第241話 ハルネシア奪還2
父さんが2個500人隊を率いて王都ブルゲンオイストを発ってゲルタに向かった。
ゲルタで待機中の4個500人隊と輜重隊を加え、態勢を整えた部隊は街道を西進しハルネシアに行軍する。
ハルネシアまでの道中で、部隊は友軍の領軍を加えていき最終的に1万5000の兵力でハルネシアを占拠する約1万のドネスコ、フリシア連合軍を排除してハルネシアを解放、奪還することが今回の作戦骨子だが、正直味方の1万2000の領軍のことが不安で仕方がない。
ペラを父さんに付けているので、父さんとシュミットさんは安全と思うが、楽勝ということはないだろう。
ハルネシア奪還作戦の作戦期間はゲルタから行きで15日、ハルネシアでの掃討作戦で10日から20日。帰りで15日。ただ、帰りは部隊をある程度
父さんたちを大通りで見送った俺たちは、駐屯地に戻ってライネッケ遊撃隊の兵隊たちの訓練を眺めて一日を終えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ゲルタを出撃したカールの部隊が街道を進むこと、13日。
何とか領軍の援軍を迎え入れ、ハルネシア奪還軍の戦力は30個500人隊、1万4000ほどになっていた。予定より1000人ほど兵員は少なかったが、この程度で済んだことにカールは満足していた。最善を望まないのがカールの哲学でもある。
旧軍の部隊が野盗と化して街道を荒らしているとの情報があったが、逃げ隠れているようで移動中遭遇することはなかった。
――明日になれば、ハルネシア近郊にたどり着く。おそらくドネスコ、フリシア連合軍はこちらの接近に気づいているはずで、野戦の意思があるならハルネシアから出てこの先の平地で陣を敷いているだろう。
カールは物見の帰還を待ちながら、その日の野営地でペラとシュミットと3人で輜重隊の隊員が運んできた夕食を地面に座って食べていた。
「ペラ、明日は決戦があるかもしれないが、よろしく頼む」
「お任せください。
今回の任務は隊長とシュミットさんの護衛が主な任務ですから隊長のそばから離れられません。そのため、持参した鉄塊での攻撃しか攻撃手段がないのですが、射界の関係である程度高い場所に隊長たちに位置していただきたいのですが」
「了解した。先に進んでみなければ地形は分からないができるだけそのようにしよう」
「ありがとうございます。敵の指揮官を中心に排除していくということでよろしいですか?」
「それでいい」
食事が終わり食器を返して一休みしていたところで、物見の兵士が帰ってきた。
「報告します。ハルネシアまでの道中に敵は布陣していませんでした」
「輜重隊のところで夕食を受け取って休んでくれ」
「はい」
「シュミット、500人隊長たちを集合させてくれ」
「はい」
10分ほどかかって、500人隊の隊長たちがカールの前に集合した。
「敵はありがたいことに決戦を避けてくれたようだから、明日はそのまま進んでハルネシアだ。端から俺たち国軍で掃討していき、掃討済みの区画に順に領軍部隊を配置していこうと思う」
「「はい」」
「隊長、いいですか?」
「なんだ?」
「それですと敵が反対側から逃げ出すのではありませんか?」
「俺たちの任務はハルネシアの奪還で敵の撃滅ではない。逃げる者が逃げてくれれば無駄な犠牲を出さなくて済む」
「了解しました」
「ほかに誰かあるかな?」
「「……」」
「それじゃあ、解散」
500人隊の隊長たちはそれぞれの部隊に帰っていった。
「ライネッケ隊長みたいな人が隊長していれば部隊の損害は最小限何でしょうが、己の欲のために手柄を欲しがって自滅する指揮官が結構いるんですよねー」
「それはよく聞く話だ。俺もお前も運よくヘプナー伯爵に使われていたから無駄死にしていないが、よその上官に使われた連中が使い潰されたのは嫌というほど見てる。俺がもし部隊を預かるようになったとしても、部下をそこらの道具と思うような上官にはなりたくないと常々思ってたんだ」
「さすがはわれらの隊長。そこに憧れます」
「おだてても何もでないぞ。
とにかく、後は時間の問題だけだ」
翌日。
野営地を畳んだカールの部隊はさらにハルネシアに向け前進した。もちろん物見を出しながらの前進である。
昼の大休止時。
ハルネシアに向けて放っていた物見が帰ってきた。
「報告します。ハルネシアの西区画に敵兵を見ず。市街はいたって平穏です。
通行人に質したところ6日前から5日前にかけてドネスコ、フリシア両軍ともハルネシアから移動したとのことです。
移動先は分からないとのことでしたが、おそらく本国に撤退したのではないか。ということでした」
「報告ご苦労」
「はい」
「どういうことだ?」
「わが軍の接近に恐れをなしたにしては、移動時期が早すぎませんか?」
「そうだなー。じゃあ、なんでハルネシアを手放した?」
「さあ」
そうこうしていたら別の物見も帰ってきて先の報告とほぼ同じ内容の報告をした。
「本当にドネスコもフリシアも撤退したようだな」
「理由は分かりませんが、素直に敵がいなくなったことを喜びましょう」
「そうだな。
となると、全部隊で市街の確認だな。
シュミット、500人隊の隊長を全員集めてくれ」
「はい」
シュミットが大休止中の部隊を回って500人隊の隊長を集めて戻ってきた。
「物見の報告によると、敵軍は5日前にハルネシアからどこかに移動したようだ。
移動先は不明だが、ハルネシアを放棄してどこかを全力で攻めることは考えられない以上本国に撤退したものと考えていいだろう。
西側から順に敵を掃討していくつもりだったが、最初から市街全域を対象に敵が潜んでいないか確かめる」
そこでカールは、国軍本部から預かってきたハルネシアの地図を地面に広げ、各部隊に担当個所を告げて行った。
「以上だ。大休止が終わり次第、各部隊の担当区画の確認を行ない、確認が終わり次第ここに戻ってきてくれ」
「「はい」」
大休止を終えた各部隊がハルネシアに向かって移動を開始し、そのうち部隊が休んでいた街道沿いの荒れ地にカールたちと輜重部隊だけが残った。
「領軍から脱走者が若干出たが犠牲者を出さず何とかいけそうだな」
「ところで敵軍は本当に自国に帰ったんですかね?」
「確実ではないが、自国に帰る以外に行き先がないだろ?」
「そう言われればそうですが」
「ペラはどう思う?」
「敵が自国に帰らなければならない状況とは何か? を考えた場合、まず考えられるのが自国での異変です。しかし今回ドネスコ、フリシア両軍が撤退しているわけです。両国で同時に国内異変が起こることはまずないでしょうから、この理由で撤退したわけではないでしょう。
次に考えられる理由は、われわれと戦えば勝ったとしても出血するわけですから戦いを避けた。実際両軍とも相当数の陸兵を失っています。ライネッケ部隊のことは知らないかもしれませんがカメのモンスターのことは両国には伝わっているでしょう」
「なるほど。その線が有力だな。連中からすればエドのカメがやって来ると考えれば、逃げ出すのは当然か」
旧王都ハルネシア内を全軍で調査したところ、敵兵は発見できなかった。
市内に略奪などの跡はなかったものの食料が不足していた。
その食糧不足も、ドネスコ、フリシア両軍が撤退し周辺への交通が可能になった今、徐々に回復しているとのことだった。
2日ほどハルネシア郊外で待機したカールは、領軍を各領に帰した。そして国軍4個500人隊をハルネシアに残し、自身はブルゲンオイストの駐屯地から率いてきた国軍2個500人隊を引き連れてゲルタに向かって帰還の途に就いた。
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