第228話 オルクセン解放作戦2。フリシア
旧オルクセン公爵領に対して解放作戦の実施が決まった。
ゲルタ城塞からの出撃が5日後の朝なので、4日後の早朝駐屯地を出発し、到着後現地で補給を受け城塞内の宿泊所で一泊することとした。
そして翌朝、オルクセンの旧領都ヘジラに向けて進撃を開始する。
作戦では父さんが指揮する本隊3個500人隊で、ヘジラへの途中の都市を開放していく。おそらく途中の都市は無防備なので、無血で解放できると思う。
父さんの本隊によってヘジラから釣り出された敵のスキを突き、俺のライネッケ遊撃隊がいっきにヘジラに進み、そのままオルクセン公爵の居城に突入して制圧する。
領主城の制圧後ライネッケ遊撃隊の隊員を城に残し、ウーマに乗った俺たちだけで釣り出された敵部隊を後背から叩き潰す。リンガレングが使えるわけだから難易度はそれほど高くない作戦だと思う。
国軍本部から隊長室に戻った俺は、エリカたちに出撃が決まったことと大まかに作戦を説明しておいた。
「やっと仕事だわ」
「とはいっても、基本は移動だけで実戦はペラとリンガレングで十分なんでしょうけれど」
「ただ今回は、城への斬り込みがあるから俺たちも実戦に出てもいいかもしれない」
「それなら楽しめるわね」
ウォーモンガーのエリカさんは健在だった。エリカさんはこんなことを言っているが俺と同い年で弱冠15歳なんだけど。
「城に突入したら俺とエリカとペラ、そしてリンガレングで敵にあたるから。どこから矢が飛んでくるか分からないからケイちゃんとドーラはウーマの中で待機してくれ。そうすれば危なくないからな」
「はい」「うん」
「その何とかいう公爵領を攻めるのはいいけど、旧王都の奪還より優先するんだ?」
「ヨーネフリッツ本土に残った勢力のうち、最大の勢力って位置づけじゃないか? 言葉は悪いがその一大勢力を血祭りにあげたうえで王都を外国の手から奪い返せば新国王になびかない勢力なんかいなくなるんじゃないか?」
「なーるほど。エド、鋭い。さすがは王国軍ナンバー2」
さすがはリーダーから、国軍ナンバー2にクラスチェンジしてしまった。
「それはそうと、行軍中はウーマを先頭に立てた方が威圧にもなって良いと思うけど、どう思う?」
「いいんじゃない。ウーマについては誰もが知っているから隠す必要なんてもうないし」
「だよね」
「ねえ、エド。今度の作戦だと、敵の城に突入したら敵味方入り乱れるんじゃない?」
「そうだな。城の中には部屋もたくさんあるだろうから、兵隊たちでしらみつぶしにしないといけないからな」
「そうなってしまってから、リンガレングは敵と味方の区別がつくのかな?」
「それは心配だな。敵を見たらたおせと命じて味方まで皆殺しにしたんじゃ大ごとだものな。
何かいい手はないかな?」
「目印に腕に白い布を巻いておくのはどうかな?」
「返り血なんかで赤くなったりしたら、敵認定されないか?」
「あー。それはありそうよね」
「困ったなー」
「リンガレングにライネッケ遊撃隊の全員の顔を覚えさせてはどうでしょう?」
「さすがに500人の顔を一度に覚えるのは無理じゃない?」
たとえ500人の顔を覚えたとしても、戦闘中ともなれば敵味方を一瞬で区別しないといけないが、常識的に考えて、かなり難易度の高いことになる。それでもリンガレングはロボットみたいなものだから、500人くらい余裕で覚えてとっさに判断できなくもないような気がしないでもない。
「午後からの訓練前に兵隊たちを集めて出撃が決まったことを伝えるから、そのときにできるかできないか試してみよう。それでうまくいったら儲けだし、ダメなら他の方法を考えよう」
「それもそうね」
午後の訓練が始まる前に全員に隊舎前に集合をかけ、隊員たちに、出撃が決まり4日後の早朝、
突然のことなので隊員たちが動揺するかと思ったのだが、全くそんな感じではなかった。肉体的にも精神的にもレベルアップしている。
そのあと隊員たちの顔をリンガレングに覚えさせるため、隊員たちの目の前にリンガレングをキューブから出した。
そしたら隊員たちの間に明らかに動揺というか怯えが走った。精神はまだ完全ではなかったようだ。
「これはダンジョンアイテムのカラクリクモだ。味方である限り恐れることはない」
と、ひとことだけ言ったが、あまり効果はないようだった。
そこは仕方がない。ダンジョンで大型のモンスターと相対したことがなければこういったモンスターっぽい造形の物に対して恐れをいだくのは当然だし。
そういえば、フリシアの連中も降伏した後おとなしかったが、リンガレングが見張りしてたから怖かったんだろうなー。
「リンガレング。ここに500人ほど兵隊が並んでいるんだが、全員の顔を覚えられるか? 敵味方の識別に使いたいんだが」
『はい。……。登録完了。全員の顔および骨格パターンを記憶しました』
骨格パターン? なんだか分からないが、きっと識別に役立つ情報なんだろう。
「敵味方の識別はできそうか?」
『はい。一卵性双生児といえども簡単に判別できます』
「分かった。もう少し先だが戦闘を想定している。その時、味方と、武器を捨てて手を上げ戦意のないことを示す敵はたおさないようにな」
『了解しました』
「それとたおすときはあくまで『きれいに』な」
『了解です』
「いまこのカラクリクモが全員の顔を味方として覚えたから安心してくれていいぞ」
その言葉で明らかに怯えが無くなった。ということもなく隊員たちの顔はこわばったままだ。
そのうち慣れるだろう。と、思ってリンガレングをこのままここに出しておこうかと思ったのだが、午後からの訓練が滞りそうなのでキューブにしまってやった。そしたらあからさまに隊員たちの顔が緩んだ。この連中、思った以上に怖がりだ。
「みんなリンガレングのことが相当怖いみたいだなー」
「エド。この前フリシアが攻めて来た時、2000人近くのフィリシア兵の後頭部が正確に抉られていたことが守備隊内に広まってるんだ。
と、父さんが解説してくれた。フリシアの捕虜も一時期大量にこの駐屯地にいたわけだし、うわさが広がってもおかしくないか。しかし、今の話だと俺も恐れられている可能性が無きにしも非ず?
「そのおかげで、お前の命令を聞かない国軍兵士はいないようだぞ。良かったじゃないか」
エリカたちは納得したような顔をしてうなずいているし、確かに良いことではあるが、ちょっとだけ複雑だ。
指揮官は部下に慕われて指揮を執るものと思っていたのだが、俺は知らないところで恐怖で指揮を執るブラック指揮官に成っていたようだ。まあ、部下に損害を出さず、勝てばいいんだよ。勝てば。そうすれば指揮官に対する兵隊たちの信頼は必ず生まれる。
俺はシュミットさんに訓練を始めるよううなずいたところで、シュミットさんは整列している兵隊たちに向かって「訓練始め!」と号令した。
そういえばこんどの作戦が終わったら父さんとシュミットさんはロジナ村に帰るんだろうから、こういった号令はペラにやらせることになるのか。
整列していた兵隊たちが各20人隊に分かれてバタバタと練兵場に散っていく中、俺は何となく釈然としない気持ちで隊長室に引き上げた。
作戦が始まればしばらく休みもなくなるから移動日前日の午後は休みにして休養を取らせよう。ああ、実にホワイトな職場だなー。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのころ。
ヨーネフリッツ国王ヨルマン1世からフリシア国王エリクセン1世への親書がヨーネフリッツの旧王都ハルネシアのフリシア軍に届けられた。そしてその親書はフリシア軍の軍船でフリシアの都フリシアンに届けられた。
親書の内容はヨーネフリッツ王国がヨルマンのブレスカで捕らえたフリシア貴族の買戻しの提案で、金銭でのみ受け付けるとしていた。親書にはただし書きとして、フリシアが捕らえたヨーネフリッツ貴族は既に全員廃爵しており、国として彼らを買い戻す意思はないと付け加えられている。
親書を受け取ったフリシア国王エリクセン1世は直ちに重臣を集めて会議を催した。
エリクセン1世は、妾腹の子ながら正妻の子である弟との王太子争いを勝ち抜いて前王の跡を襲い、さらに弟を推す反国王派を一掃して国内統一を果たした英傑である。
「先方がわが方の捕らえた捕虜との交換を望まない以上、ヨルマン、いやヨーネフリッツに捕らえられた貴族たちについては先方の言い値で買い戻すほかはあるまい。幸い法外な値段ではないようだし」
「係累に費用を求めますか?」
「国のために働いた者たちだ。国庫から出してやれ」
「御意」
「しかし、ヨルマンに向かわせたドロイセンとの連合軍は跡形もなく消えてしまうし、海からヨルマンに上陸して領都に攻め上がったはずの兵は降伏してしまった。
挟撃するつもりでわが方に呼応してヨルマンに向かう途中のドロイセン艦隊も陸兵もろとも全滅したという。
ヨルマンには一体何があるんだ?」
「諜者を潜り込ませてはいますが、まだ潜り込ませて間もないため何も報告は上がっていません」
「それは仕方がない。
しかし今、そのヨルマンがヨルマンではなくヨーネフリッツを名乗っているということは、失地の回復を目指しているということだろう。ヨーネフリッツの
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