第204話 領軍本部
領主城内の本棟の待合室でお茶を飲みクッキーを食べて10分ほどそうしていたら、先ほどこの部屋まで俺たちを案内してくれたおじさんがやってきて「お待たせしました。こちらにどうぞ」と、言って俺たちをさらに奥の方に案内してくれた。
案内された先の部屋の奥には大きな机が置いてあり、その先に初老のおじさんが座っていた。
おじさんは、俺たちが入ってきたところで椅子から立ち上がった。どう見てもこのおじさんが辺境伯さまだ。年のころは40代後半くらい。髪の毛はまだふさふさしている。
俺たちを案内してくれたおじさんは向かいの辺境伯さま?に「傭兵団『5人』の皆さまをお連れしました」と、言って部屋から出て行った。
「わたしが領主のヨルマンだ。
きみたちが傭兵団『5人』か。報告は受けていたのだが随分若い。
何はともあれ、ゲルタを救ってくれてありがとう」
俺は何をどう言っていいのか分からなかったので黙っていた。エリカたちは最初から俺に任せているようで俺の方を見ている。
「それで、きみたちの働きに報奨金を出させていただく。受け取ってくれたまえ」
先ほど部屋から出て行ったおじさんがワゴン押して部屋に入ってきた。
ワゴンの上には布袋が一つ。
「フリッツ金貨500枚だ。少々重いがきみたちなら問題ないだろう」
「ありがとうございます。いただきます。
ペラ。頼む」
「はい」
ペラがその袋を指で摘まみ上げて、そのまま持ち上げその後両手で抱えた。ちょっとしたパフォーマンスだ。
辺境伯さまは案の定驚いたような顔をしてペラの顔と手を見ていた。
おじさんの方は荷物が無くなったところでワゴンと一緒に部屋から出て行っている。
「それでだ。今回のきみたちの働きのおかげで、領軍は兵を失うこともなかった。これは金で買えるような話ではない。そういうことなので団長のライネッケくんには子爵位を、副団長のハウゼンくんには男爵位を、残りの3名には騎士爵位を与えようと思う。叙爵の式典は少し先になるがよろしく頼む」
「ありがとうございます」「「ありがとうございます」」
俺が礼を言った後、エリカとケイちゃんは頭を下げて礼を言った。ドーラはなぜか突っ立ったままだったが、慌てて「ありがとうございます」と頭を下げた。
俺だけかと思っていたのだが大盤振る舞いだ。ちょっと怖いぞ。
「それで、きみたちに頼みがあるのだか聞いてくれるかね?」
「はい。何でしょうか?」
褒美の話からの偉い人からの頼みなどあまり聞きたくはなかったが、こう言わざるを得ないよな。
「きみたち5人に領軍の1部隊をみてもらいたいのだ」
「みる。とは?」
「500人隊の隊長以下の幹部になってもらい、部隊を鍛えてもらいたい」
「了解しました」
この雰囲気で断れる人間はまずいないだろなー。
「ありがとう。よろしく頼む。その件については領軍本部で本部長のヘプナー伯爵に詳しい話を聞いてくれたまえ」
「はい」
「以上だ。返す返すもゲルタを救ってくれてありがとう」
「それでは失礼します」「「失礼します」」
部屋を出たところで先ほどのおじさんが待っていてくれ、俺たちを玄関まで案内してくれた。
そして、領軍本部の建物までの道筋を教えてもらった。
領軍本部は城の裏手、例の練兵場の中にあり、3階建ての建物でそれほど大きなものではなかった。事務仕事が主なのだろうからそんなものなのだろう。
契約書を見せれば契約金が貰えるとゲルタの守備隊長さんが契約書をわざわざ後付けで作ってくれたので、それも済ませてしまおう。
建物の中に入ったら正面に受付ががあり、受付の先は大勢の人が机に向かって事務作業をしていた。
「済みません。契約書を持ってきたんですが」
カウンターの向こうで作業していた人の中の一人が立ち上がってこっちに来てくれたので、まずはゲルタの守備隊長さんからもらった契約書を見せた。
「完了した契約ですね。しばらくお待ちください」
そう言って窓口の兵隊さんは机に戻って何やら作業をして、奥の部屋に一度入って行きしばらくして布袋と紙ペラを1枚を持って帰ってきた。
「ゲルタ守備隊からの書類と確認が取れました。
契約金のフリッツ金貨100枚です。それとこの紙は支払い証明書になります」
支払い証明書を見ると、フリッツ金貨100枚を傭兵団『5人』に支払い済み。ときれいな字で書かれたうえにヨルマン領軍本部というハンコが押されていた。
「ありがとうございます。
もう一つ用件があるんですが?」
「何でしょう?」
「先ほど領主さまから部隊を任せるからヘプナー伯爵に詳しいことを聞いてくれと言われたのですが、ヘプナー伯爵にお取次ぎ願えますか?」
「あっ! そういえば皆さんは傭兵団『5人』の方でしたね。失礼しました」
いちおう話は通っていたようで助かった。
係の人がカウンターからこちら側に出てきて「こちらです」と言って俺たちを3階の奥の部屋の前まで案内してくれた。
「傭兵団『5人』のみなさんがおいでになりました」
『入ってもらってくれ』
係の人が「どうぞ」と、言って扉を開けてくれたので俺たちは部屋の中に入っていった。
部屋の中には奥の方に大きな机が1つ、扉のすぐ先に小さめの机がひとつ。そして部屋の真ん中には応接セットが置かれていた。
大きな机には白髭の初老のおじさん、手前の小さな机には40歳くらいの男がいて二人とも俺たちを立って迎えてくれた。
「わたしがヘプナーだ。よろしく頼む」
「傭兵団『5人』の団長ライネッケです」
俺だけの自己紹介で十分と思い、後4人は紹介しなかった。
「きみたち傭兵団『5人』のことは聞いてはいたが、団名がユニークなことより、驚くほど若いな。
とにかく、ゲルタを救ってくれてありがとう。もしゲルタが抜かれていたら後がなかっただけにありがたかった」
やはりかなり厳しかったのか。確かに敵は3万近い兵隊だったし、あんなのがゲルタを越えて領内に侵入したら、残った領軍で押し留めることは確かに厳しいだろう。
「そこにかけてくれ。と言っても席が足りんな」
「お持ちします」そう言っておそらくヘプナー伯爵の秘書ないし副官の男の人が部屋を出ていき、椅子を持った数人の兵隊と一緒に戻ってきた。
俺とエリカとケイちゃんがソファーに座り、ドーラとペラは今運ばれてきた椅子に座った。
ヘプナー伯爵は俺の正面に座り、副官?は自分の机の席に戻った。
「辺境伯閣下から聞いての通り、きみたちに500人隊を任せたいのだ。
ライネッケくんが隊長でハウゼンくんが副隊長、残りの3人は全員副官
ただ、今のところきみたちの部隊として考えている500人隊は募兵で集めた全くの素人がほとんどだから訓練していく必要がある。きみたちも軍は初めての経験だからちょうどいいだろう。
とはいえ、上から下まで完全に素人では話にならないから、初期訓練期間である3カ月程度ライネッケくんには信頼できる歴戦の教育係を付けるつもりだ。それと、部隊に100人隊長はいないがベテランの20人隊長を定数25名配置するから安心してくれ」
「はい」
「今考えているその教育係だが、きみと同姓だ。仲良くしてくれたまえ」
「はい」
ライネッケという姓はそうとう珍しいと思っていたが、相当奇遇だ。珍しいの2乗だ。
「それで、きみの部隊だがライネッケ遊撃隊というわたしの直轄部隊となる。部隊駐屯地はここだ。部隊員全員が揃うのが5日後になる予定だから、前日までに駐屯地入りしてほしい」
「通いでもいいんですか?」
「なんだ、領都に家を持っていたのか。それなら当然通いでいい。
駐屯地での勤務時間は午前8時から午後5時だが、その辺はそこまで厳しくする必要はない。
それと500人隊の隊長の俸給は月額金貨10枚だ。副隊長が月額金貨7枚。副官の俸給は月額金貨5枚。決して多くはないがきみたちの場合は各爵位に応じた年金が別途支払われるからそこまで悪い金額ではないだろう」
……。
ヘプナー伯爵から説明を受けた後、副官の人から小冊子をもらった。中身は領軍の基本のようなものが書かれていた。
その後、連絡先を聞かれたので倉庫の場所を渡された紙に書いた。
日本のように町名+番地という表現ではなく、○◇通りの何番。という表記になる。俺なんかいつ聞いたのかも思い出せなかったのに、エリカもケイちゃんもちゃんと覚えていたようだ。
しかし、流されるまま500人隊なる部隊の隊長になってしまった。
エリカも何も言わないし、ケイちゃんも、ドーラまでも納得しているようなんだけど。これで本当にいいんだろうか?
とはいえ、俺は新しいことをすることに何となく意欲を感じてはいる。そのせいで何も言わず流されたのだと思う。おそらくエリカたちも俺と同じなのだろう。
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