第234話 フリシア海軍拠点ヘルムス襲撃2、ブレスカ
フリシア海軍への襲撃を提案するために俺はペラを伴って国軍本部に赴いた。
「特に問題はないし、やってくれるというならありがたい」と、ペプナー伯爵からゴーサインをもらい、伯爵に秘書からヨルマンからフリシアまでの北大洋沿岸地図を手渡された。
それによると、ブレスカから最も近いフリシアの海軍拠点ヘルムスまでの距離は1250キロ。途中旧ヨーネフリッツの海軍拠点があるので、そこに軍船がいれば襲撃も視野に入れるがあくまでフリシア本国の海軍拠点への襲撃を目的とする。
ヘルムスはフリシアのやや東よりを南から北に流れるフリス河の河口に築かれた港湾都市で、フリス河を遡上すればフリシアの王都フリシアンにたどり着く。
片道125時間。丸々5日間かかる。襲撃を考えれば往復で11日だ。この3日間の暇つぶしのつもりだったが大誤算だった。時間的なことをすっかり失念していた。魚釣りをしたいだけで11日か。大したことないと言えば大したことはないのか?
俺たちの不在時に、旧ヨルマン領がどこかから襲撃を受けることも考えづらい。あとの問題点は残していく部隊のことだが、父さんもいないし、これは困った。ペラを置いていくと対艦攻撃力がいっきに落ちるしどうするか? リンガレングは四角手裏剣を投げらないだろうし、泳げないだろうからウーマの上から例の特殊攻撃で敵の拠点そのものを叩き潰してしまうか。よし、それでいこう。
「今日中に出撃して長くとも15日で帰還できると思います」
「了解した。あとに残ったライネッケ遊撃隊については、第1、500人隊のベッカーに見てもらおう。心置きなく出撃してくれたまえ」
「よろしくお願いします」
ペラを置いていかなくて済んだ。ペラなら軍艦が沈められるだけで済むが、リンガレングなら軍艦ともども拠点そのものが無くなるわけだし。フリシア海軍はある意味ラッキーしたな。
国軍本部を後にして俺たちは倉庫に向かって帰っていった。
ウーマに乗り込んで、エリカたちに許可が下りた上、地図も貰ってきたと教えた。
「良かったじゃない」
「そうなんだけど、この地図を見てもらっても分かるけど、ブレスカから、このフリシアの拠点まで1250キロある。ウーマは1時間で10キロしか進めないから、海の上だけでも片道125時間かかる」
「125時間って、えーと5日以上かかるって事ね」
「うん。往復で11日かかる」
「かなりだわね」
「許可が出た以上、行かないわけにもいかないから、そのつもりでブレスカで魚介類を大量に仕込もう」
「それもいいわね。海の上で魚釣りして、釣れたらそれもキューブに入れておけばいいしね」
沿岸を航行すると言ってもそう簡単に釣れるとは思えないが、ビギナーズラックがあるかもしれないし。
「ところで、エリカは実家にいた時、釣りとかしていた?」
「ううん。全然」
そうだろうな。エリカの実家のあるオストリンデンなら魚屋に行けばいくらでも魚が手に入るはずだものな。
「それじゃあ、市街地の外まで歩いて行ってそこでウーマに乗り込んでブレスカに向かおう。今からなら昼過ぎにはブレスカだ」
ウーマから降りてウーマをキューブに収納し、俺たちは倉庫にカギをかけて大通りまで歩いて行った。
そこから北に向かって歩いて行き、市街地を抜けたところでウーマを出し、北を目指して出発した。
通行人も馬車も、ウーマのことは知っているようで、ウーマを見たらすぐに道の傍に避けてくれるのでそれほど迷惑をかけている感じではない。あくまで俺の主観だから、実際は相当迷惑がられているのかもしれない。
ウーマに乗り込んで4時間弱でブレスカらしい街に到着したので、ウーマから降りてウーマはその場で収納しておいた。
まずは釣装具ということでケイちゃんがそういった物を売っている店を道行く人に聞いてくれたのですぐに店は見つかった。
竿を5本と針を大、中、小、それなりの数。重りも大、中、小、それなりの数。糸を太、中、細をそれなりの長さ買っておいた。あとタモも買っておいた。仕掛け用の金具なんかはこの世界にはないようだ。釣り針は日本の釣り針と見た感じは同じだったが重りは鉛ではなく真ん中に穴の空いた鉄の輪っかで、店の人に使い方を聞いたら輪っかに糸を通してそこで一度糸を結んで使うそうだった。糸は木綿の糸だった。
次は魚屋だ。これもすぐに見つかり、店の人に止められない範囲で大量に購入した。
そしてもう少し歩いて2軒目の魚屋でも大量購入した。
「これだけあれば今回の行き帰りでなくなるってことはないわね。
ここに帰ってきたら、また買えるし」と、エリカがまなじりを下げてニヤついていた。
俺を含めて残りの4人はTPOをわきまえているので、誰もそのことをエリカに指摘しなかった。
買い物が終わったところで港までの道をケイちゃんが聞いてくれたので、ケイちゃんの後についていった。
潮の香りが漂い始め、倉庫街を過ぎた先に広がる海が見えてきた。
「港だ」
港は岸壁から桟橋が海に張り出していた。一番端の小型の桟橋には小型の船が何隻も係留されていたが、残りの桟橋には船は係留されていなかった。
去年のフリシアの襲撃で軍艦が沈められたままになっているようで、2本の桟橋の両側の海面から、帆柱と船首と船尾だけは海面に突き出ていた。被害を受けた桟橋も修理されず床板が焼け落ちたままになっていた。
桟橋は3本だと思っていたのだが、もう一本あったようで、その桟橋は床板が完全に焼け落ちていて、焼け残った柱がきれいに並んで海から顔を出していた。もちろんその桟橋の跡の両側にも沈船の帆柱や船首、船尾の一部が海面からのぞいている。
「復旧の目途が立たないんだろうな」
「沈んだ船を引き上げるって簡単じゃないものね」
「沈んだ船を片付けないと、桟橋を修理しても船を横づけできないから、修理しないんでしょうね」
「そう。だろうな」
「エドなら、船をキューブに入れて引き上げられるんじゃない?」
「どうだろうなー。船の長さは40メートルもなさそうだからできそうではあるな。
どうしても、と、言われたらやってもいいけど」
「今やっちゃうと、誰がやったのか分からないから感謝されないものね」
「それもそうですね。軍艦がない以上、桟橋も不要でしょうし」
「それじゃあ、ウーマを岸壁の上に出してさっそく乗り込もう」
時刻は午後2時。
岸壁から海面まで2メートル近くあったので、岸からウーマを海に乗り出させるとかなり傾きそうだ。食器棚の食器とかが心配だし、ウーマは海の上に出して岸壁から飛び乗ろう。
「岸壁から海に出るとウーマがかなり傾きっそうだから、ウーマを海の方に出して俺たちは岸壁から飛び乗ろう」
港には当然人がいたが、構わずウーマを海の上に出し、最初に俺が飛び乗った。
「気を付けて飛び乗ってくれ」
「了解」「「はい」」「了解です」
全員難なく岸壁からウーマの甲羅の上に飛び乗って甲羅の上のハッチからウーマの中に入った。
「ウーマ、10キロほど沖に出てそれから岸沿いに西に向かって進んでくれ」
これだけでウーマへの航行指示は完了。実に簡単便利だ。
ここから目的地の敵の港までの距離は1250キロ。
ウーマは1時間ほど沖に向かって移動し、そこでウーマは90度左舷に回頭した。空はあくまでも青く晴れ渡っているが、沖合は結構波が高い。
『天気晴朗なれど波高し』
敵の拠点に殴り込みをかけるのは5日先だが、気分は日本海海戦。
一隻しかないうえにこちらのペラ砲塔は360度砲撃可能な万能砲塔なので敵前一斉回頭によるT字戦法は取れないし取る必要はないが敵艦船の完全撃破が目標だ。
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