第206話 昼食


 仕立て屋を出たらもう昼だった。

「さーて、昼はどこで食べようか?」

「何か変わったものが食べたいわよね」

「変わったものと言っても、ここはヨルマン領なんだし海に面しているわけでもないから変わったものなんかないんじゃないか?」

「そうよねー。

 そう考えると海の近くがいいわよね」

「そうかもしれないけれど、もう少ししたらここの駐屯地の人になるんだからちょっと無理なんじゃないか?」

「そうなんだけどね」


 そんなことを言いながら大通りを歩いていたら、食堂があったので中に入った。

 昼の時間だったが、席はそれなりに空いていたので5人でまとまって席が取れた。

 席に着いたところで店の人がやってきたので5人分の定食と簡単なつまみ、それに薄めたブドウ酒を人数分頼んだ。


 料理と飲み物がやってきたところで。

「俺たちみんなそれっぽくなるみたいだけど、それを祝って」

「「かんぱーい!」」

 エリカには気の毒だったが、定食は変わり映えもしなかったし、頼んだつまみも代り映えはしなかった。



「そういえば、俺が貴族になるって父さんが言ってた時、俺は4男だから新しい家を立てるって言ってただろ?」

「エドのお父さんそう言ってたわよね。やっぱりそうなんじゃない」

「俺はそうなんだろうけど、ドーラも今度騎士爵になるわけだから、ドーラも新しい家を立てるんだよな」

「そうなるわよね」

「えっ! わたし、エドのところにいちゃだめなの?」

「そういうことじゃないけれど、いずれドーラが誰かと結婚して子どもができたらドーラの子どもがそのうち騎士爵を継ぐことになるってことだよ」

「わたし結婚して子ども作るの?」

「それはドーラ次第だけど、普通はそうなんじゃないか?」

「そうなの」

「そうだと思うぞ」

「エリカも、ケイちゃんもそれは同じだよな?」

「そういえばそうね」

「そうですね」


「ペラも爵位をもらうから、ペラも名字くらいはあった方がいいんじゃないか?」

「そうなんですか?」

「そりゃそうだろ?」

「分かりました」

「こんなものは何を付けてもいいんだからペラの希望ってあるか?」

「はい。でしたらセラフィムで」

「ペラ・セラフィム。なかなか語呂もいいし。いいんじゃないか」

「カッコいいわね」

「いいですね」

「ペラさん、いいなー」


「ドーラはライネッケって嫌なのか?」

「そうじゃないけど、カッコよくはないじゃない」

「そうかー? 俺は十分カッコいいと思うけどなー。エドモンド・ライネッケ、ドーラ・ライネッケ。どっちも語呂もいいし、カッコいいじゃないか」

「そうかなー」

「そうだと思えば、そう思えてくる。そういうもんだ」

「分かったー」

 語尾が下がっていたから納得はしていないようだ。


「それはそうと、軍隊に休みってあるのかな?」

「作戦中はないと思うけど、駐屯地にいるなら休みくらいあるだろ」

「そういうことは領軍本部でもらった小冊子に載っているんじゃないですか?」

「そうだな。ちょっと見てみるか」

 リュックに入れるふりをしてキューブに入れていた小冊子を取り出してみたところ。

「うーん。5日勤務して1日休養日があるようだ。おっ。当番以外なら年末年始合わせて5日も休めるみたいだ」

「意外と休みが多いのね」

「そうみたいだな」

 前世の週休2日には及ばないし、有給休暇について何も書いていないけれど、結構休める。


「朝、夕はウーマの中でいいけど昼食は駐屯地じゃない? 駐屯地の食事っておいしいのかな?」

「わたしたちは一応将校ですから将校食堂があるかもしれませんよ」

「俺たちは将校かもしれないけれど、兵隊たちと同じものを食べないと信頼関係は生まれないんじゃないか? 例えおいしくなくても兵隊たちと一緒の食事をしないか? 朝夕はちゃんとしたものが食べられるんだし」

「エド。どうしちゃったの? なんだかすごく立派なこと言ってるんだけど」

「ちょっと思いついただけだけどな」

 これは、生前読んだ本だか、戦争映画だか、そういった中の知識の受け売りだが、そういった気遣いは兵隊たちも気づくはずだ。無駄ではないと思う。


「昼食の内容だけど、ほとんど俺たちの最初のころと同じと思っておけば間違いないよ。それでもスープくらいはあるだろうから、上々じゃないか? それに、もし思っていた以上だったら、うれしいだろ?」

「考え方次第というのは分かるけど」

「そうだと思えば、そう思えてくる。そういうもんだ」


 世の中なんでも気持ち次第。前向きに生きて行かないとな。俺みたいに終着駅を通過したら崖が待ってることが分かっていても前向きに生きてる人間がいるんだから。

 おっと、愚痴を言っても始まらない。前向き、前向き。


「それで、部隊の訓練はどんな形にする?」

「100人隊長はいないけど20人隊長はベテランということだから、基本は任せておけば大丈夫だろう。ちゃんと命令を聞けるようになったら少しずつ色を出していこうと思ってる」

「色?」

「部隊の特徴かな」

「へー。例えば?」

「俺は軍隊で一番大切なのは機動いどう力だと思うんだよな。

 敵より早く動ければ、いい位置を占められるだろ?」

「確かに。敵の思わぬところに移動してそこから攻撃すれば敵は混乱しそうだものね」

「うん。

 最終的には俺たちにはリンガレングもいるしペラもいるから危なくなることはまずないと思うけど、それでも足が速ければ逃げられるし」

「つまりは足を鍛えるって事?」

「うん」


「そういえばエド。エドが隊長ということは、もしかして部隊全員にレメンゲン効果が生れるかもしれません」

「それは、ありえるー」

「確かに。そうなればあっという間にすごい部隊になってしまうけど、良いんだろうか?」

「良いんじゃない。弱いより強い方がいいに決まっているんだし。

 でも、そうなっちゃうと、兵隊一人一人の武器が丈夫じゃないとすぐにダメになっちゃうんじゃない?」

「確かに。

 壊れにくい武器を持たせないといけないわけか。となるとちょっと難しくなる」

「でも、隊長以外はみんな素人だって言うし、全員メイスとか、棒を持たせれば」

「それもそうか。戦場だと矢も飛んでくるから盾とメイスでそろえてみてもいいし。

 しかし、そういった武器の裁量って隊長にあるのかな?」

「相手がベテランなら武器を変えろとは言いにくいし相手も嫌がるでしょうけど、素人なら何でもいいんじゃない。それに武器は支給なんでしょうし」

「一応俺たちは領軍本部長の直轄部隊だから融通は利きそうだしな」

「実績を出せば自ずと扱いも良くなるはずよ」

「それもそうだな」

 前世での俺の部署はちゃんとパフォーマンスを上げていたから、上からの覚えもめでたかった。少々お高い伝票を上に持っていってもちゃんとハンコを押してもらえたし。根っからのこの世界の住人のエリカがそう言う以上、世界が変わっても人間の世の中、そんなに変わりはしないってことだ。

 つまり、俺の生前の手法が通用するってことだ。


 それはそうと、この成り行き****が青き夜明けの神ミスル・シャフーの使徒としての俺の役割にどう関係してくるのか? まさか俺が俺の部隊を使っていきなりクーデターってことはないよな?



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