第201話 領主城2。久しぶりのウーマ2


 ゲルタ守備隊からの第2報が領主城に届けられた。

 今回は口頭による伝令ではなくゲルタ守備隊隊長からの正式な報告書である。

 戦いについての内容は第1報と同じだったが、付け加えてエドモンドたちの傭兵団のことと、カールの率いた王都派遣部隊の無事帰還について触れられていた。


 報告書を領軍本部で受け取ったヘプナー伯爵は傭兵団『5人』について調べるよう副官を傭兵ギルドにやった。そのあと、その報告書を持って辺境伯の執務室に急ぎ、辺境伯に報告書を手渡した。

 辺境伯は受け取った報告書をざっと読み、そしてもう一度読み直した。


「第1報は事実だったようだが、まだ信じられないな」

「とはいえ、これは正式な報告書ですから事実なのでしょう。

 しかも、派遣部隊の第1、500人隊も無事に帰還できたようですから、今日は実にめでたいことです」

「そうだな。第2、500人隊も無事に帰還したし、無駄に兵を失わずに済んだ。

 それはそうと、この傭兵団『5人』というのは?」

「いま傭兵ギルドに人をやって確認させています」

「いずれにせよ、その傭兵団の団長が感謝状を持って近いうちにこの城にやって来るようだから、褒賞を取らせるのは当然として、ヨルマンに完全に取り込むために爵位も与えなくてはな」

「爵位については国王が城にいらっしゃいますから簡単に授けられるでしょう」

「あの方にも少しぐらい役に立ってもらわないとな」

「爵位だけではいざという時連絡も取れませんから、この際領軍の一部隊、それも新人の一部隊を任せるのはどうでしょう」

「たしかに500人隊を1部隊つけても面白そうだ。隊長以下5人でどんな敵でも粉砕する以上、その500人隊がたとえ何の役にも立たなくとも問題ないわけだしな」

「はい。そういうことになります」


「傭兵団についての扱いはそれでいくとして、ヘプナーはこれから先の敵の動きをどう読む?」

「今回攻め寄せた敵軍の中身は今のところ分かりませんが、おそらくドネスコ、フリシアのヨーネフリッツ侵攻軍の精鋭でしょう。それが3万もの兵を一度に失った以上、敵の再侵攻はまずないと思います。わが方だけでなく、ヨーネフリッツ内の各領にも兵を出しづらくなるのではないでしょうか」

「兵隊を補充することはないのか?」

「失った兵を補うためヨーネフリッツ内で強制徴募するかもしれませんが、訓練されていない兵隊では行軍さえまともにできません。

 たとえドネスコ、フリシア両本国から増援があり再度わが方に向かって来たとしても、わが方には傭兵団『5人』もいるわけですし」

「そうだな。しっかり取り込もう。場合によってはわたしの娘を嫁にやってもいいしな」

「傭兵団の団長が女の場合は?」

「息子の嫁にと、言いたいところだが化け物のような隊員を部下に持つ傭兵団の団長となると息子も尻が引けるだろう。その時はまた手を考えればいいだろう」

「そうですな。

 ところで閣下。ヨーネフリッツ本土についてどうされます?」

「王都に敵が居座っているようではどのみちヨルマン本土との交易は今まで通りというわけにはいくまい。

 しかし、わが方の兵力では、王都の奪還は難しいだろう。その傭兵団とて都市を占領することはできないだろうしな。

 募兵を通じて兵を増やし、少しずつわが方の勢力を西に進めていくしかあるまい」

「途中の領主はどうします?」

わが方ヨルマンに従うならそれまで通り。従わぬなら敵とみなす」

「ということは?」

「わたしも腹をくくった。ヨーネフリッツ王家に何の力もない以上、陛下に国を譲ってもらおうと思っている。今回の傭兵団団長への叙爵が陛下の最後の公務になるだろう」

「ご決心されたようでなによりです。

 閣下、微力ですがお手伝いいたします」

「微力では困るがな。ヘプナー、頼んだぞ」

「はい」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺は湯舟でエキスを注入し、すっかりリフレッシュできた。

 お肌ツルツルで風呂から出たら、エリカたちはペラも含めて食堂のテーブルでお茶を飲んでいた。


 風呂から上がった俺を見てケイちゃんが俺のお茶も淹れてくれた。

「ありがとう」

「どういたしまして」

「それはそうと、お茶っ葉はキューブに全部入れてたからどうしたの?」

「食料庫の中に入ってたわよ。それもかなり目に付きやすいところだったわ」

「不思議ですよねー。以前見た時はなかったはずなのに」

「ここって、必要だと思ったものが知らぬ間に用意されてるよな」

「ホントに不思議ですよねー」

「ウーマが俺たちの会話を聞いてそういったことをしてくれているのか、これもレメンゲンのサービスなのか。どっちでもいいけど、ありがたいよな」

「そうですね」

「領都のあの店のお菓子が出てくればいいなー」

「ドーラ、さすがにそれは無理があるんじゃないか? 料理だって基本は食材しか出てこないわけだし」

「そうだった」



「ねえ、エド。今日の夕食はどうする?」

「明日は宿を引き払うけど、荷物もある程度部屋に残しているんだろうし、宿に何も言っていないから帰った方がいいんじゃないか?」

「それもそうね。ウーマの中が居心地良すぎてすっかり忘れてた」

「それはそうと洗濯は後何回くらい?」

「わたしたちの下着だけまとめて洗ったからこれ1回でお終い」

「じゃあ次の洗濯で俺の汚れ物を洗ったら帰ろうか」

「うん」「「はい」」


 洗濯機の音は風呂場から出てしまえばほとんど聞こえないので、様子を見に行かなくてはならないのだが、ドーラが見に行ってくれたらエリカたちの洗濯は乾燥まで終わっていたようでドーラがいろんなものを抱えて戻ってきて、3人で選り分け始めた。


 それを横目で見ているわけにもいかないので、後ろ髪を引かれながら自分の洗濯をすることにした。

「それじゃあ洗濯してくる」

 洗濯機の中に汚れ物を入れて洗剤を定量入れ、フタをしたら洗濯機が動き始めた。

 だいたい乾燥まで含めて4、50分だからその間は寛げる。


 風呂場から出たところで、さっきのドーラの話を思い出し、まだお土産***が残っていたことを思い出した。

「領都で買ったお土産。せっかくだから今食べようか?」

「いいわね」

「何にする?

 種類はクリームパンケーキイチゴ添えと焼きリンゴの入ったパイとナシが載ったタルトなんだけど」

「中途半端な時間だけど、どうせここから1時間は歩くわけだからクリームパンケーキイチゴ添えが食べたい」

「賛成です」「うん!」


「じゃあ」

 平べったい箱に入ったクリームパンケーキイチゴ添えをテーブルの上に出し、みんなに配った。

「お皿はどうする?」

「ちゃんとした箱なんだからこのままでいいんじゃない?

 お茶のお代わりいる人?」

「お願いします」「わたしも」「じゃあ俺も」

 エリカがポットから濃くなったお茶を各自のカップに注いで、台所の加熱版の上に置いていたヤカンのお湯で薄めてくれた。

 その間にペラがナイフとフォークを台所から持ってきてみんなに配ってくれた。


「やっぱりおいしいー!」

「明日にはまた領都だから、お店で食べられる」

「このまま領都にいるんなら宿屋住まいじゃなく家を借りてもいいんじゃない?」

「家というより倉庫のようなものを借りればどうでしょう。倉庫の中ならウーマを出しておけますし」

「ケイちゃんそれ! 明日は無理だけど、できるだけ早く商業ギルドを見つけて倉庫を借りましょうよ」

「そうだな」


「そうえば、エドが貴族になったら年金が出るじゃない。いくらぐらい出るのかな?」

「月あたり金貨10枚から20枚くらいじゃないか?」

「今のわたしたちだと大したことなさそうな金額だけど、何もしなくてももらえるわけだからかなりの金額よね。

 ところで、エドのうちは前は騎士爵だったじゃない。騎士爵は領主じゃないから当然年金をもらっていたんでしょ? あれってどんな形で受け取るの?」

「うちの場合は、ディアナから人が来て届けてくれていたみたいだった」

「そうなんだ。となると、住んでるところを教えておかないといけないわけか」

「そうなるだろうな」

「わたしたちの場合、住んでいるところはあったとしてもほとんど留守にしているからその辺りは難しいわよね」

「そう言われればそうだけど、その辺りは要相談ってことで何とかなるんじゃないか?」

「それもそうだし、まだ貴族になってもいないうちから心配する必要ないか」

「まあな。

 それはそうと、年金がもらえるとして、これは今まで通りみんなで山分けしよう」

「それはおかしいよ」

「いや、みんなのおかげだったのはいつも通りなんだから当然だろ」

「わたしは受け取れないな」

「わたしもです」

「そう。じゃあ分かった。いくらになるか分からないけれどは全額チームの財布に入れてしまおう」

「それでいいの?」

「うん。だって、ダンジョン金貨のことを考えたら、はっきり言って大した金額じゃないだろ?」

「そう言われればそうだけど」

「じゃあそう言うことで」

「エドって欲がないわよね」

「そんなことはないけど、筋は通した方がいいだろ?」だって俺、リーダーだし。

 金銭欲もそうなんだけど、あっちの方もなんだか減退しているような?


「ねえ、エド。ダンジョン金貨って?」

「ドーラには言ってなかったか。

 俺たちサクラダダンジョンの12階層で大量の金貨を見つけてるんだ。お金と言う意味だと俺たち一生働く必要なんてないんだよ」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」


「ついでに言っておくと、この前ドーラを迎えに帰った時のお土産の水薬あったろ?」

「うん」

「あれも12階層で文字通り大量に見つけているんだ」

「そうなんだ」

「そうなんだよ。

 そういえば、父さんに水薬をある程度渡しとけばよかった」

「エド、明日出発する前に届けてあげればいいんじゃない。会えなくても守備隊の本部の人に渡しておけば届けてくれるわよ」

「それもそうだな。

 いい入れ物がないから宝箱一箱分渡してもいいかな?」

「全然いいわよ」

「もちろんです」


「宝箱一箱分ってどれくらいになるの?」

「黄色と赤それぞれ72本、合わせて144本」

「そんなに」

「うん。関係ないけど、ダンジョン水薬はガラス瓶だから、瓶が箱の中にキッチリ入っていないまま持ち運ぶと瓶同士がぶつかって割れるかもしれないだろ? だから、飲んだら空瓶を戻しておく方がいいんだ」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」

 ほとんど活用されることはないノウハウをドーラに教えておいた。


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