第223話 年末年始


 エドモンドたちは部隊の錬成を見ながら、年末を迎えようとしていた。

 フリシア軍の捕虜たちは領都内の各所に収容された。もちろんライネッケ遊撃隊が駐屯している領都守備隊駐屯地にも収容されている。彼らは、空き兵舎内に入れられ、順次取り調べを受けている。取り調べの終わった者から順に領内各所に移送されるそうだ。


 ペラが伝票を領軍本部に持っていった翌日午後には、隊長室にそれなりに立派な食器棚が届けられ据えられた。食器棚とは別途にティーセットも届けられた。

 初日はティーセットを使ってみたのだが、やはりいろいろと面倒だった。


 よくよく考えたら、何も隊長室でお茶を作らなくともウーマの中で作っていた方が面倒ではないので大きなヤカンを4つ買ってそれにお茶を入れキューブに収納しておくことにした。

 ティーセットは使えば洗わなければならないので、陶製のマグカップを人数分買ってきて、それを1日通しで使うようにして、帰りに桶に入れてキューブにしまい、ウーマに持ち帰って夕食後の食器と一緒に食洗器で洗い翌日また持っていくようにした。



 部隊としての年末の休日は年末の5日間+年始の3日間の合計8日間。そのうち20人隊ベースで半数が前半の4日間。残りの半数が後半の4日間の全休となる。もちろん当直の4日間は待機だけで訓練はない。


 エドモンドたち部隊幹部は8日間通しでも休めるが、その場合、連絡先を残した責任者に伝えておかなくてはならない。

 ライネッケ遊撃隊には100人隊を設けていないため、前後の4日間の2名の責任者は20人隊の隊長の中から選ばれる。今回はカールが選んでいる。


 エドモンドは、カールとシュミットに8日間ちゃんと休んでロジナ村に帰るよう勧めたところ「後2カ月で奉公期限も切れるからそれまでここにいるよ」と、言われてしまった。

 父さんたちからすれば、夜の街のある領都の方がロジナ村より楽しいんだろう。などと勝手に解釈しておいた。

 そういえば俺。このところそっち方面全くと言っていいほどパッションヤルきが無くなってるんだよな。この歳でこれって相当マズいんじゃないだろうか?


 

 こうしてライネッケ遊撃隊は年末年始モードに突入した。


 休みに入って夕方になると父さんたちが風呂に入りに来ている。夕食を食べるかと聞くと、用事があるからと言って帰っていく。アレはどう見ても二人して毎夜のように繰り出している。



 そして今日は年末最終日。日本式に言えば大晦日。


 俺は餅が作れないかと思ってもち米を探してウーマの食料庫の中を漁っていたら、白っぽいコメが見つかった。もち米って普通のコメと違って白かったような気がするんだよな。

 とりあえず試してみることにして、いつもの炊飯方法でその米をカップ2杯分を鍋に入れて炊いてみた。

 確かにもち米だったのだが、何だか柔らかすぎでこれを潰してもベチョベチョになる感じがした。

 もったいないので一応皿に移してキューブの中に取っておいたが、将来にわたって使うことはないかもしれない。あっ! 糊代わりにはなりそうだ。


 その後、水加減とか、水に浸す時間などを変えて5回ほど試したところで、これだ! という感じにでき上った。ここまでで半日かかっている。


 俺の隣りではペラが小豆を煮ている。昨夜から水に浸したものだ。

 小豆は十分軟らかくなってから砂糖を入れないといけないということは、生前の子どものころ母さんだったか、ばあちゃんだったかに聞いた事があるので、じっくり煮込んで小豆が柔らかくなってから砂糖を入れるようにペラには教えているので間違いはないだろう。

 本当はアンまで作りたかったが、今回はおしるこを作るつもりなので、時間はそれほどかからないはず。というか俺がもち米で試行錯誤を重ねているうちにおしるこの素はでき上ってしまった。

 味見したところちょっと甘味にコクがなかったので塩を少々振ったら味が引き締まった。

 

「マスター、塩を入れるんですか?」

「うん。少しだけ塩を入れると甘味が引き立つんだ」

「なるほど。料理は奥が深いのですね」

「俺の場合はなんとなくやってるだけだけどな」

 これも料理スキルが俺に教えてくれたからだと思う。


 俺とペラが台所で何やらやっているのをエリカたちは最初のうち見守っていたが、そのうち飽きたようでソファーに移動して3人で話し込んでいた。俺は作業の合間にパパイヤだかマンゴーを切って皿に盛り、小型のフォークを小皿に付けて応接テーブルの上に置いてやった。

「エド、ありがとう」

「ありがとうございます」「エド、気が利くー!」

「それで結局ペラと二人で何作ってるの?」

「特殊な白麦と赤豆を使ってデザートができないか試行錯誤中だ」

「試行錯誤って?」

「失敗しながらいろいろ試しすって意味だ」

「ふーん」

「もうすぐでき上るから楽しみに待っててくれ」


 俺は台所に戻って、火を落とした鍋の中でもち米が蒸れるのを10分ほど待った。


「コロヨシ!!」


 鍋のフタを開けたら湯気がブワーっと上がった。

 鍋の中でもち米を潰していけば餅になるはずなのだが、潰すものがない。

「ペラ、この鍋の中の白麦を潰したいんだが潰すのに適当な器具はないかな。太めの棒があればそれでこねて潰せると思うんだが」

「それだったら、わたしが直接手で潰しましょう」

「まだ熱いから無理だろ。とは言え、冷えたらうまく潰せなくなるから早いとこ潰したいんだが」

「マスター、この程度の温度でわたしの手がどうなるわけではありません」

 そういえば、ペラはいわばロボットだった。

「それならいいか。その前に手を洗って、濡れたまま潰した方がいいぞ、すごくくっつくからな」

「了解しました」

 ペラが流して手を洗い軽く手の水気を振っただけで鍋の中の炊きあがったもち米をこね始めた。

 俺はボウルに水を入れて「くっつき始めたらまた手を濡らしてくれ」と、言ってペラの近くに置いてやった。

 お餅は1分もかからずでき上った。

 でき上ったお餅は小麦粉を振ったまな板の上に置いてもらい、そこでペラに親指大の団子に丸めてもらった。


 餅の総量は元がカップ2杯分のもち米なので団子の量はそれほどでもない。それでもおしるこに入れる分には多すぎるくらいでき上った。

 固くならないうちに皿に入れた団子はいったんキューブにしまい、でき上ったしるこを小型の深皿に人数分入れて、最後に先ほどの団子を3つずつ入れておいた。



「アッツー。フー、フー。

 なにこれ、おいしい!

 中に入ってる白いの。アッツー。あれー、くっつくー!」

 他のみんなが静かにそして熱心に食べてる中で、エリカが一人で騒ぎながら食べている。


「お代わりはあるから、言ってくれ」

「それじゃあ、お代わり」

 騒いで食べていた割にエリカの深皿はもう空だった。


 ……。


 みんな2杯食べたところで結構お腹が膨れてしまった。

 まだおしるこは5杯分くらいは残っていたので明日の新年用だ。


 あと片づけを終えて、みんなしてソファーで寛いだ。

「何だかすごく変わった味だったけれどおいしかった。エドって料理の天才よね」

「ホントにおいしかったですね」

「エド、うちでは全然料理なんかしたことなかったのに不思議だなー」

 ドーラがしきりに首を傾けていた。それを言うなら俺だって不思議だよ。


「まだ休みは3日もあるけどどうする? 兵隊たちが訓練してるわけでもないから隊舎に行っても仕方ないし」

「ウーマの中も、倉庫の中も掃除は終わっちゃったし」

「ですねー」

「仕方ないからお風呂にでも入らない?」

「それもそうですね」


 結局エリカたちは3人して風呂に入ってしまった。


 何もすることなくなった俺はエリカたちと一緒に風呂に入っている自分を想像しながらソファーに座っていた。


 一人ニヘラ笑いをしていたら「マスター、どうしましたか?」と、ソファーで一緒に座っていたペラに言われてしまった。

 ドンマイ!


 この日は父さんたちは風呂に入りに来なかった。連日ではさすがに疲れたか?





[あとがき]

コロヨシ!! どこかで宣伝してたと思いますが、三崎亜記さんのスポーツお掃除***小説。面白いです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る