第202話 領都へ。倉庫
ウーマの中で寛ぎながら俺の洗濯が終わるのを待っていたら、午後5時近くになってやっと終わった。
敵を退けたと言っても、非常事態中では継続中だろうし、日が完全に暮れてしまうと街の門が締まってしまうかもしれないので、俺たちはウーマから降りて速足でゲルタに戻っていった。
6時少し前にゲルタの西門に到着したところ門は開いたままだったのでそのまま門をくぐってその先の入り口から南市街の宿に戻った。
宿の受けつけで明日以降のキャンセルをしてその分の代金を返してもらった。ここでもキャンセル料はとられなかった。そういう文化なのだと思っておこう。
部屋に帰ることなくそのまま食堂に直行した俺たちは部屋の代金に含まれている定食に加えて、エールとつまみを注文して、エールがテーブルに揃ったところで祝勝会を始めた。
「それじゃあ、今日の勝利を祝って「かんぱーい!」」
「あと、エドとドーラちゃんのお父さんが無事帰ってきたことを祝って「かんぱーい!」」
さすがは副団長。気が利く。
機嫌よく飲み食いしていたら、珍しく客が数人入ってきた。
その連中は俺たちの席の隣りではないが近いところに座り、俺たちのように酒を頼んで酒盛りを始めた。
今日の俺たちは、洗濯が終わるまでウーマの中でいろいろ話をした関係であまり話すことが無くなっていたので、自然とその客たちの話し声に耳を傾けてしまった。
本人たちは今朝の戦いを直接見てはいなかったようだが、攻めてきた敵軍が文字通り全滅したことと、全滅した敵兵の死体が全て焼き払われていた話が中心だった。話の内容はほぼ正確だ。
どうも守備隊員の知人から聞いた話のようだったが、そのうちこの話に尾ひれがついて広がっていくのだろう。
どうせ尾ひれがつくのなら、ヨルマン領にとって役に立つ尾ひれがついた方がいいと思うが、具体的な尾ひれについては思い浮かばなかった。
翌朝。
宿で食事をとった俺たちは、一度部屋に戻って装備を整えてから宿を出て守備隊本部に向かった。
守備隊隊本部まえの衛兵に、派遣隊の隊長のカール・ライネッケに渡してくれるよう頼んで、赤と黄色のポーションが入った平べったい銅の宝箱を渡しておいた。
宝箱の中にはポーションの簡単な説明と俺の名まえを紙片に書いて入れておいた。
衛兵は「了解しました」と言って宝箱を抱えて一度本部の中に入って、それから手ぶらで戻ってきた。
どうしたのかと思ったら、先ほどの宝箱を抱えて別の兵隊が建物の中から出てきてそのまま歩いてどこかに行ってしまった。届けてくれたのだろう。これで一安心。
ゲルタでの用事がこれで終わったので、俺たちは徒歩で領都ブルゲンオイストに向かった。
途中の宿場町で昼食を取り、午後2時頃俺たちはブルゲンオイストの市街に到着した。この程度の距離なら馬車に頼らず自分の足で移動するのが確実だ。これもレメンゲン効果でいくら歩こうが疲れることも足が痛くなることもないからいえることだ。通常なら「ありがとう」と、言ってもいいことなのだが、あくまでレメンゲンとの契約の一部なので「ありがとう」は不要だ。
市街に入った俺たちはそのまま街道からつながる大通り歩いて行き、前回泊った宿に部屋取った。取った部屋は今回も6人部屋だ。部屋は一応2泊で取っている。
男一人に女4人。女のうち一人はペラでもう一人はドーラなので正確にはちょっと違うが、誰も部屋のことを何もいわない。ウーマの中では一緒の寝室なので今さらなのだろうが、恥じらいを忘れているのではないだろうか? もちろん俺にすればウェルカムだ。ただ、俺のことを男として全く意識していないというのが本当のところなのだろう。
別にいいもん。
それはそうと、俺は正常な男のつもりなのだが、そういった状況なら悶々として当然の年頃ハズなのに、ここのところそういった状況に陥っていない。夜の街に繰り出したいという衝動も全く起きていないことも不安材料ではある。
これはエキスの注入が利きすぎてテストステロンの働きが鈍っているからでは?
このまま行くと俺はオリンピックの女子競技に挑める資質を手に入れてしまうのでは?
オリンピックがこの世界にないからいいけれど。大丈夫なのだろうか?
部屋に入った俺たちはベッドの位置を決め、荷物を置いて身軽になり、まだ時間があったので領主城に行ってもよかったが代わりに倉庫を借りようと商業ギルドを探すことにした。
探すとは言っても、宿の1階の受け付けでケイちゃんが聞いたらすぐに分かった。
商業ギルドの場所を聞いてくれたケイちゃんを先頭に俺たちは大通りを歩いて行ったら、立派な建物が旧市街と新市街の分かれ目の壁の手前に建っていた。各地の商業ギルドに本店支店的なつながりがあるのか知らないが、さすがは領都の商業ギルド。サクラダの商業ギルドより確かに立派な建物だ。何回かこの前を通ったはずなのに建物には何も書かれていないうえ看板も出ていないので今までは全く気付かなかった。
領都商業ギルドの中は御多分にお漏れず磨かれた床石で作られた玄関ホールで、入り口の正面に受付があり、女性が3人座っていた。
受付まで行き用件を伝えたら、ここでも一番若そうに見える女性がピヨーって感じで走って行き、台帳を抱えた女性と一緒に戻ってきた。
「お待たせしました。倉庫をお探しとか?」
「そうなんです」
「それでは詳しいお話を伺いますからこちらにどうぞ」
台帳の女性に案内されてホールの奥の方にあった階段で2階に上がり、そこの一室に通された。
会議テーブルのようなテーブルに前後に椅子が5つずつ置かれていたので俺たちは俺を中心に片側に座り台帳の女性は俺の正面の席に座った。
「わたくし、当ギルドで不動産の賃貸を担当していますリストと申します」
「わたしたちは、サクラダダンジョンのダンジョンワーカーチーム『サクラダの星』の5人で、ここでは傭兵団『5人』の5人です」
やっぱり、傭兵団の名まえ変だぞ。
「それではまず、倉庫の大きさ、倉庫の前庭の広さなど、ご希望をうかがいましょう」
傭兵団の名まえについて突っ込まれなくてよかったぜ。
倉庫の大きさだが、短辺で10メートルもあればウーマは正規の大きさに成れる。
「間口でも奥行きでもどっちでもいいんですが、短い方の長さが10メートル以上の倉庫を探しています。倉庫の前の敷地はなくても構いません」
「了解しました。
それでは、場所的には?」
「領都市街ならどこでも構わないんですができれば商店街に近いとありがたいです」
「卸売りでもなさるのですか?」
「そういうわけじゃないんですけど」
「失礼しました」
「倉庫となるとそれほど物件はないのですが。……。
これなどいかかでしょうか。
建屋の間口が12メートル、奥行きが18メートルです」
「それはいいですね。
場所はどのあたりですか?」
「商店街まで歩いて20分ほどかかります。少し遠いですか?」
「そのくらいならだいじょうぶです。
みんなどう?」
「往復で40分なら大したことないし」
「大丈夫です」
「いいんじゃない」
「それではさっそくですが現地を見に行ってみますか?」
「はい。ぜひ」
俺たちの用途からして、建屋がボロで雨漏りしようが何しようがとにかく周囲から半ば見えなければいいので、チェックポイントはそこだけだ。倉庫なので明り取り以外の窓などないはずなので問題は何もないはず。
馬車を回して来るということで、部屋を出た俺たちが商業ギルドの前で待っていたら、大型の箱馬車がやってきた。そりゃ6人だものな。
3人3人で向かい合って座って10分ほどで目的地に着いた。ちなみに馬車内の席は、
リスト女史 ペラ ドーラ
ケイちゃん エリカ 俺
馬車が付いた先は倉庫街の一角で、似たような倉庫が並んでいた。
「この倉庫になります」
敷地の仕切りに塀などはなく4隅に太めの杭が打ち込まれているだけの簡単なものだった。
倉庫自体は、傷んでいる感じでもなかった。
倉庫の入り口は大きく左右に開く扉の横に通用口のようなものが横についていて、俺たちはそこから倉庫の中に入った。
倉庫の中は三和土の土間で結構しっかりしており、天井はなくそのまま屋根の裏側が見える。
窓はなく明り取りが壁の上の方に並んでいて、外から中をうかがうことはできそうにない。
カビ臭くもないし思った以上にいい物件だ。
「ここでいいんじゃないか?」
「うん。いいんじゃない」
「そうですね」
ドーラはよく分かっていないのか、何も言わなかった。
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