第227話 陞爵式。オルクセン解放作戦
月末。
今日は俺たちの陞爵式。場所は前回と同じだが、前回と名まえだけが変わって王城での開催となっている。
先日の部隊の休みでエリカたちは例の仕立て屋で装飾品を買って、今日の陞爵式に臨んでいる。
俺はペラに何か買うように勧めたが、機動に支障が出ると言ってペラだけは何も買わなかった。式の時付けるだけでいいから機動もへったくれもないのだが、そこは言わないでおいた。
前回父さんも一緒だったが今回は、俺たち5人だけだった。
前回は領主城の大広間だったが、今回は同じ大広間でも玉座の間になる。
といっても、部屋の中に玉座はなく真ん中でそれっぽい服を着て立っている壮年のおじさんが新国王ヨルマン1世陛下なのだろう。見た目はいわゆるイケオジ。生前の俺みたいなものだ。ちょっとくらい盛ってもいいだろ? すでに故人なんだし。
俺はそのイケオジの前にひざまずき
「われ、ヨーネフリッツ王国第13代国王バトー・ヨルマンの名において汝エドモンド・ライネッケを伯爵に陞爵する」
イケオジの声はやはりイケオジだった。ちょっとだけ悔しい。
玉座の間からの拍手の中、心の中でハハー。と、言って立ち上がり、次のエリカと交代した。
……。
式が終わり玉座の間から控室に退散していたら、しばらくしてパーティーが開かれるということで会場に連れていかれた。
今度の会場は、前回と比べそれなりに広くて、会場には多くの人が既にいて飲み食いしていた。
俺たちが係の人に連れられて部屋に入ったらその連中から拍手が起こった。それも盛大に。
前回の主催は名目上前王。今回の主催は新王。はっきりした違いがあるのだが、その違いによるものなのか? それとも単純に俺が地位的に
どっちでもいいけど。
俺たちが部屋の真ん中あたりまで案内されたところで、ヘプナー伯爵が迎えに来てくれた。
「みんな、おめでとう」
「「ありがとうございます」」
「こうやって、おいしい酒が飲めるのもみんなきみたちのおかげだ。感謝する。
さて、今回は陛下の重臣たちをきみたちに紹介しよう。お互い面識があった方がいいだろうからな」
そう言ってヘプナー伯爵は俺たちを連れてそこらへんの小グループに紹介して回ってくれた。
俺たちは言われるまま頭を下げて愛想笑いし俺が代表して「これからもよろしくお願いします」と、頭を下げておいた。
そしたら「若いのに礼儀正しい上にしっかりしてる」とか、おだてられてしまった。
エリカたちは俺と違って容姿をベタぼめされていた。
一通りあいさつが終わったところで、ヘプナー伯爵に礼を言って頭を下げておいた。
「気にしないでくれたまえ。こういったこともわたしの務めだからな」
新王国の貴族が全てこの部屋に集まっているわけではないだろうが、伯爵は俺とヘプナー伯爵をのぞいて二人しかいなかった。いずれにせよ俺って新王国の家臣のうち上から一けたに入っていることは確実だ。常識的に考えて辺境伯≒侯爵の寄子の伯爵は数人だろうから俺は新王国で上から5本の指に入っている可能性さえある。いいのかこれで?
順当に新王国が失地を回復して行けば、何もしなくても俺って侯爵に成っちゃうよな? 何もしないってことはないから、侯爵は侯爵でもそういったのがあるのかどうかわからないが主席侯爵に成っちゃうかも?
とか考えていたら、会場に拍手が起こった。
みんなの視線の先を見ると広間の奥に設えられたステージに国王陛下が現れ、その後ろにおそらく王妃殿下と、先日話をした王女殿下が続いていた。
「おっ、陛下がいらっしゃったようだ。
それでは、あいさつに行こうか」
ヘプナー伯爵に連れられてステージ上がり、5人揃って新国王陛下に頭を下げた。
「ライネッケくんと仲間のみんな。きみたちの活躍には感謝している。これからもよろしく頼む」と、朗らかな笑みと一緒に手を差し伸べられたので両手で陛下の手を握り返しておいた。
俺に引き続いてエリカたちも握手した。ドーラは若干足が震えていた。かわいいところがある。
最後に陛下が、後ろに控えていたドリス殿下を近くに呼んで俺たちに紹介してくれた。
「わたしの娘のドリスだ。仲良くしてやってくれ」
「「はい」」
俺自身は既に見知っていたが、みんなに合わせて、はい。と、答えた。当たり前か。
それで王族のお目見えは終わり陛下たちは奥に引き上げていった。
「これで務めは終わったから大いに食べ、かつ飲もう!」
ヘプナー伯爵とステージを下りた俺たちは適当なテーブルの近くで飲み食いを始めた。
しばらく飲み食いしていたら、
「それじゃあ、わたしはそろそろお暇するが、みなは楽しんでくれたまえ」と、言い残してヘプナー伯爵は広間から出て行った。
「前回と比べて格段に豪華よね」と、エリカ。
「前回は廃位まじかの王さま主催という建前だったんだろうし、今回は陛下の新国王としての初めての公式行事だったんじゃないか?」
「差がつくのは当たり前か」
「料理もおいしいですし、どんどん食べましょう」
「料理はエドの料理の方がおいしいかも。でもお酒はいいお酒よ」
グラスが空けばお注ぎしましょうかとメイド風の女性がすぐにやってきてくれるので実に気分がいい。生前メイド喫茶なるものに行ったことはないのだが、こっちの方が断然いいのではないか? 高級だし。タダだし。
それから30分ほど内輪で飲み食いしてから俺たちも退散した。
陞爵式の翌日から日常生活が再開し、ライネッケ遊撃隊の隊員たちの能力は日増しに高まっていった。
それに引き換え、伯爵さまになった俺は防具を着けていなければいつもの胴着だし、全くらしくない伯爵さまだった。
「エド。お前、伯爵になったんだから、もう少し身なりに気を配った方がいいんじゃないか?」
と、父さんにまで言われてしまった。
だがしかし、俺は今では立派な国軍の将校なのだ。常在戦場。チャラチャラした格好は王城での何かの式の時だけで十分。と、思ったが、父さんに楯突いてまで言う必要もないことなので「そのうち暇があったら服を用意するよ」と、答えておいた。
その数日後。
俺たち5人は父さんたちと並んで兵隊たちの訓練を見ていた。
「先日ヘプナー伯爵から兵隊たちの錬成具合を聞かれたので、十分上がってきている。と、答えたんだが、そろそろ出撃命令が出るんじゃないか?」と、父さん。
「出撃するとしてて、どこに向かうのかな?」
「どうだろうな。このまえ手に入れた旧王領の北か南か。南は確か何とか言う公爵領だったから、そっちじゃないか」
「公爵領だと、どうして?」
「公爵と言えば、前王の一族だろうから、一族とは無縁の新王にはおそらく恭順しないだろう」
「なるほど」
その日の午後、国軍本部のヘプナー伯爵に俺と父さんが呼び出された。
「旧オルクセン公爵領に対し、新国王に恭順するよう使者を出したが、新国王を認めないと使者を追い返してきた。わが方は旧オルクセン公爵領に対して討伐の兵を出すことが決まった。
ライネッケ遊撃隊にも出撃してもらいたい。ライネッケ遊撃隊にやってもらいたいのは領都ヘジラの中央に位置する領主城の制圧だ。頼めるか?」
父さんが言っていた通りだった。
「大丈夫です。
それで敵の規模は?」
「公爵領軍の規模は多くても5000を越えないはずだ」
「こちらの兵力は?」
「わが方はライネッケ遊撃隊に3個500人隊、約2000で臨む。
その4個500人隊でヘジラまでの途中の都市を解放しつつヘジラに向かい、ライネッケ遊撃隊をのぞく3個500人隊でヘジラをうかがう構えを取りヘジラ近郊で陣を敷く。5000の敵兵のうち3000から4000がヘジラから釣り出されて野戦を挑んでくると考えている。
ライネッケ遊撃隊はその間に迂回路からヘジラに突入し速やかに領主城を制圧。取って返して釣り出された敵軍を後背から襲撃してもらいたい。
かなりきわどい作戦ではあるが、きみたちなら可能であると信じている」
「進撃途中で解放された都市の治安とか守りはどうなるんですか?」
「解放後の諸都市には別途治安部隊を送るのでライネッケ遊撃隊と3個500人隊はあくまで前進部隊ということになる」
「了解です」
「地位的にはエドモンドくんが全部隊の指揮をとるべきなのだろうが、きみの部隊には単独で敵にあたってもらい残りの3個500人隊はカールに任せようと思っている」
「了解しました」
「えっ? わたしが3個500人隊の指揮を執る?」
「陞爵式は先になるが、カールは本日より男爵扱いとする。
何か不都合でもあるかね?」
「いえ。何もありません。ありがとうございます」
「地図などをあとで届けさせる。
カールに預ける3個500人隊は既にゲルタに集結しているので、ライネッケ遊撃隊は5日後の朝までにカールを伴ってゲルタに進出し補給を受け、当日朝食を終えたらヘジラに向かってくれ。
指揮権についての命令書は既にゲルタ守備隊に送っているのでカールはゲルタに到着後守備隊本部に出頭して速やかに3個500人隊の指揮を引き継ぎ、ライネッケ遊撃隊に続いてヘジラに向かってくれ。
急な話で済まないがよろしく頼む」
「「了解しました」」
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