第239話 ドーラ7、試合
ディアナ港から例の海岸まで5時間。
帰りの航行中、釣ったイカの下ごしらえをペラがやってくれた。最初の数匹は手間取ったがその後は流れ作業のようにどんどんイカを捌いて下ごしらえしていった。そのイカがボウルに一杯になったらキューブにしまった。
塩からもイカ墨云々もを作りたいわけでなかったので、内臓も墨袋も、イカの舟と一緒にディスポーザーで処分した。
一匹一匹が結構大きなイカなので最後に2ハイだけ皿に入れて同じ皿を上にかぶせて食料庫に持っていき、空いた棚の上に置いて冷やしておくことにした。ワサビは今のところないけれどショウガはあるので、あとでイカソウメンを作るのだ。
ウーマが例の海岸に上陸し、みんなが下りたあとウーマは収納してブルゲンオイストに向かった。
ブルゲンオイストに帰り着き、倉庫の真ん中にウーマを出して乗り込み、服を着替えてすぐにベッドに入った。
翌日。
昨日帰り着いたのが遅かったので、夜が明けたところで朝風呂に入ろうということでエリカたちは風呂に入ってしまった。
俺とペラはその間に朝食の準備をしておき、皿に料理を盛った形でキューブに収納しておいた。
エリカたちが風呂から上がって入れ代わりに俺が風呂に入った。
お肌がツルツルになるような、いいお湯でした。
それはいいのだが、朝から風呂に入ってエキスを注入したにもかかわらず朝から反応がないんだよな。これでいいのか? いいわけないよな。困ったー。やはりエキス注入が何か俺に影響していると考えた方がいいのだろうか?
服を着てからドライヤーで頭と体を乾かしてから脱衣場を出て、食堂のテーブルの上に朝食を並べていった。
ペラがカトラリーを並べてからエリカたちを呼んだ。
「「いただきます」」
今日の朝食は、久しぶりに洋風としてみた。
ハムステーキにキャベツの炒め物。具だくさんのスープに丸パンのスライス。丸パンは軽く両面をフライパンで焼いてキツネ色に焦げ目をつけているので、バターが合うと思う。
「魚料理もおいしいけど、こういうのもたまにはいいものね」
飲み物は水なのだが、こういった朝食にはコーヒーが欲しかった。ないものは仕方がない。そのうち食料庫の棚にインスタントコーヒーが現れるかも知れないからたまに点検しないと。
そういえば、コーヒーより玉子だよな。なかなか玉子が現れてくれないから料理のレパートリーが限られるんだよな。
朝食を終えて、デザートのマンゴー?を食べ、後片付けを終えた。
「今日は、隊舎の方に行ってみるか」
「まだ休んでいてもいいんでしょうが、ここにいても仕方ないし」
「マスター。ドーラさんの杖の訓練を再開してはどうでしょう。サクラダからこちらに移動して一度も訓練していません。ここでは訓練場所がありませんが駐屯地なら問題ありませんから」
「確かに。
ドーラ。どうだ?」
「えー」
「嫌なのか? お前のためになることだぞ」
「うーん。それじゃあ頑張ってみる」
「ドーラ。普通なら初心者が訓練を怠っていれば確実に腕が落ちるが、きっとドーラの腕は落ちてないというか、動きは前より良くなっていると思うぞ」
「そうかなー」
「やってみれば分かるだろ。
そうだ! 父さんがいるから、試合してもいいかもな」
「エド、よしてよ。変なこと言うのは」
「ドーラが父さんに勝つかもしれないぞ」
「そんなことあるはずない」
「そうかなー」
エリカたちは面白そうに俺たちの話を聞いている。
「ドーラちゃん、勝つか負けるかは分からないけれど、いい線いくと思うわよ」
「わたしもそう思います」
「そうかなー」
そのあと装備を整えた俺たちはウーマを降りて駐屯地に向かった。
駐屯地に着いたときには部隊は父さんとシュミットさんに見守られる中訓練していた。
俺はペラを伴って今日から部隊に戻ることをヘプナー伯爵に伝えるため国軍本部に向かった。
「おはようございます。
今日から部隊に戻ります」
「もう少し休んでいてもよかったんだがな。
きみたちに伝えてはいなかったのだが、オルクセンを開放したことで、周辺の領主たちが帰順してきたんだよ。それでハルネシア解放のための兵の目途が立った。まもなく作戦を開始する」
「はい」
「きみたちは今回は休んでもらっていいだろう」
「分かりました」
「兵力は予定では1万5000。総大将はカールに頼むことにした。その前にカールを子爵にして箔を付けさせる」
父さんも子爵か。ライネッケ家は新王国で有力貴族は間違いないな。
「予定兵力というのは?」
「帰順した領主たちから領軍を供出させるのだが、ハルネシアへの移動中に合流することになっている。従って兵の数は確定ではない」
確かに、いったんゲルタあたりに集合するとなると2度手間だものな。
「出撃はいつになるんですか?」
「3日後を予定している」
「分かりました。それでは失礼します」
国軍本部を出た俺とペラは、部隊訓練を見ながらエリカたちと話している父さんたちのところまで歩いて行った。
「父さん、今度のハルネシア戦の指揮を執る上に子爵になるんだって?」
「そうみたいだな。シュミットは騎士爵だ」
「おじさま、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「父さんが子爵!? とにかくおめでとう」
エリカたちが父さんにお祝いの言葉を送った。
「いやありがとう」
「シュミットおじさんもおめでとう」
「ドーラちゃん、ありがとう」
「となると、ロジナ村の村長をシュミットさんに譲ることになって父さんはどこか別のところの市長かな?」
「さあな」
「ところで父さん、母さんに手紙書いた?」
「まだ書いていない」
「一応書いてた方がいいんじゃない。うちに帰っていきなり子爵になったって母さんに言ったら腰抜かすんじゃないか?」
「エドは伯爵になったって手紙書いたのか?」
「そういえばまだだった」
「お前の方がよほど母さんを驚かすことになると思うぞ」
「確かに」
「それはそうと、父さん」
「なんだ?」
「父さんも長いこと真面目に剣を振っていないから腕がなまってるんじゃないか?」
「そんなことはない。日々剣を振っているぞ。なあシュミット」
「そ、そうでした」
「まあいいけど。
父さんの腕がなまってないか確かめてみたいんだけど」
「なんだ、俺と試合したいのか?」
「俺が相手じゃなくて、ドーラが相手」
「ドーラ? ドーラが剣を使えるのか?」
「ドーラは杖なんだ。
なっ? ドーラ」
「う、うん」
「父さんは木剣持ってる?」
「いや持っていない」
「俺のでもいいかな?」
「ああ、それで十分だ」
俺はロジナ村からサクラダに出る時持ってきた父さんに作ってもらった木剣をキューブから出して父さんに渡し、ドーラにはドーラの杖を渡した。
「それじゃあ一本勝負。俺が審判するから、二人とも向き合って」
つけ入る暇を与えず試合を始めるのがコツだ。
「それじゃあ行くよ! 二人とも、見あって、見あって」
父さんは様子を見るつもりのようで木剣を中段に構えている。
父さんの剣はドーラは見慣れているけれど、父さんはドーラの杖を見たことはないので妥当な構えだ。
これに対してドーラは杖を下段に構えた。
こっちは何を考えているのかは俺には分からない。まあ、負けてもともとなんだからいいだろ。
二人が構え、気合が入ったと見たところで「始め!」
俺の「始め」の声と同時にドーラが一歩踏み出し、両手で持った杖を下からすくい上げつつ突き出した。
はっきり言って妙な動きだし、実戦では軽すぎて有効打になりそうもない突きなのだが、父さんは律儀にドーラの杖に向かって木剣を振り下ろした。
ドーラの杖は地面にたたきつけられたのだが、杖が地面に当たった反動を利用してドーラは再度すくい上げつつ杖を突きだした。
父さんの木剣はかろうじてドーラの杖に間に合い何とかそらすことができたが、ドーラはそこから突きを連続して放った。
突かれるたびに父さんはドーラの杖をかわすのだが、段々とかわし切れなくなりとうとうドーラの突きが父さんの胸当ての真ん中を捉えてしまった。
「一本!」
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