第232話 オルクセン解放作戦6、完遂


 ウーマは城内をあっという間に横切って城門に頭から突っ込み、かんぬきをへし折って2枚の城門の扉を外側に向けて吹き飛ばしてしまった。

 門をなす外壁に空いた通路の横幅がウーマの甲羅の幅より狭かったようで、ウーマはその通路の石壁をゴリゴリ削ってから城の外に出てその先の橋を渡り、正面の大通りを北に向けて進んでいった。


 市街の通りは相変わらず無人でそのまま市街地を抜けたウーマは街道に入り20分ほど進んだところ、前方に布陣する軍隊が見えてきた。間に合ったようで一安心。先方はウーマに気づいていないようだ。

 敵兵に向かってリンガレングを放てばかなりの確率で大惨事エクストリームになるので、今回はウーマで敵の後背を襲い、ある程度モデレートな損害を与えた後、降伏勧告することにした。



 そのつもりで敵陣に向けてウーマを突撃させたところ、文字通り後背を、それもウーマかいぶつに突かれた敵兵たちは何ら抵抗することなく算を乱し右往左往し、ウーマの甲羅の上に立つ俺の姿を見たら逆に安心したのか降伏勧告する前に武器を捨ててしまった。


 これがヨーネフリッツ軍かと思うと情け無くなるほど弱っちいではないか。

 敵が迫れば国王は逃げるし、兵隊は弱い。

 王朝が交代したのも、むべなるかな。


 あらかたの兵隊が武器を捨てたところで、前方の布陣から騎乗する父さんを先頭にして兵隊たちが陣を解いてぞろぞろとこっちに向かって来た。


 リンガレングを念のため地面の上に出し、俺もウーマから飛び下りて父さんを待った。

 リンガレングを見た敵兵たちは一様におびえたようだ。大丈夫武器を捨てているなら襲わないから。

 

「エド、城の方もうまくいったようだな」

「城は制圧して公爵らしい爺さんと爺さんの一族らしい連中を捕まえて監禁したよ」

「すでに廃爵された爺さんじゃたいした価値もないだろうが、よくやった。これで残った2公爵を含め土地持ち貴族たちは新国王に逆らうことをためらうだろう。

 後は旧王都から敵を叩きだせば雪崩を打って新国王に恭順を誓うはずだ」

 俺も父さんの見立て通りだと思う。しかし、こう言っては実の親に対して失礼だが一介の田舎村長のくせに、父さんそういった戦略眼的なものを持ってるよな。欲がある人だったらもっと上にいけてたかもしれない。まあ、今の父さんだからこそヘプナー伯爵に気に入られていたのかもしれないけど。


 現にこうして、部隊を着実に運用しているわけだし、この作戦が終われば父さんたちはロジナ村に帰るとか言ってたけれど、延期延期と続くような気がしないでもない。


 敵兵の武器は全て後続の輜重隊が回収することになっており、いったん集めて野積みにしたまま俺たちはウーマを先頭に捕虜を後ろに従えてヘジラに向かった。捕虜の数は目算で4000。敵兵に死者は出ていない。リンガレングを最初に投入しなかったのが正解だったようだ。


 移動を開始して2時間ほどでヘジラに戻り大通りをそれっぽく行進した後、捕虜の兵隊たちは城に入れず大通りに整列させ、ウーマと本隊のうち1個500人隊だけ城に入った。



「エリカ、ご苦労さん」

「エドの方もうまくいったようね。

 こっちの方は、ケガ人が少しいたけど、全員水薬で歩けるようになったわ。

 あと、捕虜の数は700。その中で負傷者は50」


 エリカによると城への突入でわが方に20人ほど負傷者が出たが、死者も手足を切り飛ばされた者もいなかったようだ。負傷者にはケガ用ダンジョンポーションを大盤振る舞いで飲ましてやったところ、見る見るうちに回復してしまった。そして本人のみならず兵隊たちはいたく感激したらしい。と、いうことだった。


「それじゃあ父さん、後はお願いします。ライネッケ遊撃隊は一足先に王都に戻ります」

「分かった。最後まで気を緩めるなよ」

「了解」

 父さんが高名の木登りの話を知っているはずはないが、たいしたものだ。


 後のことは父さんに任せてわがライネッケ遊撃隊は荷車を置いた昨日の野営地に向かって移動を開始した。


 3時間ほどの移動だったが途中で一度小休止している。

 野営地に戻りそのまま野営準備に取りかかった。

 兵隊たちが夕食の準備をしている間、俺たちはウーマの中で寛いで今回の作戦を振り返り、ウーマで敵の後背を付いた時の話をした。


「思うに、旧ヨーネフリッツ軍って相当弱かったんじゃないだろうか?」

「ウーマが近づいて来るだけで逃げ惑うようじゃね」

「ズーリ戦で勝てなかったのもそういったことが原因かもしれませんね」

「そうなんだろうな。国境沿いの領主が持つ領軍はそれなりの実力はあるかもしれないけれど、旧国軍はほとんど形だけだったのかもな。今回の公爵領も国境から遠いから戦から何十年も離れて訓練もおろそかにしてたんじゃないか?」

「まあ、今さらだし、いいんじゃない。

 これから先、こういった領主の領軍を相手にする方が楽なのは確かだし」

「いくら相手が弱兵だったからと言っても、訓練期間だって3カ月もなかったのにライネッケ遊撃隊がほとんど無傷だったのは、レメンゲンのおかげで実力が底上げされていたからででしょう。これから先も訓練を続けて行けばもっともっと強くなるんじゃないでしょうか。そのうち世界最強の500人隊とか言われるかもしれませんね」

「世界最強か。いい響きだなー」

 最高を目指していたが、最強もいいな。


 とにかく、兵隊たちが強くなればなるほど損耗も防げる。そして兵隊たちは強くなり続ける。良いことずくめだ。


「このままウーマの中で食事して風呂にも入ってしまおうか」

「そうね。兵隊たちには悪いけど、何日もお風呂に入っていないから何だか気持ち悪くなってきたのよね」

「そうですね」

「わたしも」


 などと話し、久しぶりに夕食をウーマの中で摂り、風呂にも入ってスッキリして、その日を終えた。

 エリカたちはウーマの中のベッドで寝たが、ペラはステージの上で警戒すると言ってステージの上に上がり、俺は歩哨から何か報告があるかもしれないのでウーマの近くに毛布を敷いて寝た。


 


 ヘジラをとした2日後の夕方、部隊はゲルタ城塞に帰還した。この2日間は1日60キロ以上移動している。わがライネッケ遊撃隊はヨーネフリッツ軍随一の精強部隊と言っても過言ではあるまい。そう考えたら自然と笑いがこみあげてきて、またエリカに指摘されてしまった。

 今回は「久しぶりにエドのその顔を見て安心したわ」との講評でした。


 ゲルタ城塞への帰り道、ペラはウーマのステージの上で隊旗を持って立っていたが、俺たち残りの4人はウーマの中で寛いだ。


 今回の大勝利と負傷者にポーションを飲ませたのが相当利いているようで、兵隊たちはきびきびした動きでウーマのあとに従い行軍していた。今回の勝利とポーション20本で兵隊たちの信頼が買えたわけなので実に安い買い物だった。



 ゲルタの守備隊長に作戦の成功を伝えたあと、俺たち守備隊の大食堂での夕食を摂り、前回と同じ宿舎で一泊した。


 翌日朝食後、守備隊員たちの見送りの中、王都ブルゲンオイストに向け出発し、ちょうど正午にブルゲンオイスト市街に入った。


 市街ではやはりウーマは邪魔だろうと思い、ウーマから降り、ウーマはキューブにしまっておいた。

 一度しっかり隊列を組み、隊旗をなびかせるペラを先頭に俺たちが続き、そのあとを部隊が続いた。

 市街の大通りはそれなりに混んでいたが、凱旋する俺たちを見た馬車や通行人が道のわきによける。実に気持ちがいい。


 駐屯地に帰還したところで隊員たちには今日の午後と明日から3日の休みを与えて解散した。

 俺はエリカたちに隊長室で待っているように言って、今回の報告のため、隊旗を旗立てにおさめたペラを伴って国軍本部に向かった。


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