第235話 フリシア海軍拠点ヘルムス襲撃3
ブレスカ港から10キロほど沖合に出て、そこから岸沿いに西に向けて航行を続けた。
エリカは海に出たらすぐに魚釣りしたかったようだが、天気晴朗なれども波が高いうえ風も強い。とてもではないが甲羅を部分的に上げて魚釣り出来る常態ではなかった。
「エリカ、今はまだ冬だから波も風もあるんだよ」
「こんなことになるとは全く予想できなかったわ」
「春になれば海も穏やかになるだろうし、南大洋ならかなり穏やかだし」
「そうね。今度は南に行きましょう」
ステージの前に立たせたリンガレングに前方警戒を任せた俺たちは、何もすることがなくなった。その結果、エリカとケイちゃんとドーラはソファーに座って女子トークを始めた。
俺とペラはそんな中、魚料理を材料がなくなるまでどんどん作っていった。でき上った料理を皿に盛り付けてそのままキューブにしまっていたら、棚の皿も少なくなってきた。
これはマズいと思いながらも料理を作っていたら棚の中に皿が補充されるようで皿が無くなることはなく、どんどん料理を作ることができた。こんど皿をしまう時マズいことになりそうだが、その時はその時。棚自体が大きく成るかもしれないし。
ブレスカを出て3日目。
ヨーネフリッツの旧海軍拠点に近づいた。港に2キロまで接近したが、港内に軍船は見当たらなかったのでまた沖に出て西への航海を続けた。
その日の夜。
前方を警戒していたリンガレングが器用にハッチから降りてきて、前方に独航船を発見した。と、報告した。
スリットから前方を見たものの波が邪魔で良く見えなかったので、上方ハッチから上半身を出してみた。結構風が強い。その風に耐えて前方を見ると帆を半分広げた帆船がこっちに向かって白波を立てていた。
新ヨーネフリッツの船ではないことは確かなので拿捕してもよかったが、さすがに面倒だし、だからと言って沈めるのもかわいそうな気がして見逃してやった。
夜なので連中は俺たちのことに気づいてはいなかったと思うが、もし気付いていたとしても海獣の類と思ったはずだ。実際カメそのものだし。
ブレスカを出て5日目。
ここまで何度か商船らしき帆船と遭遇し、そして通り過ぎた。
今日の夕方目的地のフリシア海軍拠点ヘルムスを襲撃する。
港を視認したらそこで停止して時間調整し、20時ごろ港に突入するつもりだ。
今日は波も風もだいぶ弱まってきている。夜襲するけど今日は絶好の襲撃日和だ。
夕食の片づけも終えた。日は暮れて星は出ているが海上は暗い。時刻は午後7時。ウーマはヘルムスに向け南西方向に回頭した。
ペラは甲羅の上のステージでスタンバイしていて、手裏剣箱に60個ほど四角手裏剣を入れている。
街の明かりが近づいて、港に停泊した商船らしき帆船のシルエットもはっきり見え始めた。
係留された軍船らしき船も見えてきたところで、ペラ砲塔から撃ちだされる亜音速の四角手裏剣攻撃が始まった。
最初の標的はウーマの左斜め前方に停泊中の商船で、その商船の喫水線下の脇腹あたりから盛大に水柱が立ち、それが2回続いてゆっくりと船が手前に傾き始めとうとう横転しそのままゆっくり沈んでいった。
そのころには2隻目の帆船が傾いており、3隻目の帆船から水柱が上がっていた。
破壊はどんどん進み、停泊中の帆船があらかた沈んだところで桟橋と岸壁に係留中のガレー船が標的となり、片端から破壊されて行った。
俺は四角手裏剣を手裏剣箱に補充しながら港の様子を観察している。
ガレー船への襲撃が始まりその数分後には港のあちこちで鐘が鳴り始めた。人が大声出しながら道や桟橋の上を走り回って騒々しくなり始めていた。
桟橋に2隻横並びに係留されたガレー船は、外側のガレー船の船腹を貫通した四角手裏剣が内側のガレー船を破壊している。その結果外側のガレー船は必要以上に破壊され瞬く間に沈没していく。
ガレー船の中にも多数の人がいたようで、異変に気づいて甲板の上で右往左往しているうちに船が傾いて甲板から投げ出されるように海に落ちていく。
海の上には無数の人の頭がプカプカ浮かんでいるので、相当数の船員が船の中にいたようだ。
ガレー船の次は桟橋だ。桟橋を支える柱をペラが正確に打ち抜いていく。
……。
20分ほどの短い襲撃だったが、完全破壊できたと思う。海の上に破壊できるものがなくなったところでウーマを反転させていったん沖に向かった。
ステージから降りてきたペラをねぎらった後戦果を聞いた。
「ペラ、ご苦労さん。港湾襲撃とすれば完璧だったな。それで結局何隻沈めた?」
「はい。
大型ガレー船、16隻。
小型ガレー船、32隻。
商船らしき帆船12隻です」
「今回はずいぶん沈めたなー」
「これだけ沈めたら、ヨーネフリッツ方面に軍船を出せなくなるんじゃない?」
「フリシアだって西隣の国があるわけだから、そっちに備えないといけない以上、ヨーネフリッツの船の行き来は従来通りできるようになるだろうな」
「マスター。付け加えますと、比較的浅い桟橋近く多数の艦船が沈んでいるため、大型船の係留は難しいと思います」
港の復旧にはかなりの時間がかかりそうだ。フリシアは相当物入りになる。
ヘルムスの沖合まで出たところでウーマを右舷に90度回頭させ、帰路に就いた。
襲撃から6日目の未明。
ウーマはブレスカ沖に到着し、そこからブレスカに向け航行し午前4時。俺たちはウーマの甲羅から岸壁に飛び移って上陸を果たした。
ウーマは一度キューブにしまい、岸壁に沿った道に出した。
俺たちもすぐにウーマに乗り込んで、まだ人通りのほとんどないブレスカの街を縦断し、街道をブルゲンオイストに向けて移動した。
6時ごろから荷車が街道に現れ始めたが、ウーマを認めてすぐに道を譲ってくれたので支障なく街道を進むことができた。
俺たちはブルゲンオイストの市街地の手前でウーマを降り、ウーマをしまってから徒歩で国軍本部に向かった。
久しぶりに5人で訪れた国軍本部で、すぐに本部長室に案内された。
「エドモンド・ライネッケ以下5名。ヘルムス襲撃から帰還しました」
「ご苦労。して、首尾は?」
「ペラ」
「はい。
6日前の20時ごろヘルムス湾を襲撃し、
大型ガレー船、16隻。
小型ガレー船、32隻。
商船らしき帆船12隻。撃沈しました。
さらに、4本の桟橋を破壊しています。
夜間ではありますが港湾での襲撃であったため、敵海兵の多数は無事だったと思われます」
「よくやってくれた。実に見事な活躍だ。従来通りヨーネフリッツ各港との交易を再開できる。
それでは十分英気を養ってくれ。
そうそう、カールは5日前に戻って、今はライネッケ遊撃隊をみている」
「了解しました。それでは失礼します」
せっかく駐屯地まで来ていたので、俺たちは隊舎の方に回っていったところ、父さんとシュミットさんが部隊の訓練を見ていた。
「帰ってきたんだな」
「父さんたちこそ」
「うまくやってきたみたいだな」
「うん。港にいた敵の船は商船もひっくるめてペラが全部沈めてしまった。フリシア海軍もヨーネフリッツ方面へ船は出せないんじゃないかな。
ところで父さんたちはロジナ村に帰らなくていいの」
「そろそろ帰りたいんだが、またヘプナー伯爵に引き止められてしまった。今度はハルネシア解放作戦だそうだ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
フリシア海軍はヘルムスにおいて大型ガレーを16隻、小型ガレーを32隻一気に失ったことにより、残された大型ガレーは4隻、小型ガレーは18隻。フリシア海軍は西方面にも備えなければならず、ヨーネフリッツ方面への艦船派遣はほぼ不可能になった。ただ、海上で撃滅させられたドネスコ海軍と異なり港内での沈没だったため多くの海兵たちは無事だった。
甚大な損害を出したものの、「巨大な海獣の鳴き声を聞いた」「海獣の鳴き声が聞こえたら水柱が上がって船が沈んだ」などの流言飛語が飛び交い、どこからどういった攻撃を受けたのかは
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