第222話 ブレスカ戦6、その後。
領都に帰ってきた翌日。
今日一日は全員自由時間とした。
とはいっても、ライネッケ遊撃隊隊長の俺は、父さんに無事帰還を伝えるためみんなを残して駐屯地の隊舎に向かった。
「父さん、俺」
『おう、わざわざやってきたのか。入ってくれ』
「聞いたぞ。またまた大戦果だったそうじゃないか?」
「リンガレングだけで何とかなっちゃんだけどね」
「それで十分だろ。
この前のドネスコの船団のことと、今回のフリシア軍の撃破。お前、伯爵に陞爵するんじゃないか?」
「伯爵に成ったらヘプナー伯爵と同じになるってことじゃない。それはナイ、ナイ」
「いやー。十分あり得るぞ。お前たちはっきり言って、全ヨルマン領兵でもどうにもならない怪物だろ? 伯爵の年金でおとなしくしてくれるなら安い物だろ?」
「そうかもしれないけれど」
「とはいえ、まだお前に領軍を任せるわけにはいかないから名まえだけというか年金だけの伯爵だろうが、ヨルマン領軍内で伯爵は今現在ヘプナー伯爵だけだからヘプナー伯爵が引退したら領軍本部長だ」
「それも面倒だな。そういったことは父さんに任せるってできないの?」
「それはできないだろ」
「俺が本部長に成ったら、父さんを副本部長にして仕事を任せばいいわけだろ?」
「いや、いくら本部長でも勝手にそんなことはできない。ヨルマン公の了解がないとな」
「じゃあ了解してもらうよ。だって俺たち全軍以上なんだし」
「おいおい。あまり無茶なことは言うなよ」
「冗談だけどね」
「俺たちはヘプナー伯爵にしっかり休めって言われたんで今日は休みにしたんだけど、父さん何かある?」
「昨日から訓練は再開している。部隊の方は順調だから、2、3日休んでいてもいいぞ」
「分かった。それじゃあ」
「エドモンド隊長、ちょっと待ってください。
伝票が溜まってるんでサインだけお願いします」
シュミットさんに呼び止められて伝票に束にサインをしていった。まさにめくら判。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、父さん、シュミットさん。隊のことはよろしくお願いします」
「おう」「任せてください」
隊のことは父さんとシュミットさんに任せることにして、俺は倉庫に帰っていった。
「「おかえりなさい」」
「ただいま。
ペラはいると思ったけど、みんなまだいたんだ」
「行きたいところがあるわけじゃないし、暇なんだよねー」
「そうなんです」
確かに。このところペラとリンガレングしか仕事してないし。
俺は報告がらみでそこらに顔を出している関係でそれなりに忙しいけど。
「それに、ウーマの中の方が外より快適じゃない」
「そうなんです」「そうなの」
つまり、ウーマの中でゲームでもできれば最高ということなのか?
と、言ってもビデオゲームがあるわけでもなし。
この世界にも将棋のようなゲームもあればトランプのようなカードゲームもある。俺は将棋とトランプの知識があったのでどうもなじめず、すぐにあきて止めてしまった。ドーラは俺にべったりだったのでドーラも止めている。
ここで、そういった物を用意してしまうとエリカがうるさく一緒に遊ぼうと言うはずなので触らぬ神に祟りなし。を、貫くにしくはなし。
そんなこんなでその日は少なくなってきていた肉と野菜を買いに商店街に出かけ、作り置き用の料理を作っただけで終わってしまった。
肉の値段も野菜の値段も上がっていたし、売っている量も少ないような気がした。ヨルマン領は2度も外国からの攻撃を受けているわけだし、ヨーネフリッツ本土との交易も現状滞っているので仕方のないことだとは思う。しかし、まさに俺たちの活躍で大きく戦力を削がれたドネスコ、フリシア両国ともこれ以上ヨルマン領に対して直接的な動きを見せることはないだろう。そして、ヨルマンからヨーネフリッツ本土の解放を進めていけば少しずつ品不足や物価高も収まってくるだろう。と、思うが。
そして翌日。
結局、暇だったので休暇を休んで俺たちは駐屯地の隊舎に向かった。ワーカホリックでなくても仕事場にいた方が落ち着く人間って結構多いかもしれない。
隊舎に入り、俺だけ父さんの部屋に行って俺たち5人が出勤したことを告げたところ、父さんにもシュミットさんにも笑われてしまった。
その後、隊長室に戻って装備を緩めた。
しばらく席に着いて落ち着いていたのだが、エリカが急に思いついたことを言い始めた。
「お茶くらい用意した方がいいんじゃない?」
「通常なら従兵がいるらしいから、そういった物も用意してもらえるかもしれないけど、この部屋の中に部外者は入れたくないしな」
「確かに」
「お茶の道具ぐらい用意してもいいから、この部屋の中にそういった物を入れておく食器棚でも用意するか? 水なら水筒もあるし、ヤカンも加熱板もあるんだから」
「そういった備品って部隊予算から出るのかな?」
「そもそも俺はこの部隊にそういった枠があるのかさえ知らずに適当に伝票にサインしてたけど。
ペラ、その辺はどうなっている?」
「ライネッケ遊撃隊には今のところ予算はないようです。その代り、伝票を領軍本部に持っていくと、マスターのサインだけ確認した後は何も言わずに受け取ってもらっています」
「なるほど。
エリカ。そうだって」
「つまり、たいていのものは領軍が払ってくれるって事よね」
「無茶はマズいけど、俺たちが必要な物って大した物はないしな。
ということで、ペラ。食器棚とお茶セットを注文しておいてくれ。
万が一文句が出たら俺が支払うから」
「了解しました。問題があるようならライネッケ子爵が
ペラのヤツ、ヤルではないか。
ペラが伝票を書いて持ってきたのでサインしたら、ペラはそれを持って部屋を出て行った。
伝票出すだけで領軍本部が適当なものを見繕ってくれたうえ、届けてくれるんだろうから生前のオンラインショップより便利じゃないか。
そんなに待つことなくペラが戻ってきて「至急用意するとのことでした」と報告してくれた。
地位って大切だなー。
そうこうしていたら、隊舎の外で訓練が始まったようなので、訓練を見ている父さんとシュミットさんのところに5人そろって行った。
「なかなかいい動きになってきただろ?」
確かに行進はそろっているし動きがきびきびしている。槍の訓練でも腰が入ったいい動きをしている。
数日見ていなかっただけなのだが、確かに刮目状態だ。
年が明けたら荷車が手に入るから、それに重りを載せて行軍訓練してみよう。重りはサクラダダンジョンの12階層で引っぺがした床石でいいだろう。
目標は1日の行軍距離60キロだ! ちょっと無茶かもしれないが、為せば成る。の精神論で目標達成だ!
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