第242話 ハルネシア奪還3、その後
ハルネシア郊外を発って16日目。カールは2個500人隊を連れてゲルタ経由でブルゲンオイストに凱旋した。
部隊のゲルタに帰還時にゲルタ守備隊からからブルゲンオイストに早馬が送られ作戦成功を告げており、カールのブルゲンオイストへの凱旋は市内各所の掲示板で告げられていたため、大通りに多く人が出てカールたちの凱旋を迎えた。
「隊長。すごい歓迎ぶりですね」
「うん。まあ、空振りだったが旧王都を奪還したわけだし、兵隊たちはみな無事だったわけだしな。大勝利と言えば大勝利だろ」
「そうですね」
部隊は駐屯地まで行進し、そこで解散となった。
カールとヨゼフはその足で国軍本部に赴き、ヘプナー伯爵に作戦成功を詳細を報告した。
「敵がすでに逃げ出した理由はおおよそ見当つくが、それにしてもご苦労だった。
ハルネシアには官僚団を送ることになっている。護衛を当然付けるが、きみたちは休養してくれ。
それと二人の陞爵、叙爵式も開かれる。式の日程はまだ決まっていないが、数日後だと思ってくれていい。
それともう一点。
カールだが、たしかロジナ村だったか? そこの村長の任を解く。代わりにシュミットくんがロジナ村の村長ということだ」
「それじゃあわたしは?」
「子爵にふさわしい場所の領主になってもらう」
「ありがとうございます」「ありがとうございます」
「カールの領地はまだ決まっていないから、王都で一休みしたら村に帰って連絡を待っていてくれ。辞令が届けられたら、指示された領地に向かってくれ」
「はい」
ハルネシアの奪還を受け、間をおかず王宮から1個500人隊に護衛された官僚団がハルネシアに向けて出発した。
カールとシュミットはブルゲンオイストに帰還して3日後に王宮でヨルマン1世による陞爵式と叙爵式が行われ正式に子爵、騎士爵となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
全員でエールのジョッキを持って、
「「かんぱーい!」」
ぷっふぁ!
父さんたちが無事任務を果たし帰還し、更に子爵、騎士爵になったことを受けてお祝いをブルゲンオイストのちょっとお高い食堂で開いた。個室なので食堂というよりレストランだな。
「いやー、みんなありがとう」
「いちおうペラから話は聞いているけれど、今回は運がよかったね」
「ああ、敵が逃げ出しているとは夢にも思わなかったから、ハルネシアの前では少し緊張したんだがな」
「いやー、カール隊長は落ち着いたものでしたよ。あの落ち着きがあったから領軍の脱落者が最少で済んだんじゃないですか?」
「俺もいろいろ考えて苦労してるんだよ」
確かに指揮官がうろたえていたり緊張していたら部下は不安になるものな。さすがは父さんだ。
「それで、エドの方はどうだったんだ?」
「ライネッケ遊撃隊の訓練を見ていたくらいで何もなかった」
「まあ、何もないのが一番だけどな。
そういえば、ここにいる全員がなにがしかの爵位を持っているわけだがそれはそれですごいことだな」
「確かにそうだね。7人全員が爵位持ち。1年前には考えられなかったなー」
「ところで、ハルネシアを取り返した以上この戦いはそろそろ先はみえてきたわけだが、そうなると紋章とか印章を作らないとな。俺の場合は騎士爵だった時の物をそのまま使うが、他のみんなは何もないだろ?」
「そういうのもあるんだ」
「あるんだよ。本人ならサインで済むが、代理が年金を受け取るためには印章がいるからな。
本当は城の担当官が新貴族にその辺りのことを教えてくれるはずなんだが、まだ人のやりくりができていなくて対応しきれていないんだろう。何であれ作っていて間違いはない」
「一応考えておくよ」
「父さん、わたしも作るの?」
「ドーラだって準男爵なんだから一家の長だ。もちろん作らないと」
「それじゃあエド、わたしのも一緒に作ってよ」
「俺たちは父さんの子どもなんだから、基本は父さんのライネッケ家の紋章とかをまねてつながりがあるようなものを作った方がいいと思うんだ。それなら簡単だろ?」
「そうなんだ。それなら何か考えられるかも」
「とはいっても、ドーラがどこかにお嫁に行かなければ俺のところにいるんだろうからそんなに急がなくてもいいけどな」
「マスター、わたしも作るんでしょうか?」
「それはそうだが、ペラについては俺が考えておくよ」
「よろしくお願いします」
「ねえエド、わたしたち住んでいる場所って結局倉庫じゃない」
「そうだな」
「もし、紋章を作ったら、わたしたち5人分の紋章をプレートにして倉庫の前に並べるのかな?」
「うーん。すごくおかしいということだけは確かだな」
「だよね。
それに普通、貴族は倉庫に住まないし、5人も一緒に住まないしね」
「まあ、普通の人でも倉庫に住まないしな。
将来それなりの屋敷を買えばいいんじゃないか?」
「ウーマの生活を捨ててまで普通のお屋敷に住みたいとは思えないでしょ?」
「そうだよな」
「紋章とかはいいけど、父さんはこれでうちに帰れるの?」
「ああ。一応帰れるみたいだ。ただ、ロジナ村の村長じゃなくなるっぽいな」
「領地持ちになってどこかに行くんだ」
「そうらしいが、どこに移るのか今のところ分からない。シュミットがロジナ村の村長になるようだ。引っ越しは面倒だが、居座るわけにもいかないしな。連絡がくれば荷物をまとめて引っ越しだ」
「引っ越しは、引っ越し先に屋敷が用意されてからだよね?」
「そうだろうな」
「もしかして、どこかのお城だったりして」
「そんなことになったら、逃げだすぞ」
「アハハハ」
「だけど、実際問題その可能性はあるんじゃないかな。この前のオルクセンのこともあるし、まだ旧公爵って恭順していないだろ? さすがに歯向かわないだろうけど、まだ様子見している領主たちは領地の没収もありえるわけだろうし」
「まあ、そうだろうな。
お前のライネッケ遊撃隊のことは伝わっているだろうからバカなまねはさすがにできないだろうし、ここでバカな真似をすれば部下に謀反を起こされかねないし」
「新ヨーネフリッツになって領都が王都になったけれど、エリカの実家もオストリンデンじゃなくてブルゲンオイストに本店を移した方がいいんじゃないか?」
「その辺は、お父さんが考えるんじゃない。もう考えてるかもしれないけど」
「もしそうなったら、エリカの実家がここに移ってくるってことか。あいさつに行かないといけないよな」リーダーとして。
「別に行かなくていいわよ。どう考えてもうちなんかより伯爵さまの方が偉いんだから、うちの方からエドのところにあいさつに行くんじゃないかな?」
「それも大仰でいやだな」
「そういうものでしょ。今さらエドにあいさつしてどうなるわけじゃないかも知れなけれど、商家の主人の仕事ってそれくらいしかないじゃない」
確かにそうかもしれない。前世でも、トップ以下重役の主な仕事は顔つなぎだったものな。
「エド。これから先誰かと会う機会も増えてくるかもしれないから、応接できる場所はあった方がいいんじゃないか? カメの中で会うわけにもいかないんだろうし」
「いくら伯爵になったと言っても、俺ってまだ15歳なんだし、俺に取り入ってなにかいい思いができるとは思えないんだけど」
「エド、唾をつけるなら早ければ早い方がいいの。10年後、20年後のことを考えないで日銭だけを勘定してたら、商売なんてすぐに立ちいかなくなっちゃうわよ」
それは商売だけに限ったことじゃない。将来のための投資を怠れば必ず痛い目に遭う。大は国家経営。小は? 小はなんだろう? 子女の教育かな。
いずれにせよ父さんが引っ越すのなら手伝いにロジナ村に帰った方がいいか?
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