ偽物であってもライネッケ侯爵が後ろ盾に成っている以上、差はありません」
「反逆者であるライネッケ侯爵の爵位はく奪は当然として、討伐はやはり難しいのか?」
「軍による討伐は不可能です。できることは、暗殺者を送ることくらいですが、ライネッケ侯爵を討ち取れる手練れはまずいないでしょう」
「もし、ライネッケ侯爵がここに攻めてきた場合防げるのか?」
「この城も1日も持たないと思います」
「つまり、打つ手なし。と、いうことか?」
「はい。ライネッケ侯爵に対して懐柔策を取らず強硬策を採ったことが誤りでした」
ヨルマン2世。ドリスの兄ハルトマンは思考をめぐらした。
――ドリスがエドモンド・ライネッケに接近した場合、次の王位は確実にドリスのものとなる。エドモンド・ライネッケの暗殺は当時も不可能と考えられており、取り得る選択肢はドリスの暗殺しかなかった。しかし、ドリスは
ドリスはおそらく本物だろう。そのドリスとエドモンド・ライネッケが結びついたとなると領地持ち貴族たちは動揺する。戦力的にわが方に勝ち目がないことは誰の目にも明らかである以上、領主たちは雪崩を打ってドリス側につくことは大いにあり得る。
領主にとどまらず、国軍といえどもエドモンド・ライネッケと彼の大ガメ、カラクリグモに向かっていく勇気を持ち合わせている者はまずいないだろう。
なぜ、あの時……。
――ここでドリスに国を譲ると言って矛を収めるだろうか?
おそらくドリスは父の死について不審に思っているだろう。すべてを闇に葬ることはできない以上、厳しく詮議された場合、口を割る者は必ず出る。そうなればわたしは大逆罪により処刑は免れない。
――結局のところ、わたしに残された選択肢はカルネリアに亡命することだけということか。カルネリアからすれば、わたしを保護することでヨーネフリッツに対して戦争を仕掛ける口実を得られることになるので亡命は受け入れられるだろう。ドリスからすれば同じようにカルネリアに対する開戦理由を得ることになるが、ヨーネフリッツから見てカルネリアと戦争することで得られる利益などたかが知れているうえ、宗教的不利益は計り知れない以上ヨーネフリッツ側から積極的にカルネリアに対して軍事行動を起こすことはないだろう。
――いずれにせよ、カルネリアの大使と会って話をしてみよう。
[あとがき]
世良公則さん、良いですよね!
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