第221話 ブレスカ戦5、報告
ベッカー隊長と領都守備隊第1、500人隊の面々に捕虜とその他諸々を丸投げして俺たちは領都に向けて歩き始めた。領都までは30キロちょっと。歩いて正味5時間だ。
歩き始めて30分ほどで、輜重部隊とすれ違った。
今回出会った輜重部隊の隊長には面識はなかったが一応あいさつして、捕虜と武器と死体についてひとこと言っておいた。彼らなら間違いなく何とかしてくれると信じて俺たちは粛々と領都に向かって歩いて行った。
午後1時。それまで小休止を一度入れただけで俺たちは領都に帰り着いた。
昼食はまだだったが、任務達成を報告するため先に領軍本部に行くことにした。
駐屯地に帰りつき、領軍本部の建物に入ったら何も言わないうちから3階の本部長室に案内された。
「ライネッケ遊撃隊、ライネッケです」
『待っていた』
中からヘプナー伯爵直々の声があり、内側から扉が開かれた。
「ペラから報告があったと思いますが、敵軍約7000のうち、約2000を討ち取り、5000を捕虜としました」
「ご苦労」
「領都より30キロほどの位置で領都守備隊のベッカー隊長に引き継ぎました」
「領都より30キロ?」
「60キロ弱捕虜を移送しておきました。敵兵の死体と武装解除した武器などは戦闘現場に積んだままになっています。それと、今回の戦闘では敵兵には負傷者はいません。もしいたとすればブレスカあたりで負傷したものと思われます。以上です」
「うん? 負傷者がいないというのは?」
「直接戦闘に参加した敵兵はもれなく死亡しており、負傷者は出しておりません」
「そ、そういう意味だったのか。わたしもこれまで30年以上軍務を続けてきて初めての報告だったもので少々驚いてしまった。ハハ、ハハハハハ」
ヘプナー伯爵の乾いた笑いを聞いてしまった。
「とにかく、了解した」
「ブレスカには敵兵が残っていると思われますが、どうします?」
「今現在、ゲルタから2個500人隊が
「大丈夫でしょうか?」
「偵察して簡単に勝てそうにないならさらに増援を送るつもりが、1500名をしのげるほどの兵をブレスカに残していないだろう。
そういうことなので、きみたちは休養してくれたまえ」
「「はい」。何かあれば自宅にいますので連絡お願いします」
「了解した」
ヘプナー伯爵への報告を終えた俺たちは、駐屯地を出てその足で例の軽食屋に向かった。
自分たちへのご褒美ってやつだ。
店に入ったところ今日の客の入りは6割くらいでいつもより空いていて、5人そろって席に着くことができた。
いつもそろって席に着いているんだがこれもそうとう奇妙なことだ。気にしたら負けなので気にしない気にしない。
ここは軽食屋なのでメニューには軽食もある。
俺は隣りのテーブルの女性が食べていた丸パンに具を挟んだサンドイッチをメニューで探したところ具はハムとチーズと葉野菜だったのでそれを注文した。
残りの4人も同じものを頼んだ。
飲み物もみんな同じ銘柄の紅茶だった。みんな考えるのを放棄したのか?
サンドイッチは平皿に2つのっかっていて、付け合わせにキュウリの漬物と揚げたイモが付いていた。
「「いただきます」」
周りの目を気にせず『いただきます』で食べ始めた。ここのところ、周りの目を本当に気にしなくなったような気がする。ウーマしかりリンガレングしかり。
しかし、そのおかげで自由度が大きく改善されたのも確かだ。
「このパン、おいしい。
でも、エドが作る具を挟んだパンの方がおいしいかな?」
「同じくらいおいしいです」
「どっちもおいしいよ」
エリカは優しいなー。最初のころツンツンしていたエリカがウソのようだ。
「エド、わたしの顔見て笑わないでよね」
「笑ったわけじゃなくって、ほほ笑んだんだよ」
「ほほ笑むって、何かおかしなこと考えてたんじゃない?」
「いや全然。いつもエリカは美人だなーって思ったら自然とほほ笑みが漏れた。みたいな?」
「もういいわよ」
「本当に二人は仲がいいですね」
「悪くはないけれど、それだけよ」
「はい、はい。分かりました」
「そういえば、ヘプナー伯爵に休んでくれと言われたけれどいつまで休んでいいのかな?」
「呼び出しがあるまで休んでいいんじゃない?
部隊の方はエドの父さんに任せておけば大丈夫だし」
「そういえばお父さんに帰ってきたこと知らせてなかった」
「マスター、店を出たらわたしが連絡してきます」
「ペラ、そこまでしなくていいよ。
俺たちが敵軍を無力化したことは伝わっているはずだから」
「了解しました」
「ねえ、エド。エドってよく難しい言葉を使うでしょ? どこで勉強したってわけじゃないわよね?」
「父さんの
「薫陶って何?」
「いい影響を受けるってこと」
「そうなんだ。ひとつ賢くなったわ」
「父さんはわたしにはそんな難しい言葉を教えてくれなかったのに、ズルい」
適当に父さんの名まえを使ったのが悪かったか?
ごまかすか。
「うちにある本の中で分からない言葉を父さんから教わっただけだ。ドーラはうちにある本って難しい本は読んでないだろ?」
「うん」
「その差だよ。その差」
ドーラは納得したようなしないような顔をしていたがそれ以上何も言わなかった。
サンドイッチを食べ終わった俺たちは、デザートを当然のように頼み、お土産も当然のように頼んで店を出た。今回のお土産は桃のタルトだった。
倉庫に戻り、ウーマをキューブから出して乗り込んだ。昨日、一昨日と風呂に入っていなかったので装備を解いた後は、女性陣から入浴タイムとなった。
彼女たちの入浴中、ペラはメンテナンスボックスに入ると言って寝室に行ったので、俺はソファーに一人座ってボーっとして考え事をした。
今回5000人もの捕虜を得てしまったのだが、収容はどうするのだろうか? 俺が心配することではないのだが、気がかりではある。捕虜の尋問が終われば捕虜の有償での引き渡しがあるはずだが、交渉はどうするのだろう?
まさかフリシア本国に行くのだろうか? というか、ヨーネフリッツの王都あたりにいるはずの出先では身代金を払えないだろうからフリシアに行かざるを得ないような気がする。となると捕虜の受け渡しは何カ月も先になることになる。
その間、ただ飯を食わせるわけにはいかないので何か作業でもさせるのだろうか?
身代金を払えない連中は見合った労働をさせられるのだろう。ヨルマン領は慢性的人手不足だからちょうどいい。
身代金の払えない連中は相対的に若い兵隊だろうから使いでがある。そう考えると戦争はもうかる商売なのかも?
おっと、危ないことを考えてしまった。
女子たちがさっぱりして風呂から上がったので今度は俺の番だ。
湯舟に浸かってリフレッシュ!
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