第253話 ライネッケ領軍。女子会
オストリンデンからツェントルムまでの距離にして100キロ、時間にして3時間ちょっとのあいだ5人で話し合ったところ、警備隊ではなくそろそろ本格的な領軍を作ろうということになった。
「最低でも500人隊が1隊は欲しいわよね」
「できれば2隊」
「最終的には10隊は欲しいな。ちょっと贅沢か」
「いっそのこと傭兵も視野に入れてもいいかもね」
「戦いとなれば俺たちは無敵だけれど、敵の捕虜の相手とか敵の都市の占領といった仕事が主だから傭兵じゃない方がいいんじゃないか」
前世の警備会社と考えれば傭兵もアリか? 自分たちで鍛えたわけじゃないから信頼性が低いんだよな。慌てて雇う必要もないだろう。
向こうから言わせると、父さんたちを人質に取っている気になっているのかもしれない。俺からすればもし父さんたちに何かあれば容赦しないわけなので、自爆覚悟でない限り俺をたおしてからじゃないと父さんたちに手を出せない。
ツェントルムに帰り着いたところで、たいして留守にしていたわけではないが、行政庁に出向いて、俺たちが留守にしていた間、異常はなかったかたずねたところ問題はないとのことだった。
その後、全担当を集めて領軍編制について話をしておいた。
「そろそろ、領軍を編制しようと思っているんだが、どうだろう?」
「街を守るためなら、エルフは全員弓を取りますが、外征までとなると人員はどこも窮屈ですから、新たな移民で組織するしかないと思います」
「了解した。少しずつでもいいからその方向で考えてくれ。それと、エルフの中から領軍の責任者と補佐を選任しておいてくれ」
「了解しました」
「あとは、領兵の駐屯地も考えておいてくれ。そうだなー。ひとつの駐屯地で1000人収容できる。そんな感じで頼む」
「了解しました。
優先順位を1番ということで良いですか?」
「そうだなー。ツェントルムの住民の利便性の向上が今まで通り1番でその後ということでいい」
「了解です」
これで、何カ月かしたら駐屯地と500人隊ができ上るだろう。
「あともう一点」
「何でしょう」
「これは急いではいないが、ツェントルムでも子どもが増えてきたから、子どもたちを集めて読み、書き、計算を教える場所を作りたいんだ」
「それはいい考えだと思います」
「建物と、そこで子どもたちに読み、書き、計算を教える人員も手当てしたい。
建物の中には子ども用の机と椅子も必要だな」
「床にじかに座らせてダメですか?」
「どうしても机と椅子が間に合わないようなら仕方ないけれど、できるだけ作ってやってくれ」
「了解しました」
「そうだな、最初の建物は小さくていいけど、子どもが増えた時に簡単に増築できるよう場所だけは確保しておいた方がいいだろう」
「了解しました。子どもたちに教える人員はエルフの里から人を寄こしてもらってもいいかもしれません」
「それくらいなら頼ってもいいか」
「大抵の老人は隠居して日々過ごしていますから、すぐに人は集まると思います」
「その手があったか。しかし年寄りだとエルフの里からここまでやって来るのは厳しくないか?」
「もちろん、わたしたちほど速くは歩けませんが、問題なく歩けます」
「ならいいか」
「ねえ、エド。将来的には、エルフの里の子どもたちもここで学べるようにすればいいカモよ?」
「老人でも歩いてここまでやって来られるなら、護衛は付けるとして、ある程度大きく成った子どもならここまで歩けるだろうし。そうなると寮生活なるな。ここで人と机を並べてそういった物を学べば将来的にも仲が良くなるだろうし。さすがはエリカだ」
「それほどでもないわよ」
産業基盤がちゃんと出来上がり、公共施設が少しずつできていく。胸アツだ。
それから何事もなく1カ月経った。ヨーネフリッツ王家から非礼を詫びる書状なども届いていない。つまりはそういうことなのだろう。
その間に俺も1歳、歳をとり19歳となった。俺と誕生日が1日違いのエリカも19歳。ケイちゃんは実際のところ謎なのだが名目上俺の2歳上なので21歳ということになる。ドーラは15歳だ。
学校の敷地は確保され、建設も始まった。
エルフの里に教師派遣を打診して6名のエルフがすでにやってきている。
彼らの見た目は俺からすれば40代。十分現役なのだがかなりの高齢だという。建物ができ上ったらすぐにでも授業が始まる。
領兵についても駐屯地を確保し、隊舎の建設が始まっている。求人状況も順調ですでに100名が待機状態だそうだ。彼らには各所の飯場に配属して手伝い仕事をさせている。
ケイちゃんに確認したところ、エルフの里からこちらの要望に応えて500人隊ならいつでも出せると聞いた。
確認のため、エルフの里に使者を送り、その旨の確認も取れた。エルフの里に援軍を依頼するのは、俺たちが外に向かって打って出る時なのでまだ先の話だが、これも安心材料だ。
王都ハルネシアでの遷都式のうわさがチラホラ聞こえてきた。
「それなりに成功だったみたいね」
「さすがに、いくらちぐはぐな国だとしても何日も準備した式が失敗することはないだろう」
「それもそうね」
「みんな聞いているかもしれませんが遷都式と同時に国王の婚約が発表されたそうです」
「その話、わたし聞いていない」
「わたしも聞いてない。いったいどこの誰と婚約したの?」
こういう話に対する女子の食いつきは明らかにいい。
「相手は神聖教会の総大主教の娘とか」
「神聖教会の本山というか中心はどこなの?」
「たしか、カルネリアという国のハジャルだったような」
「そういえばサクラダにそんな名まえの劇場があったわ」
「俺はカルネリアって聞いたことないんだけど、カルネリアってどこ?」
「ズーリの先の沙漠を越えた先にある小さな国だったはずです」
「なんでまたそんな小さな国から嫁を貰おうと思ったんだろ?」
「熱心な神聖教会信者だったとか?」
「そうかもしれないけれど、ヨーネフリッツとして神聖教会とくっついて何かいいことあるかー?」
「逆に、小国カルネリアにとってヨーネフリッツとの結びつきは意味があるでしょう」
「確かに」
「そういえばズーリってどうなったんだ? 話が全然伝わってきていないからすっかり忘れていた」
「わたしも全然分からない」
「わたしも何も聞いていません」
「今度、オストリンデンに行くことがあったらお父さんに聞いてみるわね」
「話は戻るけれど、ヨーネフリッツから見てあまり意味のないカルネリアの姫を正妃とするということは、カルネリアの要求を飲まざるを得なかったって事かもな」
「つまり王家はカルネリアに弱みがある。ないしは、わたしたちにはわからないけれど何かカルネリアとくっつくことでうま味があるって事?」
「さすがにどこかの安物の劇みたいな大恋愛の果ての結婚ではないだろうから、そう考えるのが普通じゃないか」
「そうよね」
「なーんだ。愛し合う二人が周りの反対を押し切って結ばれたんじゃなかったんだ!」
15歳の小娘は、そういったことに夢を見るんだろうな。どこの世界も一緒か。ちょっとだけフォローしておこう。
「ドーラ。真相は本人たちと取り巻きしか分からないんだから。ドーラは大恋愛の末の結婚と考えておけばいいじゃないか」
「エドー。一度もっともらしい話を聞いたあとでそんなこと考えられるわけないじゃない」
お説ごもっとも。エリカもケイちゃんも笑ってるよ。真面目な顔はペラだけだ。
「そういえば、いつかブルゲンオイストのお城でのパーティーで前の王さまの娘さんとエドが話してたことあったじゃない」
「あったっけ?」
「あったの」
「すっかり忘れてた」
忘れてたと言ったけど、しっかり覚えている。名まえは確かドリス・ヨルマン。前王の4女だったはず。ここで名まえを出さないくらいの分別は俺にもなるのだよ。
「それはいいんだけど、前の王さまの娘ということは今の王さまの兄弟というか妹よね」
「そうだろうな」
「彼女の
「いきなりどうした?」
「結婚の話が出たから思い出しただけ。あのときはエドをヨルマンにつなぎとめるため、あの
「俺のことがよっぽど気に入らなくてお父さんに無理です。って泣きついたのかもな」
「エドって、そういうところ自己評価低いけど、そこらの男なんか比べ物にならないくらいカッコいいわよ」
あれ? どうした、エリカさん。
「それは、どうも」
「口はタダだから」
さいですか。
何だよ。年に数回しか笑わないペラまで笑ってるよ。
「なんであれ、王さまの妹なんだからそれなりの生活してるんじゃないか?」
「年頃の
「だろうな」
「そろそろ、縁談の話が出てもいいころよね」
「というか、まだ独身なのかどうかは分からないぞ」
「さすがに王族の婚姻のうわさくらいツェントルムにも流れてくるんじゃない?」
「確かに」
「うわさが流れてきていないということはまだ独り身なのよ。わたしたちには全く関係ないけれど、なぜか気になるのよね」
「エリカ、それ分かります」
「ケイちゃんもそう?」
「はい」
「あっ! わたしも。そういった話大好き!」
つまり女子会の会話に俺は混ざっていたということか。
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