第207話 カールライネッケ14。ライネッケ遊撃隊
カールが引率した派遣隊だが、カールの予想通りゲルタ守備隊に吸収され、カールと副官のヨゼフは派遣隊の任を解かれ領都への帰還を命じられた。
「このまま解散してロジナ村に帰れると思っていたんだが、また何かあるのかな?」
「よくやった。とか言われて報奨金とかもらえるんじゃないですか?」
「それだったらありがたいが、それはまずないんじゃないか? 大したことしたわけじゃないんだし」
「そうですか?」
「いちおう敵の騎馬隊はたおしたが、それだけだし、移動中100人近い脱走者を出してるし」
「そう言われてみれば、そうかも?」
「だろ?」
二人はこれまでの部下たちに見送られ、連れだってゲルタから領都ブルゲンオイストに向かい、当日中に領軍本部に出頭した。そして領軍本部長のヘプナー伯爵に帰還の報告を行なった。
「カール。ご苦労だった」
「はい」
「本来なら今回の仕事で務めを果たしてくれたということで、きみの村に帰ってもらうところだったのだが、しばらく頼まれ仕事を引き受けてくれないか? なに今回の仕事は領都での仕事だし危険なものでもない」
「はあ。どういった仕事でしょうか?」
「きみも知っているだろ、ゲルタで敵軍を文字通り皆殺しにしてしまった傭兵団のことは」
「もちろんです」
「あの連中をヨルマン領に取り込まなければならないということは理解できるだろ?」
「もちろん理解できます」
「それでだ。彼らに爵位を与えることになったのだが、それだけでは首輪としては長すぎるので、首輪を短くするため彼らに領都での仕事を与えることにしたんだ」
「仕事と言いますと?」
「募兵から新しく500人隊をこの駐屯地で作ることは前々から決まっていたことなんだが、彼らをその新編部隊の部隊長と幹部ということにして部隊の錬成を任せることにした」
「彼らは素人ですからさすがにそれは無茶ではありませんか?」
「そこは重々承知している。訓練部隊なので部隊に100人隊長は置かないが、20人隊長はちゃんとした者を定数配置する」
「それでも厳しいのでは?」
「きみの言う通りだ。そこで最初の話に戻るわけだが、きみときみの副官は期間限定で彼らのサポート役、教育係を務めてもらいたい」
「……」
「何か?」
「あのう伯爵、その傭兵団の団長というのはエドモンド・ライネッケですよね?」
「その通りだ。きみと同じ姓というのは奇遇ではあるな」
「伯爵、そのエドモンド・ライネッケはわたしの実の息子なんですが」
「なにー!」
「4男なんです」
「本当なのか? というか本当なんだろうが、それは驚いたな」
「もしかして、伯爵がそのことをご存じないということはエドもこのことを知らないということですよね」
「教育係を付けるとは言って同姓だとは言ったが、きみの下の名まえは教えていないからそうだろうな。
何であれよかったじゃないか。息子を教育できて。
3カ月かけて基礎さえ教え込めばいいんだから簡単だろう。しっかりやってくれたまえ」
「は、はい」
「もちろんきみの俸給は500人隊、隊長だし、きみの副官も今まで通りの俸給だ」
「は、はい」
「部隊の発足は3日後だ。隊舎の用意は済んでいるから、それまでそこでゆっくりしておいてくれ」
「は、はい」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
衣装を注文して3日目の午後。
みんな揃って仕立て屋に衣装を取りに行った。
その場で着てみたところ、問題はなかった。
「エドもちゃんとした格好したら、それなりに見えるのね」
姿見で見た俺の格好は、濃い灰色の上着に白いシャツ、ズボンも上着と同じ色で、靴はピカピカのエナメル靴。
確かにカッコいいのだが、顔がいかんせん15、6歳なので服に着せられた感がある。
そういうエリカは赤いドレス。
ケイちゃんは青っぽいドレス。
ドーラは黄色いドレス。ドーラを真ん中に挟めば信号機だ。
3人とも出るところはそれほど出ていない。特にドーラはオコチャマ体型なのでドレスに着せられている感があるが、それはそれでかわいいものだ。
ペラは紺色の上着に白いシャツ。下は白のパンツ。こっちはアレ系でかなり似合っている。
前世なら記念写真、この世界だと記念ポートレートなんだろうが、絵のモデルで時間を取られたくはない。
礼服から普段着に着替え、店長以下が頭を下げる中、俺たちは木箱に入った衣装を持って店を出た。大通りに出て歩きながら荷物をキューブにしまっていった。
「これならいつ叙爵式があっても間違いないわね」
「そうだな」
「後は、部隊の訓練よね」
「うん」
「楽しみだわー。そういえば部隊の訓練の時わたしたちは何を着ればいいんだろ?」
「いつも通り、防具を身に着けて武器を下げておけばいいんじゃないか?」
「それでいいんだ」
「だろ」
「ねえ、エド。わたしの武器って杖なんだけど、あれ持ってみんなの前で立っているのかな?」
「そうだな。それだとちょっと変かもしれない。俺が以前使ってた剣があるから貸してやるよ。それを剣帯に吊って下げておけばいい」
「うん。分かった」
そして部隊発足当日。
8時から始業ということだったので6時には朝食を終え、後片付けのあと装備を整え6時半に倉庫を出て駐屯地に向かった。
駐屯地に入り、門衛にあいさつしたら、門衛の一人が俺たちを兵舎に案内してくれた。
「ここがライネッケ遊撃隊の隊舎になります」
隊舎に入っていき廊下を少し歩いたところが隊長室という名の俺たち5人の部屋でその隣が3カ月限定の歴戦の教育係の部屋ということだった。
そこまで案内してくれた衛兵はそこで帰っていった。
隊長室に入ると奥の窓際に大き目の机が置かれ、その前に机が2つずつ4つ向き合って並べられていた。その他に、入り口のそばにクローゼット風の荷物入れがあった。大きな荷物をこの中に入れるのだろうが、大抵の荷物はキューブに入れるので荷物入れを使うことは限定的だと思う。
「ここがわたしたちの新しい仕事部屋かー」
「机を与えられましたが、いったい何をするのでしょう?」
「きみたちは俺の副官なんだからそれなりに書類仕事があるんじゃないか?」
「うん。そうなんだろうけど、やったことないからどうなんだろう?」
「そのために教育係がいるんじゃないか?
荷物を置いたら、教育係の人にあいさつに行こうぜ」
「そうね。だけど、教育係の人ってライネッケって名字なんでしょ。ライネッケってかなり珍しい名字と思っていたけど、すごい奇遇よね。もしかしてエドの親戚じゃない?」
「うちの父さんの親戚に軍人っていなかったと思うんだけどなー。
ドーラは聞いたことあるか?」
「いないと思う」
「だよな」
とかなんとか言いながら俺以外の4人が机を決め、リュックを各自の椅子の上に置いた。
席はこんな感じ。
ケイちゃん ドーラ
俺
エリカ ペラ
荷物を置いた俺たちは、ぞろぞろと部屋を出て隣の部屋の扉の前に立ち中に向かって、
「部隊長のライネッケです」と、声をかけたら中から『どうぞ』と声が聞こえた。
聞いたことあるようなないような声だった。
扉を開けたら、
「待ってたぞー」
父さんと、クリスのお父さんが立っていた。
「父さん!」ドーラも当たり前だが驚いていた。
そりゃ、ライネッケだわ。
「教育係って父さんだったのか!」
「俺もそう言われた時は驚いたんだが、断れなかった。期間は3カ月しかないからしっかりやって行こう。
そういえばこの前の水薬。使うことはあまりないようにしたいが、ありがとうな」
「うん」
「しかし、貴族にはなると思ったが、部隊長とはな。傭兵団とかダンジョンワーカーはいいのか?」
「何となく断り切れなかったし、新しいことをやってもいいかなって」
「あまり短期間で仕事を変えるのは本来ならマズいことだがお前の場合、仕事を極めている以上何も言えないものな」
「うん。
父さんはここに住んでいるの?」
「一応な。というか、お前たちはどこに住んでるんだ?」
「家を借りたんだ」
「そうか」
「父さん、一度遊びに来るといいよ。すごいから」
「すごい? そんなお屋敷を借りたのか?」
「借りたのはタダの倉庫なんだけど、中がすごいんだ」
「改造したのか?」
「そんなところ」
「じゃあそのうちお邪魔しよう」
「兵隊たちは8時の鐘が鳴ったら隊舎の前に集合するよう言ってあるから、そこで新隊長として隊員にあいさつだな」
「分かった」
「その後、領軍本部に行って本部長に着任あいさつしないとな。その時はエドとハウゼン副隊長と俺の3人でいいだろう」
「了解」
[あとがき]
楚漢戦争での項羽のごとく、全戦全勝しつつも追い詰められていく。ってわけではないので安心してください。
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