第238話 ディアナ
翌朝。
みんなが揃ったところで朝食を始めた。時刻は午前5時。外は白み始めたところだ。あと1時間もすれば日が昇る。
エリカは昨夜のイカ釣りで大満足だったようで、朝食中ケイちゃんとドーラに昨夜の自慢話をしていた。
「あんなこと初めて。糸を垂らすとすぐに釣れちゃうの。もう、忙しくて忙しくて。……」
「わたしも釣ればよかったー」
「ドーラ、世の中そういうもんだ。だけどかなり釣れたから、釣りはもういいんじゃないか?」
「うん」
「中途半端な時間に港に近づいてしまうと騒ぎになりかねないから早めに陸に上がってしまおう」
朝食を終え、あと片付けを済ませたところでウーマを港に近づけていった。
港の岸壁まで500メートルくらいまで近づいて行ったら、1本帆の船が10隻ほど港から出ていくところに出会った。おそらく漁船だ。前方スリットを通して見ていたら、船上の漁師がウーマを指さして何か叫んで帆の向きを変えたりバタバタし始めた。
それで結局その魚船は船首の向きを大きく変えた。
その動きが他の漁船にも伝染してとうとう残りの漁船も全部港に引き返していった。
これは仕方ないよな。ウーマの見た目は
しかし、このまま港に上がれば間違いなく
ブルゲンオイストとディアナとではそれほど距離があるわけでもないのにウーマのことは伝わっていなかったのか? ウーマが人前に出ているのは街道上が基本だから、ウーマのことが伝わっていたとしても海の上に浮かんでいるとは想像できないから仕方ないか。
「このまま上陸したら、大ごとになりそうだから上陸場所を少し変えよう」
「うん。人のいないところって言うとかなりディアナから離れることになりそうだけど仕方ないわよね」
「5キロほど東に進んでみて、そこらへんで良さそうな場所があったら上陸しよう」
ウーマに指示して東に30分ほど移動したとこと、白浜が見えてきた。砂浜の上の方には小舟が何艘も置いてあり、その先に民家が10軒ぐらい見えた。漁村だな。
ウーマに乗ったまま砂浜に乗り上げたところ、砂浜にいたおじさんたちは、大騒ぎで逃げ出していった。逃げて行ったものは仕方ないので、俺たちはウーマから降り、ウーマをキューブにしまって砂浜を横切り、民家の並んだ小道を通ってディアナ方面に歩いて行った。民家の窓からのぞかれているような、いないような。
「なんだか、わたしたち見られてるわよね?」
「うん。すごく恐れられてるような」
「ウーマが海から
「ウーマを知らないと、確かに怖いもの」
ウーマを怖がるのは仕方ないけど、なんで俺たちを怖がるんだ? 確かに防具を身に着けて武器も下げてるけど、それってサクラダだと当たり前だしブルゲンオイストでも兵隊なんかはみんなそうだったけど。
まあ、いいや。
「今さらだし、ディアナに急ごうか」
「そうね」「「はい」」
漁村の小道からやや太い道に出て10分ほど歩いたらディアナの街並みが見えてきた。
その道をそのまま歩いて市街に入っていったところ何だか街の中が騒がしい。
「何かあったのかな?」
「エド、もしかしてもしかしたら、海から現れた
「まさか」
「そうじゃなければいいけれどね」
「たとえそうでも、俺たちはある意味関係ないだろ?」
「そういえばそうなんだけど」
「エド、兵隊も走り回ってるけど、わたしたち大丈夫なのかな?」
「ドーラ、俺たちはドーラを含めて国軍の最高幹部のようなもんなんだぞ。大丈夫に決まってるじゃないか」
「それならいいんだけど」
「でも、わたしたちが、伯爵以下の貴族だって事を証明するもの何もないんじゃないですか?」
「おっ! そういえばそうだった。ちょっとマズいかも」
「ねえ、エド。兵隊たちがこっちに向かってきてない?」
向うの方から10人ちょっとの兵隊たちがこっちに向かって駆けてくる。
当たり前だが俺たちの後ろにはそれラシイ者もいなければそれラシイ物もなかった。
「マスター、制圧しますか?」
「いや、しなくていいから」
俺たちがどうなるものかと立ち止まっていたら、向かって来た兵隊たちはちゃんと俺たちを囲むように立ち止まってくれました。誰がどう見ても一点の曇りもなく俺たちが目当てだったようだ。
「お前たち、見かけないが、どこの者だ!? 衛所まで来てもらおう」
「わたしたちは、国軍のライネッケ遊撃隊の幹部でわたしがその隊長、エドモンド・ライネッケ伯爵です」
「何だと!? ライネッケ隊長は国軍の英雄だ。貴様のような青二才がなにを言う! 英雄を騙るということは大罪だぞ!」
英雄と言われるとちょっとばかりうれしいが。
「わたしは15歳でこのとおり青二才ですが、ライネッケ隊長も15歳ですよ。
そして、ライネッケ隊長はわたしと同じ黒髪で黒っぽい装備を身に着け、真っ黒な剣を腰に下げているんですよ。この剣と同じような。
ライネッケ遊撃隊の副隊長は、そこの女子のように白づくめの装備に身を包んで、真っ白な双剣を腰に下げているんですけど。そこの女子も真っ白な双剣を下げているでしょ? 分かりますか?」
俺が懇切丁寧に俺たちを囲んだ兵隊の隊長らしき男に説明してやったところ、段々と隊長の顔色が悪くなってきた。
「ひょっとして本物?」
「最初にそう言ったんですが? わたしたちは、とある作戦が終わって休みでここに遊びに来ただけなんです。ライネッケ遊撃隊と大きなカメの話を聞いたことありませんか? 作戦でもないのにカメで街道を通ったら悪いと思ったから、今回は海からカメに乗ってここにやってきて、ついさっきその先の砂浜から上陸したところなんですよ。
ウソだと思うなら、ここにわたしたちのカメを出して見せましょうか?」
「しっ、失礼しました!」
「いや、みなさんも仕事だから別に気にしてませんよ」
「ありがとうございます」
隊長は平身低頭し、兵隊たちも頭を下げた。
「なにか、われわれにできることがあるようでしたらお手伝いいたします」
「そこまでしてもらう必要はありませんから。街の見回りを続けてください」
「はい。それでは失礼します。お気をつけて」
もちろん気をつけるけど。
それより、兵隊たちが俺たちに平身低頭していたところを見たディアナの一般人が今度は違う目で俺たちを見始めたような。
「疑いも晴れて良かったわね」
「誰がどう見ても俺たち善良な国民だし。
そろそろ店も開くだろうから商店街に行ってみよう」
そう思って歩いていたら人だかりの広場に出た。朝市をやっているようだ。これはいい。
朝市の人通りの中を、何を売っているのか見て回り、気に入ったものをどんどん買っていった。
野菜などはどれも店で買う値段の半額くらいだ。
そして、魚介類もたくさん売っていた。
なので、魚介類もどんどん買っていった。
「朝市はいいなー」
「楽しいわよね」
「こういうのがいいですよね」
「ロジナ村の朝市だと野菜しか売っていないから、ここの朝市ってホントにすごいよー」
「サクラダでもブルゲンオイストでも市は見なかったけど、朝市ってあったのかなー?」
「サクラダでもブルゲンオイストでも見たことないからなかったのかも。でも、うちの実家のあるオストリンデンだとちゃんと朝市やってたからブレスカでもやってるかもしれないわね」
「そうだろうな。そのうち機会があったら行ってみてもいいだろう」
……。
市場のあとは、商店街を見て回り、昼前に店を見つけて早めの昼食を摂った。
昼食の定食は魚料理だった。
「いいとこ見て回ったし、これからどうする?」
「そうねー。イカしか釣れなかったけれど魚釣りは堪能できたし。ブルゲンオイストに帰ろうか」
「野菜も魚介類もかなり仕入れましたしね」
「それじゃあ、そうしよう。
ここの街の警備の兵隊にも俺たちだってことが伝わっているから、帰りは港から堂々とウーマに乗って帰ろう」
「うん」「そうですね」
店を出た俺たちは港まで歩いて行き、桟橋の先まで行って、その先にウーマを出して飛び乗った。もちろん誰も見送ってはくれなかったが、ウーマの甲羅の上でディアナに向けて手を振った。
「エド、誰に向かって手を振ってるの?」
「ディアナの心優しき人たちに向かってだよ」
「エドはディアナの人とそんなに交流があったの?」
「買い物しただけだけど」
「それがエドと言えばエドだからいいけど」
色々あったディアナへの釣り旅行だった。
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