第257話 ウーマ改装、風呂


 ドリス殿下の歓迎会の翌日。


 珍しく朝から小雨が降っていた。

 朝食を終え、後片付けをして、俺は外に出ることなくソファーに座っていた。ドーラとペラは行政庁に仕事に出かけ、エリカとケイちゃんはウーマの中の拭き仕事などをしている。


 掃除が終わったエリカたちがソファーにやってきた。二人にバナナを勧め、俺も一本手に取った。

「雨が降っていると外に出る気はしないな」

「そうよねー。でも日照り続きだと困るけれど、これくらいの雨ならいいんじゃない」

「それもそうなんだけど、こういう日に外で仕事している連中は嫌だろう。雨を通さない布でマントが作れればいいんだけどな」

「どんな布も雨は通すものねー。馬車の幌は比較的雨を通さないけれどそれでも雨は通るし、第一あれだと重たいし」


 そういえば風船爆弾の風船は和紙にコンニャクのりを塗ったものだと聞いたことがある。気球の水素が抜けないわけだから雨も通さないだろう。

 コンニャクをライネッケ領で栽培して、防水マントを特産にできないだろうか?

 その前にコンニャク芋を手に入れないといけないし、コンニャクの製法も開発する必要がある。

 製法の開発を俺がやってもいいが、俺がやっていては他のことがおろそかになる。そもそもコンニャク芋もないわけだし。

 だけど専門に人をアサインすれば知恵と工夫で何とかできるんじゃないか?

 つまり知恵と工夫専門の部署を作ればいいのではなかろうか? 言い換えれば研究所だ。そこでいろんなことを試していく。時代を進めるという俺のあるじのニーズにも合致している。

 これはやらない手はないな。


「もし、雨を通さない布ができたらいいよな?」

「それはいいと思うけど、当てはあるの?」

「当てはないんだけど、人間は知恵と工夫で障害を乗り越えることができる生き物なのだ」

「だから何?」

「つまり、頭の良さそうな人間を集めて、専門にそういったことを考えて試すんだよ」

「その考えは悪くないと思うけれど、その頭の良さそうな人間を集められるのかというと、すごーく難しいんじゃない? ちゃんと観察しないと頭がいいかどうかなんてわからないんだし」

 確かにエリカの言う通りだった。しかし、俺には天下の宝刀、レメンゲンがある!

 つまり、頭が人並みでもこういったこととかああいったことが好きなら、それは何かの能力だ。つまりレメンゲンで伸ばせるということだ。


 成果がなかなか上がらなくてもいい。考え続けていれば何か生まれる。ハズ。


 マントというか雨合羽からここまで考えてしまった。

 そういえば近代化の象徴といえば鋼鉄の大量生産だ。これがかなえば蒸気機関と鉄道スチームパンクの世界だ。一気に時代は加速する。夢は膨らむ。俺は傍からスポンサー然としてこういたものを考えてくれ。と、言って金と人を提供していく役だ。


「エド。そういったことを考えることはいいことだと思うけれど、食堂とか酒場も増やした方がいいんじゃない?」

「今の雑貨屋の二号店も欲しいですよね」

「芝居小屋とかもっと立派な劇場とか。そういったのもあればいいわよね」


「うん。そういった物も必要だよな。それもこれも人手不足ですぐには手が付けられない。人が増えてくるのを待たないとな」


「そういえばドリス殿下のことだけど」

「なに?」

「ここのお風呂を使わせてあげない?」

「そうすると、ここの中を見せることになるけど大丈夫かな?」

「だってもう仲間みたいなのものでしょ?」

「それはそうだけどな。何で急に?」

「殿下の髪かなり傷んでたし、お付きの3人も同じように髪が傷んでて何だかかわいそうになっちゃったんだよねー」


「確かに他国に逃げてたわけだからそれなりに苦労してたんだろうな。

 殿下だけというわけじゃなく4人ともだろ?」

「もちろんそう」

「俺がとやかく言うような話じゃないし、エリカがいいならいいんじゃないか? 風呂場の洗濯の箱も使ってもらってもいいし」

「それもそうね。あれがもう一つ余分にあればいいんだけど」

 確かに。エリカたちが洗濯してたら俺はエリカたちの洗濯が終わるまで待たないといけないものな。使用者が増えれば待ち時間が長くなるのは当然だし。


 そんな話をしていたら、エリカとケイちゃんは揃って雑貨屋を見てくるとウーマから出ていた。



 このところウーマに頼むようなことが何もなかったけれど、洗濯機の増設はできないだろうか?

 2、3日念じていればいかにもできそうな。

 でも、それができるなら風呂場の拡張も? さらに言えば脱衣所の追加も。

 考え始めるときりがない。

 というほどでもなかった。十分満足してるからな。


 ウーマのことはそれでいいが、何のかんのと言ってまだ公衆浴場もないんだよな。こうなったらいっそのこと温泉保養所を作りたい。片道1日以内で移動できる場所に温泉を見つけられないだろうか?

 せめて年に1回、3泊4日程度で温泉に浸かってリフレッシュ。おいしいものを食べて、おいしい酒を飲む。領民の厚生面は格段に向上するハズだ。


 その気になって温泉を探したいのだが、火山が近くにあるわけでもなさそうだし、鉱山を探した時に見つかっていない以上、望み薄かもしれない。

 それでも俺にはレメンゲンと、今のところ何の役に立っているのか不明のミスル・シャフーの加護がある。俺の実務である立木の引っこ抜きという名の開墾作業が一段落したら、本格的に温泉調査にとりかかろう。


 それはそうと、ドリス殿下を風呂に誘うのなら、シャンプーやボディーソープの使い方も実地で教える必要があるのでエリカたちが一緒に入らざるを得ないだろう。ということはできるなら風呂場の改装を早めに済ませておきたい。ということで今の浴室を2倍に広げ、手前に脱衣室を設けてくれるようウーマに頼んでみた。

 

 ガッシャン、ゴッションとか何の音もしなかったのだが、扉の先の浴室の雰囲気が変わった。ような気がして、扉を開けたらその先は洗面台付きの脱衣室だった。10人分くらいの仕切られた棚があり、全身ドライヤーも2台置かれていた。こうなってくると入り口前のドライヤーが邪魔になってくると思って扉を開け外を見たら、今まであったドライヤーなどがもうなくなっていた。


 脱衣室の先はすりガラスで仕切られて、重めのスライドドアを開けた先はもちろん浴室だったが、湯舟がだいたい1.5倍になり、洗い場は8人が同時に洗えるように蛇口やシャワーが付いていた。さらに奥の壁にはカゴが並べられた棚が作られて、その下に洗濯機が4台なんでいた。

 至れり尽くせり。『ありがとう』って言うから設計者でてこい!


 エリカとケイちゃんが帰ってくるのが楽しみだ。


 で、30分ほどしたらエリカたちが帰ってきた。

「お帰り」

「あら? なに? 久しぶりにニヤニヤしてるけど、何かあった?」

「あるんだよ。ドリス殿下を風呂に招待するっていうことだったから、脱衣室を作って浴室を大きくしてみた」

「どれ。……。あれ? 入り口にあったものが無くなってる?」

「脱衣室に移動した」


「ホントだ。広ーい。これは使いやすそう」

「ほんとに広くて使いやすそうです」


「うわー。お風呂も広くて。おー、8人一緒に体が洗えるんだ。洗濯箱も増えてる!」

「もっと早く気付いて改造しとけばよかったんだけどな」

「うん。でも気付いてくれてよかった」

「そうですね」


「午後になったらドリス殿下たちを風呂に招待に行くんだろ?」

「うん。そのつもり」

「シャンプーとかの使い方は教えないといけないから一緒に入った方がいいんじゃないか?」

「うん。これだけ広ければみんなで入れるものね。なんだったらエドも一緒に入る?」

「な、なにをバカなこと言ってる!」

「いやーね。冗談に決まってるでしょ」

 いまだ素人童貞の俺をいったい何だと思っているんだ!


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