第231話 オルクセン解放作戦5、ヘジラ突入。


 1時間ほどでヘジラ方面に放っていた斥候が戻ってきて、多数の***敵部隊がヘジラを出て北進を開始したと報告した。


 ちなみにわがライネッケ遊撃隊には訓練を積んだ専門の斥候はいない。長距離が走れて目のいい兵隊を斥候に仕立てているだけなのだが、敵に見つかることもなく、迷子になることもなくちゃんと部隊に帰還して報告してくれる。レメンゲン効果だと思うが、ありがたいことだ。

 今のところ敵の規模の見積もりはやや甘いが、もう数カ月もすれば敵の規模の目測も正確になるだろう。


「ペラ、出発だ。ひとことだけ俺が兵隊たちに訓示するから号令を頼む。兵隊たちは座ったままでいいからな」

「はい。

 これより隊長の訓示がある。全隊、そのままで傾聴!」ペラが大休止中の兵隊たちに向かい号令をかけた。


「うおっほん。これより、一気呵成いっきかせいににヘジラに突入して領主城を落とす。

 俺はダンジョン産の水薬を持っている。各人、ケガなら俺が治してやるから死ぬなよ。以上」

 ホントにひとことだけ言ってペラにうなずいた。


「全隊、出撃準備」

 俺はウーマをやや開けた場所に出した。開けたといっても森の中なのでウーマを出したら数本の木がなぎ払われてしまった。

 そのウーマの中にエリカたち3人に入ってもらった。


 隊員たちが立ち上がり素早く装備を整えていく。


「全隊、整列!」

 装備を整えた隊員たちがわらわらと整列していく。

 俺は外からウーマの甲羅によじ登ってステージの上に立ち、ペラはウーマの甲羅の後ろの方に立った。


 ウーマの後方に兵隊たちが整列したところで、ペラが号令をかけた。

「全隊、出撃!」

 

 ウーマがなぎ倒した木々はうまい具合に左右に倒れるので、その間を縫うように兵隊たちが続いている。

 夜明け前の行軍時には倒木は支障になったが、明るくなった今は行軍速度がやや落ちる程度でさほど行軍に支障はないようだ。


 20分ほど森の中を進み、その先の平地に出た。5キロほど先にヘジラの街並みが見える。

 ヘジラまではところどころに集落のある田園地帯が広がって、畑は一面の緑。おそらくは小麦畑だろう。畑の真ん中をウーマと部隊が横断して畑を潰すわけにもいかないので少し回り道をして、やや広い未舗装の道に出て道なりにヘジラを目指した。


 森を抜けて1時間後。

 市街の西側からヘジラの市街に侵入した俺たちはここでも抵抗を受けることなく市街の中央にあるオルクセン公爵の居城を目指した。市街ではペラをウーマの甲羅の前の方に立たせ、隊旗も持たせておいた。


 目の前に見えてきた城は堀と城壁に囲まれた城で、旧ヨルマン領主城、現ヨーネフリッツ王城とよく似た作りになっている。こちらの方が公爵の城なので大きいかというとそうでもないように見える。


 どこにかかっているのか分からない橋を探して、側面をさらしながら城の周りを回り込むより、このまままっすぐ進んでリンガレングの特殊攻撃で堀の水を凍らせ、城の西側の城壁を破壊して城になだれ込む方が楽そうだ。


 ということなので、部隊は城壁からの矢の届かない後方にいったん下げたうえで、リンガレングをウーマの甲羅の上に出した。

「リンガレング、11階層の泉でやった時と同じように正面の堀の水を凍らせて、足元が滑りにくくなるように細かくヒビを入れてくれ」

「了解です」


 リンガレングに指示している間にもウーマのステージ上の俺のところにはひっきりなしに城壁から矢が飛んできているので、矢をレメンゲンで叩き落としている。俺も大概だと、つくづく思うよ。矢がいくら飛んでこようが余裕を持ってかわせるし叩き切ることもできるので全く怖くないんだものな。


 甲羅の斜面に8本足で立ったリンガレングから青白い光が堀の水に向けて放たれ、光を浴びた堀の水は凍結していきすぐに見える範囲の堀の水は凍り付いてしまった。

 そして、ドン! という鈍い音が聞こえ下向きの加速度を感じたと思ったら堀の氷が砕けヒビだらけになり見える範囲で真っ白に変色した。


 ウーマに乗ったまま城壁を破壊してやろうと思っていたのだが、リンガレングが気を利かせて最後のドン! で西側の城壁を敵兵ごとあらかた壊してしまった。堀の縁を乗り越えて瓦礫の山を乗り越えれば城内だ。


「ペラ、突撃の合図だ」

「はい。

 全隊、突撃に移れ。突っ込めー!」


 ウーマが堀を横断し、そのまま瓦礫の山に突っ込んでいった。ウーマのあとを兵隊たちが突貫の声を上げて堀を渡る。


 瓦礫の山に突っ込んだウーマは除雪車のごとく瓦礫を左右に押しのけて道を作ってしまった。その道をすり抜けるように兵隊たちが城の中になだれ込んでいく。


 突入した兵隊たちが各所で守備隊の兵と切り結んでいるが、わが方の兵隊が明らかに圧倒している。


「リンガレング、敵をたおせ。味方と戦意を失くした敵はたおすなよ」

「はい」

 ウーマの甲羅からリンガレングが弾かれたように飛び降り、そこかしこの戦闘に介入していきあっという間に片を付けてしまう。


 俺の方は、本棟と思われるひときわ大きな建物にウーマを向かわせてその前で止め、ウーマの中で待機しているエリカを呼んだ。

「エリカ、建物の中に突入するぞ」

「やっと出番だわ」


 甲羅のハッチを抜けてエリカがステージ立ったところで、俺はレメンゲンを手にしたまま甲羅を駆け下り地面に飛び降りた。俺のあとを双剣を抜いたエリカと素手のペラが追って地面に飛び降り、城の敷地内の掃討を終えた兵隊たちを従えて閉じた扉の前に立った。


 俺は扉を開けるような面倒なうえ、開けた途端に矢が飛んでくるかもしれないような危険なことをする代わりに、ダンジョンと同じつもりで扉をキューブに収納してやった。


 エリカには見慣れた光景だろうが、後ろの兵隊たちはかなり驚いたようだ。


 扉が無くなった先には急遽置かれたのかテーブルや椅子、タンスといった家具などでバリケードが作られていたのだが、ありがたくキューブの中にいただいておいた。こういうのって何気に楽しい。

「エド、儲けたわね。けっこう値打ちものだったんじゃない?」

「そうだろうな。何せ公爵さまの城のなかの調度品だしな」


 すっかりバリケードにもつが片付いた入り口の先は玄関ホールで、敵兵がどこかに潜んでいるかと思ったが敵兵の気配はどこにもなかった。

「なんだか拍子抜けだけど、この調子だと敵兵あんまりいないんじゃない」

「一兵でもいれば危険だから排除は必須だ」

「それはそうだけど」


「兵隊たちは内部に突入して敵兵の掃討だ。

 降伏する者には危害を加えるな」


 兵隊たちが建物の中に駆けこんでいった。やはり敵兵は潜んでいたようで各所から戦いの音が聞こえてきた。


「この建物だけじゃなく、城の中の敵兵の数も、それほど多くなかったみたいね」

「父さんの方に釣りだされた数が予想以上だったか。早いことここを片付けて父さんのところに駆けつけた方がいいだろうな」

「そうね」


 俺たちも建物の中を歩いてみたが、俺たちが行く前にすでに敵兵は制圧されて、一部は手を上げ降伏していた。


 結局腕が鳴っていたエリカも俺と一緒で敵兵と切り結ぶこともないまま、そろそろ建物内の掃討も終わるだろうと思い建物から出てウーマのもとに帰った。


 ステージの上にエリカとペラの3人で立っていたら、身なりのいい爺さん婆さんと似たような恰好の男女を兵隊たちが連れてきた。

 面識はないが、オルクセン公爵とその係累たちなのだろう。

「オルクセン前公爵、公爵夫人その他を捕縛しました」とその爺さんたちを連行してきた20人隊の隊長が報告してくれたので「ご苦労。他の捕虜とは別の部屋に監禁しててくれ」

「了解しました」

「城内の制圧はほぼ終わっているようだから俺たちは本隊の助勢に向かう。よろしく頼む」

「はい」


 爺さん婆さんたちは再度引っ立てられて建物の中に入っていった。

 20人隊長しかいないのがちょっと不安ではある。

「エド、わたしがここに残っていようか?」

「そうだな。それじゃあエリカ、頼む。

 ペラも残ってくれ」

「はい」

「そうだ、エリカ、わが方の負傷者には水薬を与えた方がいいよな」

「たくさんあるしね」

「それじゃあ、二箱置いておく。足りると思うけどどうかな?」

「そんなに負傷者はいないみたいだから、それで十分足りるんじゃない」


 俺はポーションの入った宝箱を二箱を残し、いつの間にか戻ってきていたリンガレングをいったんキューブにしまってからウーマを北に向けて進めた。後続の兵隊がいないのでもちろん時速30キロモードだ。

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