第252話 遷都式3、ハルネシア2
スウィーツだけでは昼食には足りなかったので、結局各人軽食を頼んでしまった。
俺の言うことを聞いて先に軽食を摂ってから、後でスウィーツの方がよかったのに。と、思ったがそんなことは決して口にしません。無意味以下ですからね。
軽食を食べながら。
「普通なら城の中に宿泊だよね。だけど何も案内になかったし、宿はどうする?」
「どこかに宿を取って、当日城に行けばいいんじゃないか?」
「宿を取るくらいならウーマの中の方が居心地はいいわよね」
「じゃあ、郊外に出てウーマに泊る?」
「何も郊外に出なくてもいいと思わない?」
「どういうこと?」
「例えば、王城の中の空き地とか? ウーマを出せるくらいの空き地くらいあると思わない?」
「かなりイヤミだが、俺たちを追いだせるわけないものな」
「おもしろそうですね」
「ねえ、エド、本当にそんな大それたことしちゃうの?」
「大それたことって程じゃないだろ? ウーマを城の中に置くだけなんだし」
「そうかもしれないけど」意外とドーラは小心者だな。
「ウーマの甲羅の上のステージにリンガレングを乗せておけば誰も文句言えないんじゃない? この国でリンガレングのことを知らない人間はいないでしょうし」
「知らない人間がいてもいいけど、王城にはさすがにいないだろうな。うん。そうしよう」
「見る人が見れば、いつでも皆殺しにできるって言ってるようなものですからね」
エリカはもともと過激だったけど、このところケイちゃんも言うようになったよな。
「以前の軍関係者ならそれが常識なんだろうが、今の王さまとその取り巻きはリンガレングのことも知らないんじゃないか?」
「確かに。ちょっとでも知ってたら、わたしたちのこと邪険にできるはずないものね」
「自国のことさえ分からないようでは、隣国に対しても無知かもしれませんよ」
「まあ、いいじゃないか。俺たちは俺たち。ツェントルムは現に立派に大きく成っているし。ヨーネフリッツの王室がどうなろうとヨーネフリッツが無くなるわけじゃないんだし」
「それもそうですね」
「冗談はさておき、俺たちが行けば泊めてくれるんじゃないか? いちおう俺たちヨーネフリッツのお貴族さまご一行なんだし」
「まっ、それが当たり前の対応よね」
「残念ですけど」
「なんだ、冗談だったんだ。もーう、止めてよ」
「あははは」
軽食を完食してお腹も膨れたところで、俺たちは店を出た。
お土産は忘れずに軽食を注文する時注文していたので、帰る前に店の人が
店を出た俺たちは大通りに戻り、王城目指して歩いて行った。
城壁に囲まれたハルネシアの王城はブルゲンオイストの王城と比べ敷地だけはかなり大きかったが、堀で囲まれてはいなかった。
この城を守るには兵隊が最低でも5000人は必要そうだ。いくら堅牢な城に十分な兵隊が詰めていようがリンガレングには何の意味もないだけどな。
俺たちが歩いている大通りは城壁で囲まれた城の大きく開け放たれ門の前でT字になっていて、衛兵が10人ほどその門の前に立っていた。城の正門なのだろう。
門の前に立ち衛兵の前で大きな声で名乗ってやった。
「わたしは遷都式に呼ばれてやってきたエドモンド・ライネッケ侯爵。後ろの4人はわたしの一門だけど、通っていいかな?」
衛兵たちは俺の言葉が理解できなかったのか、お互い顔を見合わせている。
「わたしは、ライネッケ侯爵だ。道を開けてくれ!」
再度大声を上げてやったら、門の奥からかなり身なりのいい若い男が駆けてきた。
「失礼ですが、招待状をお持ちでしょうか?」
と、その若い男が聞いてきた。
「案内は持っているが、招待状は持っていない。使者は案内しか置いていかなかったのだが」
「招待状の無い方は侯爵閣下でもお通しできません」
「なるほど。よーく分かった。それではわれわれは失礼する。
あなたの上司に伝えておいてくれ。ワザとか不手際か、われわれはどちらでも構わない。と」
俺はそう言って踵を返し、エリカたちを引き連れもと来た道を歩いて行った。
「エド、なかなかやるじゃない。最後のひとことカッコよかったわよ」
「さすがに俺も頭にきたからな」
「だけど、いったいどうしちゃったのかしら?」
「普通じゃない事だけは確かだな」
「わたしたちを怒らせたいのでしょうか?」
「それなら、大成功だったわけよね」
「さーて、こうなってしまった以上ここにいても仕方ないからツェントルムに帰るか。ここを力ずくで押し通っても仕方ないし。そんなことしてしまうと父さんに迷惑じゃ済まなくなるし」
「確かにそうね。とにかくこれでこの国とのマトモな付き合いはお終いってことでいいんじゃない?」
「そうですね。これでスッキリできます。
ですが、今の王さまってわたしたちのこと怖くないのでしょうか? わたしたちのことを怖がって大森林に押し込んだのかと思ってたんですけど」
「そこは不思議よね」
今の男は新国王の意を汲んで俺たちにああいったことをしたのかもしれない。かなり若い男だったから俺たちのことを本当の意味で知らないのだろう。
国が傾くときって、やることがちぐはぐになるんじゃないか? さっきの城の前みたいに。
「それじゃあ、なにも遠慮することないからここからウーマでツェントルムに帰ろう」
大通りに人通りはもちろんあったが馬車はいなかったのでウーマを大通りの真ん中に出してやった。
いきなり道の真ん中に現れた巨大カメに通行人たちは大声を上げて逃げ惑い、それが津波のように大通りを伝播していく。ちょっとやり過ぎたか?
ちょっとだけ反省した後、サイドハッチからウーマに乗り込んだ。
「ウーマ、この道をまっすぐ進んだら街道に出る。その先はウーマがやってきた道だ。
来た道を引き返してまずゲルタまで戻ってくれ」
これでウーマへの指示は終わった。あとは、ゲルタでウーマを降りて城塞の中を通り抜け、その先からまたウーマに乗ってツェントルムに戻るだけだ。
今回はスウィーツを食べられたうえお土産まで買えたので良しとしよう。
それはそれとして、さすがの俺も頭にきたので、完全にヨルマン王家との縁を切った。これからは外交的自由行動だ。
こちらから改めてそういった通告はしないが、向うだってこちらにああいった態度で臨んだ以上そういった状況になる。程度の頭は持っているだろ、バカでない限り。
「これから、ヨーネフリッツ王家とはほぼ断絶するわけだから、その辺りのことをエリカのお父さんに伝えておいた方がいいよな? 商売にも影響出るだろうし」
「そうね。ツェントルムへの帰り道だからお父さんのところに立ち寄ってくれる」
「もちろんだ」
ヨーネフリッツ=ヨルマン王家との縁は切れたと言っても、一般人には関係ない話なので、市街地では時速10キロほどで移動し、街道に入って時速30キロで移動した。
道の真ん中を進むウーマは早めに視認できるので、思った以上に早い段階で馬車は道を避けるため大惨事になることもなくウーマは当日深夜ゲルタ城塞に到着した。
門を開けてもらい、城塞内は来た時同様歩きて横断し、西門を出たところでウーマに乗り込んだ。
翌日、午前10時。オストリンデンに到着した俺たちは、一度ウーマから降りてエリカのお父さんの商会に顔を出した。
「お父さん、こんなことがあったの。……。
わたしたち、これですっかりヨーネフリッツとは縁を切ることにしたのよ。正確にはヨルマン王家だけどね。
お父さんには知らせておいた方がいいでしょ? これから何が起こるか分からないわけだから」
「閣下、まさか戦を仕掛けるのでしょうか?」
「まだその時期ではありませんが、向うから仕掛けてくる可能性は十分あるでしょう」
「なんと」
「向こうから仕掛けてくれた方が有難いんですけどね。その気になればハルネシアまで攻め込むくらい簡単ですから」
「そういえばそうよね。あの城落とすの簡単そうだったものね」
エリカも俺と同じような目であの城を見ていたのか。
「こちらには兵隊の数が揃わないので占領はできませんが、王族を捕まえれば国の半分くらいは寄こすでしょう。ハハハハ。
なんであれ、すぐにどうこうするとか、されるとかという話ではありませんが、一応お耳に入れていた方がいいと思いました」
「ありがとうございます」
エリカのお父さんが話しながらもしきりに額の汗をハンカチで拭いていた。それほど大した話ではないのに。
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