第205話 傭兵ギルド。仕立て屋


 領軍本部を辞して、俺たちは傭兵ギルドに向かった。あまり意味はないかもしれないが傭兵団の実績になるという支払い証明書をギルドに提出するためだ。


 俺たちは傭兵ギルドにズカズカ入って行き、カウンターまで行ってギルド長のくせに受付までやってるスタインさんを呼んだ。

「なんだ、お前たちか。

 今日は何の用だ?」

「領軍本部で支払い証明書をもらったんで持ってきました」

 そう言ってさっきもらった証明書をスタインさんに見せた。


「フリッツ金貨100枚。確かに領軍本部印が押されている。

 お前たち一体何やったんだ?」

「ゲルタに行って少し暴れてきました」

「ゲルタで押し寄せる敵軍を瞬く間に皆殺しにした傭兵団って、まさかお前たちのことだったのか!?」

「いちおう」

「しかし、それなら金貨100枚だと安くないか?」

「それはゲルタ守備隊からのもので、別途領主さまからいただきました」

「ただ者ではないことは分かってはいたが、尋常じゃないな。

 傭兵団にしておくのはもったいない」

「そんな感じなので、今度領軍の1部隊を任されちゃいました」

「任されちゃったのか?」

「任されちゃいました」

「ということは、領軍の部隊長なのか!?」

「500人隊のようです」

「それはすごいな。領主さまもお前たちを手なずけたいだろうから当然かもしれんが、とりあえずおめでとう」

「ありがとうございます」

「この書類は預かってお前たちの基本料金を算定しておくが、傭兵団の仕事はもうできそうにないな?」

「そうかもしれません」

「それはそれで仕方がないことだ。それより、領軍でもしっかりやればいい」

「ありがとうございます」


 俺たちはスタインさんに頭を下げて傭兵ギルドを後にした。


 通りに出て、

「いったん、家に戻ろうか?」

「そうね。いろいろあったからちょっと疲れたみたいだし」

「そうしましょう」



 倉庫のウーマに戻って、5人して食堂の席に着いて一服した。ペラが気を利かせてお茶を淹れてくれたので、例の店で土産として買ったアップルパイを小皿に載せてナイフとフォークも付けておいた。あと残りはナシのタルトだけになった。


「部隊を任されたけど、どうなるかな?」

「エド。それより、叙爵式の方が問題じゃない? わたしたち誰もちゃんとした服持ってないわよ」

「あっ! すっかり忘れてた。用意した方がいいよな?」

「それはそうでしょ。叙爵式となると今領都にいる国王陛下の前に出るわけでしょうから」

「つまり、礼服のようなものを作らなきゃいけない?」

「じゃない?」

「5人分だし、早いとこ仕立て屋に行かないと」

「これ食べ終わったらみんなで行きましょ」

「そうですね」

「ねえ、わたしも?」

「当たり前だろ。ドーラだって騎士になるんだから」

「えっ?」

「聞いてなかったのか?」

「アノ時、なんだかボーっとしてて意味が分からなかったんだもの」

「それは仕方がないけど、とにかくドーラは騎士爵になるんだ」

「騎士爵ってちょっと前までの父さんだよね」

「うん」

「わたしが?」

「ドーラが」

「なっちゃうの?」

「なっちゃうんだ」



 アップルパイを食べ終えてお茶も飲み終え後片付けを済ませた俺たちは、ウーマから降りて倉庫を出た。それから仕立て屋を探すべくとりあえず商店街に向かった。


 いつものように俺だけはリュックを背負っている。リュックの中には自動地図を入れているので、知らないところを歩けばその分地図が埋まる。それが俺の一つの楽しみになっている。

 武器を持っているのは俺とエリカだけで、ケイちゃんはどうせペラもいるからと言って短剣を腰に下げてはいない。ドーラとペラはいつも手ぶらだ。


 いつものようにケイちゃんが仕立て屋の場所を通りを歩く人に聞いてくれたので、ケイちゃんを先頭にして俺たちは仕立て屋に向かった。


 ケイちゃんに連れられて行った先の仕立て屋は、商店街ではなく大通りに面した店で間口も広い大きな店だった。店構えからして高級そうなのだが、そもそも仕立てるのは礼服なので値段は目をつむるしかない。


 店の中にぞろぞろ入って行ったら男の店員がすぐにやってきた。

「当店は仕立て専門ですので、古着は扱っておりません」

 俺たち、というか俺のいでたちがいつもながらの胴着であることで古着を買いに来たそこらの一般人と誤認したのだろう。

 なので俺は優しく来意を伝えることにした。


「悪いけど、わたしたち礼服を仕立てに来たの。それも受爵用の礼服」

 俺が来意を伝える前に顎を少し上げたエリカが店員に答えてしまった。


「申し訳ございません」

 店員は平謝りだ。

「それじゃあ、さっそくだけど寸法を測ってちょうだい」

「かしこまりました。お嬢さまおひとりですよね?」

「わたしたちと言ったら5人に決まってるでしょ!」

 エリカは最初の店員の対応にすごく腹を立てているようだ。

「エリカ、まあいいじゃないか。俺の格好が格好なんだし、勘違いするのも仕方ないよ」

「だって」

 そうこうしていたら、別の店員がやってきた。

「申し訳ございません。当店の店長でございます。

 それで、どういったご用命でしょうか?」

「受爵するので、式典用の礼服をこの5人全員分作って欲しいんだ」

 俺が代表して答えておいた。

「それはおめでとうございます。

 お客さまが受爵なさるということでよろしいですか?」

「俺も受爵するけど、残りの4人もみんな受爵するんだけど」

「そ、そうでございましたか。驚きました。おめでとうございます。

 さっそく採寸させていただきますのでこちらにお越しください。


 店の奥の個室に連れられてそこで採寸してくれた。個室は3つしかなかったので、俺とエリカとケイちゃんが先で、その次にドーラとペラが採寸した。

 採寸そのものはすぐに終わり、そのあとは、礼服の形選びだ。

 見本がマネキンに着せてあったので俺は適当に選んだが、エリカたちはああでもないこうでもないと結構時間をかけて選んでいた。


 そして生地選びとなった。生地そのものは季節が季節なので羊毛だ。

 俺は面倒だったので勧められるまま。

 エリカたちは布を首の近くに当てて見て色見していた。女子なんだからいろいろ考えるところもあるのだろう。

 もちろん礼服だけでなく、下に着るシャツも必要だし靴や靴下も揃えなければいけないのでそういった物も結局仕立てることになる。

 おれは店員が持ってきたものを適当に選んでいった。

 エリカたちもだいぶ疲れてきたのかその辺りは適当のようだった。

 最後に装飾品だ。

 俺はそういった物は邪魔なので要らないと言って断った。エリカがやはりあった方がいいんじゃない? と、言ってくれたのだが、俺には謎の黒リングもあれば、リンガレングの主のしるしの銀リングもあるので、要らないと断った。

「俺は要らないけれど、女子には必要なものなんだからエリカたちは遠慮しないでくれよ」

「うん。分かってる」


 ……。


 結局、エリカとケイちゃんは金のネックレスを選び、ドーラは遠慮したらしく銀のネックレス。ペラは何も選ばなかった。


「これからのお付き合いもありますのでお安くさせていただきます」

 と、店長は頭を下げながらそういったのだが、防御力はほぼゼロのくせに結構お高い値段でした。経費と思うしかない。


 装飾品を除いて代金は金貨35枚。装飾品についてはすごく高こうございました。

 装飾品についてはエリカとケイちゃんは自分で払うと言っていたが、俺が押しとどめてチームの財布から支払った。装飾品だけは持ち帰った。


 でき上りは3日後。超特急で仕上げてくれるそうだ。届けてくれるという話だったが、それは断っておいた。俺たちのお屋敷は倉庫だし。

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