第247話 エルフの里
ケイちゃんが、行き止まりの壁の前で何やら呪文のようなものを唱えたら、壁がスライドしてその先に通路が現れた。
現れた通路そのものはそれほど長いものではなく、その先に明かりが見えた。
「まっすぐ進んでください」
通路を抜けたら、その先は崖に張り出した岩棚だった。その崖だが巨大な縦穴の壁で見上げると雲の浮かんだ青空が見え、下を見ると100メートルほど下に緑の森が広がっていた。向こう側の壁が青くかすんでいて森がどこまで続いているのかは分からなかったが、少なくとも穴の直径は10キロはありそうだ。
岩棚の端から13階層の柱の内側にあったような手すりの無い階段が壁に沿って下に続いていた。階段そのものは100メートルほど下の森の中に消えているのでその先は見えない。下の森の木々はそれほど大きなものではないようなので、いくら深くても穴の底はこの岩棚から150メートルも下ではないだろう。
「その階段を下りて行けば里に通じる道に出ます」
ケイちゃんを先頭に俺たちは階段を下っていく。
最初森の木はそれほど大きなものではないと思っていたのだが、階段を下りながら横から眺めると、渦から続く途中の巨木ほどではなかったものの、どの木も50メートルを超えるような大木だった。
階段を下り切った先は森の小道で日の光が遮られている関係でやや薄暗いが、不思議と陰気な感じはなかった。
その小道をケイちゃんを先頭に歩いていく。
小道はまっすぐというわけではなく曲がりくねりながら下っている。その道を進んで行ったら、道はいつしか角石で舗装されたちゃんとした道になっていた。
そして道は黒い屋根に黒い木の柱と漆喰で出来た建物が並ぶ一画に出た。さらにその先に進んでいくとそれなりの数の男女が行き来している広場に出た。
ケイちゃんが広場の入り口で立ち止まったので、俺たちも立ち止まって、キョロキョロ辺りを見回したりしていた。
俺たちというか、ケイちゃんを見つけたその中の一人が大きな声を上げたら、その声がずーっと先の方まで伝播していき、わらわらと男女が集まってきた。
そして、その中から少しだけ年配の男女6名がケイちゃんの前までやってきて、深くお辞儀した。
「巫女さまお帰りなさいませ」「「お帰りなさいませ」」
「みんなも元気そうで何よりです。
それでは、屋敷に行きましょう。そこでこれまでのことと、これからのことを話します」
ケイちゃんを先頭に俺たちが続きその後を先ほどの年配の男女、そして一般ピープルが数十人続いた。もちろん全員横に伸びたエルフ耳をしている。
石畳の道を歩いて行った先には運河?があり、橋を渡った先は庭園でその先に水色の石でできたお屋敷が建っていた。
ケイちゃんはそのお屋敷に向かって歩いて行ったので、そこがケイちゃんの言ってた屋敷なのだろう。
俺たちはケイちゃんに続いて橋を渡り庭園の真ん中の小道を進んでいったが、一般ピープルは橋の手前までついてきたもの橋を渡って庭園には入ってこなかった。
橋のこっち側はエグゼクティブオンリーのようだ。
小道の先の数段の階段を上り玄関先のポーチから開け放されていた扉の中に入った。そこは色とりどりの花の生けられた大きな花瓶がいくつも並んだホールになっていた。花に見とれつつ、ケイちゃんの後に続いてその先の広間に入っていった。
広間は板の間で車座になるようにクッションが床の上に並べられていて、正面の真ん中のクッションの上にケイちゃんが胡坐をかいて座り、俺たちにも座るように言ったので俺がケイちゃんの隣りに座ってその隣にエリカ、ドーラ、ペラの順で座った。俺は胡坐をかいたが残りの3人は足を崩して座った。
おじさん、おばさんたちもクッションの上に座って胡坐をかいた。
「里を留守にしている間、みんなありがとう」
そうケイちゃんがおじさんたちに声をかけたらみんな頭を下げたので、おじさんたちはケイちゃんの言っていた長老連中なのだろう。
「予言通り物事は進んでいます。わたしの隣りに座るこの方こそ予言で語られた『黒髪の使徒』その人です」
ケイちゃんのこの言葉で長老連中が一斉に俺に向かって頭を下げた。実際は俺に向かってなのかケイちゃんに向かってなのかは判別不能だが流れから言って俺に頭を下げたのだろう。
ここは俺がひとこと、何か言った方がいいかと思ってケイちゃんの方を見たらケイちゃんは俺の方を見ることなく話を続けた。さいですか。
「『使徒』さまの名はエドモンド・ライネッケ。皆さん、よく覚えておいてください」
そしてまた長老たちが頭を下げた。
「『使徒』さまに続いての3名は予言に語られた3人でです」
今度は、長老たちがエリカたちに向かって頭を下げた。エリカたちまで予言に出てたのか。すごいぞ予言。俺たちがミスル・シャフーがらみだってことをエリカが知ったら、ついてこなくなるかもしれない。と、俺がケイちゃんに言った時、エリカのことは大丈夫。と、ケイちゃんはハッキリ言っていたが、これを根拠に言ってたんだな。
ところで、予言はエリカたち3人のことは何と言ってるんだろう? 今度ケイちゃんに聞いてみないと。いや、そういった物を当事者が知ってしまうと予言がブレるって言うし、知らない方がいいか。
広間ではケイちゃんの話が続く。
「そして、使徒さまは予言通り『
今度は頭を下げるのではなく感嘆の声が漏れた。
リンガレングを出した方がいいのかな?
「使徒さま、リンガレングを広間の真ん中に」
ケイちゃんに促されたので、俺は立ち上がって、それっぽいポーズで手を広間の真ん中に突き出しリンガレングを
「これが
今度は言葉になった感嘆だった。最後は拝まれてしまった。
「使徒さま、そして3人の方、里の者が一目お顔を拝見しようと集まっています」
ケイちゃんに促されてポーチまで出たところ、橋の向うには大勢の人が詰めかけていた。ほとんどの人が金髪なので、黒山の人だかりではなく金山の人だかりだった。どうでもいいが、これがみんなハゲ頭だったらハゲ山の人だかりだったのか?
などと思ったらつい笑いが混み上がた。そしたら金山の人だかりから歓声が上がった。みんな目がいいのか?
ついでに手を振ってやったらさらに歓声が高まった。何だか面白いぞ。
いい気になって手を振っていたら、これからのことを話しましょうと、さっきの広間に連れ戻されてしまった。
広間に連れ戻された後、俺の国を建てる話になった。と言っても最初は村を作り、そこから少しずつ大きくしていって町から小都市を作っていく。
まずは、国の中心をどこに置くかということだ。
エルフの里を当面の拠点にすることは可能だが、やがて世界の中心になるわけだから、別途1から作った方がいいだろう。
ところでエルフの里の位置なのだが、エリカの実家のあるオストリンデンから見て北東方向に500キロほど離れた大森林の中にあるという話だった。
それで、世界の中心となるツェントルムはオストリンデンの真北100キロの大森林内に造ろうということになった。エルフの里から400キロ以上離れているし、少し旧ヨルマン領に近いような気もしたが、あまり遠いと交易も難しくなるのでそのくらいの距離を取ることにした。いずれ旧ヨルマン領はいただかないまでも実質的に支配下に置くつもりではある。
ツェントルムの建設の傍らで、オストリンデンまで道を造る。ここまでの作業で1年。
道ができたらヨーネフリッツ全土で移住者を募り、ツェントルム周辺を拓きながら小都市目指して人を増やしていく。当面の目標は人口10万。そこでヨーネフリッツから独立宣言し、同時にオストリンデンを接収する。ヨーネフリッツが攻めてくればそれも良し。そうなれば、ヨルマンの北東端の都市カディフを接収する。
人口が50万を超えた段階でヨルマン全土を制圧。そこで再度力を蓄え、ヨーネフリッツ全土の制圧可能なまで兵の数が揃えば、そこでヨーネフリッツを下し、全土を手中に収める。といった遠大な計画を立てた。ヨーネフリッツ全土掌握まで10年。その時、俺は26歳だ。
こうして言葉にすると侵略そのものだが、実際は相手の方から俺たちの国にすり寄ってくるのではないかと思う。まあ、取らぬ狸の何とやらだし、相手がある話なので計画は随時見直す必要がある。なんであれレメンゲンの力が国民に及ぶことが前提だ。この前提が崩れるようならそもそも世界制覇など夢のまた夢。言い方を変えると、前提が崩れることなどありえないのだ。
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