第248話 エルフの里2


 いちおう大戦略を決定したところで、寝室に案内されて装備を解いた。

 エリカたちは俺の寝室に連なった部屋に案内されたが、当たり前だがケイちゃんは自室があるようで俺たちの寝室割り当てにはついてこなかった。


 装備を解いてしばらくしたところで、先ほどの広間に案内され宴会が始まった。

 タイやヒラメは舞い踊らなったが、次から次に料理と酒がふるまわれ、広間の真ん中ではきれいなお姉さんたちの舞なども生演奏付きで披露された。楽人が操る楽器はどれも見たこともない弦楽器だったが、なんとなく中央アジアっぽい音を奏でていた。


 振舞われた料理は、魚料理、肉料理、多彩な野菜に果物。お酒はブドウ酒とほとんど味のしない透明の蒸留酒が供された。魚料理は淡水魚なのだろうが、どういった魚なのかは分からなかった。

 蒸留酒はかなり強い酒でどことなくウォッカっぽい酒だった。果汁などで薄めるとよさそうに思えたが、6人の長老たちは誰もそういった飲み方はせず、小型の陶器のコップ、見た目はお猪口に細口の陶器の瓶から手酌で注いで飲んでいた。長老たちは料理も食べずけっこうハイピッチでお猪口を口に運んで一口で飲んでいるのだが大丈夫なのだろうか?



 宴会は夜まで続き、そのうちクッションを枕にみんな広間で眠ってしまい、宴会は自然終了したようだ。


 深夜。

 宴会場ひろまから寝室に案内され、そこでベッドに入ってまた眠った。


 翌日、かなり遅く。

 体内時計では午前9時に目が覚めた。

 昨日教えられていた洗面所に行き顔を洗っていたらエリカとドーラがやってきた。

「エド、おはよう」「おはよう」

「二人とも、おはよう」

「今日は何があるのかな?」

「昨日決めたことを細かく詰めて行って、最初に連れて行く人の差配をするんじゃないか?

 そういうことだから、俺たちの出る幕はほとんどないと思う」

「なんだか本格的になってきたわよね」

「それはそうだろ。ここの連中は俺たち以上に予言のことを真面目に考えてようだからな」


 その後、普通の部屋に案内されテーブルの上に並んだ朝食を食べた。ケイちゃんはすでに朝食を済ませていたようで、一度顔を見せてまた部屋から出て行った。


 その日の提案として、移動に際しては俺が荷物全般を預かることと、防具の材料と食料としてワイバーンを提供すると申し出た。ワイバーン35匹もキューブに入れていても仕方ないし。

 とは言え、5匹で十分といわれてしまった。

 あとは鉄材としてペラの四角手裏剣用に数枚だけ残して12階層で取り払った扉を卸すことにした。

 これは特に喜ばれた。


 会議の後、俺は解体場に連れていかれることになった。俺がドナドナされたわけじゃなくワイバーンを解体するためだ。


 案内された解体場にワイバーンを毎日1匹卸し、5日かけて5匹のワイバーンを卸した。

 まだ30匹もキューブに入っているのだが、これは新天地でお祭りとかに下ろして焼き鳥だ。



 俺たちがエルフの里に訪れて10日後。すべての準備が整い、俺たちはまだ姿かたちもないツェントルムを目指してエルフの里を発った。俺たち5人の後に200人の男女が続いている。彼らはリュックを担いでいるほかはエルフっぽく弓を持ち短剣を腰に下げている。

 前日までに用意し、俺がキューブに収納した荷物は食料、水、酒、そして各種の工具、農具、そして野菜の種や苗それに種芋、そして穀物の種もみだ。



 エルフの里を出て大森林の中をたったの6日で400キロちょっと移動してしまった。レメンゲン効果なのか分からなかったので今回の200名のリーダー格のエルフに聞いたところ、毎日驚くほど進んだのにもかかわらず疲れが全く残らないことに自分たちも驚いていたそうだ。レメンゲン効果確定だ。これならカツル!


 ツェントルムの建設場所は目的地と思っていた場所の近くにあった湖の南側のほとりとした。

 ツェントルムから見ると湖は北になるので安直に北の湖きたのみずうみ(注1)と名づけた

 その湖からはオストリンデンに向けて川が流れ出ているようだった。河口に広がるオストリンデンとの船の往来は無理そうだが、川を利用することでオストリンデンに木材の供給は可能になると思う。


 その湖の先にはそれほど高くはないものの岩が露出した崖が見えるので、岩質にもよるが石材が採れるかもしれない。いや、レメンゲン効果か、ミスル・シャフーの加護効果できっといい石材が採れるに違いない。



 湖畔から少し離れた土地をきれいに整地し村の建設地とした。村の真ん中には俺たちの住居であるウーマが鎮座している。


 最初に住居だと俺は思ったのだが、最初にでき上ったのは広場からはずれ、湖畔に近い場所に祠ができ上った。祠の中にはエルフの里から持ってきた青い石でできたミスル・シャフー像が一つ置かれている。ミスル・シャフーさまを拝むらしい。


 そこから先は俺の思っていた通り建築が進み、200人が生活できるよう平屋の小屋4つ広場を囲うように建った。2つは男性用と女性用の雑魚寝の小屋で、後の2つのうち1つが食堂兼台所。もう一つが倉庫で資材の他、工具などもおさめられる。


 小屋の次に家畜や仕留めた野生動物の解体場、鍛冶場。川には水車小屋が建てられていった。


 水車小屋はまだ穀物の収穫はないが粉ひき所になる予定だ。そして、水車小屋から木製の樋で水が村の真ん中まで引かれ、排水は側溝を川まで掘りそこに樋を埋めて下水とした。

 

 解体場ができたところで、ワイバーンを1体下ろした、皮ははがれてなめされるが肉はそのまま食料になる。ということでワイバーンの肉の焼肉大会を開いた。残念ながら飲み物は水しかなかったが大盛況だった。味付けは塩と、俺が提供した甘辛いショウユタレだ。数日かけてウーマの食料が補充されるのを待ちながら大量にショウユタレを作ってやった。

 最初誰もショウユタレを試さなかったのだが、俺たちがおいしそうに食べていて、数人が試してみた後、あっという間に全員に広がってしまった。

 ちなみに、焼肉大会ではあったが、ワイバーンの肉は鶏っぽかった。そのうちネギが取れたらネギマにして食べたい。



 そこまでで2カ月かかり年が明けた。2カ月でここまでできたということはかなりハイピッチだと思う。


 年が明け、俺たちは一度オストリンデンに行くことにした。

 エリカのお父さんと顔を合わせ、穀物と野菜と肉類を購入するためだ。エルフの里から大量の食糧を運んではいるが、エルフの里からの第2陣も春にはやって来る予定なので、次の収穫期である初夏まで今の備蓄がもつかといえば少々心もとないための措置だ。

 支払いはみんなの許可を取ってチームの財布というか、ライネッケ領の財布だ。


「お父さーん。エリカよー」

 とか言って、オストリンデンの大通りにある大きな店にエリカが入っていった。店の入り口にはハウゼン商会という看板がかかっていた。


 店の中はサクラダにあった支店と同じ感じだったがこっちの方が全般的に広くて大きい。さすがは本店。と、言ったところ。


「エリカお嬢さま!」

 店の人が奥の方から走り出てきてしてそのまま引っ込んだ。

 代わりに恰幅のいいこぶとりのおじさんが奥からやってきた。

「お父さん、ご無沙汰ー」

「エリカ。お前一体どうなってるんだ? いつの間にか貴族になったと思っていたらブルゲンオイストから消えたって言うし」

「お父さん、それ知ってたんだ」

「当たり前だろ。父さんを何だと思っている」

「まあいいじゃない。こうして元気にやってるんだし」

「元気なのはいいが、それでいきなり現れて何なんだ?」

「仕事の話」

「仕事?

 それはそうと、エリカ、お前の連れはもしかして、ライネッケ侯爵閣下なのか?」

「うん。そう。エドモンド・ライネッケ侯爵閣下。その隣がケイ・ウィステリア準男爵、その隣りがドーラ・ライネッケ準男爵、そしてペラ準男爵。最後にわたしがエリカ・ハウゼン子爵閣下なわけ」

「お前はどうでもいいが、どうぞ侯爵閣下とみなさま、こちらに」

「お父さん、わたしはどうでもいいってひどいじゃない。それとエドのことはそういった形で気を使わなくていいから。娘の友だちと思ってくれて大丈夫だから」

「バカ! そんなことができるわけないだろ! ライネッケ侯爵閣下といえばヨーネフリッツの英雄だ。ただの貴族じゃないんだぞ! しかも、今の王さまに疎んじられて左遷された悲劇の英雄だ!」

 俺ってちまたでは悲劇の英雄だったの? こんなに元気で楽しくやってるのに?

「お父さん。分かったから。

 商談するためにわたしたちここに来たんだから、とにかく奥の部屋に行きましょ」



注1:北の湖

読みは『きたのうみ』ではありません。わたしはあのふてぶてしいまでの強さが大好きでした。

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