第233話 フリシア海軍拠点ヘルムス襲撃
俺たちは王都に凱旋を果たし駐屯地に戻ってきた。さっそく俺はペラを伴って国軍本部に赴いて本部長のヘプナー伯爵に作戦の成功を報告した。
「……。敵の戦意と技量が思った以上に低かったので助かりました。
それで、兵隊たちには明日から三日の休養を与えました。以上です」
「ヨルマンでは訓練を欠かすことなくここまでやってきていたが、内陸の領軍はそうでもなかったのだろうな。
とにかくご苦労だった。カールの本隊も含め兵の損耗がなかったとは。次の作戦が立てやすくなる」
さっそく次の作戦か。おそらく次は旧王都ハルネシアの奪還だろう。
いや待てよ。そういえば、フリシアの艦隊は無傷で健在だ。先に艦隊を叩いてしまえば旧王都にいるはずのドネスコとフリシアの連合軍への補給というか兵員の補充が滞るんじゃないか? まあ、補給も何も俺たちが駆け付ければ簡単に蹴散らせそうだが。
せっかくだから、次の目標を聞いてみるか。
「次の作戦は、どんなものになるんですか?」
「旧王都ハルネシアの解放を大目標にしているが、詳細はまだ決まっていない。
先般のフリシアの捕虜からの情報だが、ハルネシアにはドネスコとフリシアの兵が合わせて1万は駐留しているようだ。
敵がわが方との決戦を受け入れてくれれば、きみのライネッケ遊撃隊で粉砕できるが、ハルネシアに潜んで外に出てこないとなると、しらみつぶしにしていかなくてはならなくなる。そうなると、わが方の兵力では敵兵を駆逐することは難しい」
「つまり、決戦を挑まざるを得ない状況にするか、進んで逃げ出すように仕向けるか。ということでしょうか?」
「その通りだが、そう簡単にはいくまい。何かいい手がないかきみも考えておいてくれ」
「はい」
本部長室を退出して隊舎に戻り、隊長室で待っていたエリカたちと
倉庫への道すがら。
「本部長は何て言ってた?」
「ご苦労。って」
「それだけ?」
「今回の作戦についてはそれだけだったけど、次の作戦はやっぱり旧王都ハルネシアの解放だそうだ。今のところいい作戦案がないそうで、まだ具体的な話じゃないみたいだ」
「いい作戦案って?」
「ハルネシアの中に敵がこもってしまった場合、しらみつぶしに敵兵をあぶりだしていかないとならないそうで、それには兵隊が足らないそうだ」
「そういった問題があるんだ。じゃあ、こもらないようにすればいいって事よね?」
「俺もそう言ったけど、じゃあ実際どうすればいいのか分からない」
「確かに、難しいわね」
「本国に異変が起きればよその国に構っていられなくなるのではないでしょうか?」
「そうかもしれないけれど、俺たちがフリシアに攻め込んだとして、ハルネシアのフリシア兵には伝わらないんじゃないか?」
「そうでもないんじゃないですか? フリシアの海軍は健在だし、大型船は無理でも北大洋からハルネ河を船で遡上できますから、フリシアと連絡を取り合っているんじゃないでしょうか?」
「確かに」
「でも、航路でつながっていないドネスコはそう簡単じゃないわよね?」
「それでも陸路である程度の交通はあるんじゃないか?」
「それもそうか」
「兵隊たちを連れて行けないから、フリシアに攻め込んだとして暴れ回るしかないよな」
「それじゃあ面白くないから、フリシアの王城に突っ込んでいって今回元公爵を捕まえたみたいにフリシアの王さまを捕まえたらいいかも?」
相変わらず、エリカは無茶なことを思いつくな。でも、それくらいしないと兵隊を引く必要はないし。
さてどうしたものか?
そういったことを話しているうちに倉庫に到着したので倉庫の真ん中にウーマを出し、すぐに乗り込んで装備を解いた。
風呂に入り終わって、夕食時間。
「明日からの数日、何しようか?」
「何かしないともったいないわよね」
「そうですよね」
「食材関係は問題ないし。これと言って、何もないものな。
ドーラは何かある?」
「うーん。特にないかな」
「困ったな」
「それなら、魚釣りはどうかな? 道具をちゃんと用意して出かけるのよ」
「それでもいいけど、どこで道具を用意する?」
「ここからだと、ディアナかブレスカか。近いのはディアナだけど、歩いていくんじゃどっちも遠いわよね」
「魚釣りに行くために街道をウーマで移動したら馬車とかの邪魔だしな。ディアナまでなら80キロだから俺たちなら1日歩けば到着するけど、そこまでする?」
「やっぱりやめておくわ。
そうだ!」
「何?」
「ハルネシア開放に直接は関係ないけれど、フリシアの海軍拠点を襲撃するのはどうかな?」
「俺たちだけでできることだから、別にいいけど、なんでまた?」
「いちおう軍の作戦だから、ここからブレスカまでウーマで移動しても格好がつくじゃない」
「まあな」
「そしたら、ブレスカで時間を取って魚釣りの道具を用意するのよ。ついでに魚を売ってる店を見つけていろいろ買い込んでおけば、魚がもし釣れなくてもなんともないでしょ?」
「なるほど。それは一挙両得の素晴らしい作戦だ」
ちょっと棒読みになってしまったがエリカは気付かなかったようだ。
「エドもそう思うでしょ?」
「思う、思う。オモイマスヨ」
「エド。明日、ヘプナー伯爵のところに行ってフリシア海軍の拠点を襲撃してくるって言ってきてよ。ついでにフリシア海軍の拠点の載っている地図をもらってくればいいんじゃない?」
エリカの言う通りだし、フリシアの大まかな地図ぐらい国軍本部に行けばあるだろう。
しかし、いきなり訪れて、フリシア海軍の拠点を襲撃したいと言うと驚かれるよな。しかもハルネシアほとんど関係ないし。何かそれらしいストーリーをでっちあげないと。
食事を終えてデザートの焼き菓子も食べ、後片付けを終えた俺たちは、寝室に移動してそれぞれベッドに入った。女子たちには都合があるので俺はいつも5分ほど時間差をつけて寝室に入るようにしている。おそらくウーマに希望を述べれば寝室に仕切りくらいできると思うが、そのアイディアをエリカたちには漏らさないようにしている。
ベッドに入った俺は、魔力操作をする代わりに、先ほどのストーリーを考えていた。
要は『風が吹けば桶屋が儲かる』だ。フリシア海軍が深刻なダメージを受ければ旧王都ハルネシアから敵は引き上げる。
無い知恵を絞って見たもののいい考えは浮かばず、そのうち俺は眠ってしまった。
翌朝。
朝の支度を終えて朝食を摂り、後片付けを終えてから、俺はペラを伴って国軍本部に向かった。
なんでいつも国軍本部に行くときペラを伴っているのかというと、俺だけだと指示命令を聞き逃してしまう可能性があるので、記憶力というより記録力の優れたペラを同行させているわけだ。
大通りを歩きながら今回の件についてペラに意見を聞いてみた。
「フリシア海軍の拠点を襲撃したらハルネシアから敵がいなくなることって実際あり得るかな?」
「本国において戦力が著しく低下した場合、外征中の部隊が呼び戻されることはあり得ますが、海軍部隊の戦力が低下したと言っても、陸軍部隊の召喚には至らないのではないでしょうか?」
それが正論だよな。
「じゃあ、フリシアの海軍の勢力を削ぐことのメリットって何がある?」
「わが方と北大洋沿岸都市との交易を再開できる可能性が高まります」
「他には?」
「海軍の再建には時間だけでなく莫大な資金が必要です。海軍力を削ぐことで敵の軍事費を圧迫できます」
「なるほど。出先の陸兵も厳しくなるわけだな」
「そこは現地での収奪でやりくりする可能性もありますが、基本的には苦しくなるとみていいでしょう」
結局今回は独立した作戦として提案することになる。軍からすれば俺たちがタダ働きするわけだから文句を言うことはないだろうし。それでエリカが満足するならそれはそれで十分か。
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